誕生! 千曲川左岸と千曲川右岸のワイン

リヴ・ゴーシュ(左岸)とリヴ・ドロワット(右岸)。

パリを流れるセーヌ川でもなければボルドーのジロンド川でもない。シャトー・メルシャンの新しいワイン、北信左岸シャルドネと北信右岸シャルドネの話である。正確には「シャトー・メルシャン 北信シャルドネ RGC 千曲川左岸収穫 2015年」と「シャトー・メルシャン 北信シャルドネ RDC 千曲川右岸収穫 2015年」という。

 

hokushin_img_1その舞台は北信地方(長野県北部)を流れる千曲川流域だ。千曲川は秩父山地の甲武信ヶ岳にその源をもつが、いったん西へ流れ佐久盆地、上田盆地を過ぎてから北へと向かう。長野市の東縁を北上し飯山盆地を抜けるとこんどは東に向きを変え、新潟県に入って信濃川と呼称が変わる。千曲川が北へと流れる長野市北部(豊野町)、須坂市、高山村一帯が北信シャルドネの産地である。

 

シャトー・メルシャンはこれまで「北信シャルドネ」というワインを造ってきた。

「近年、シャトー・メルシャンはブドウの産地、そのテロワールの特徴を生かして仕込むようにしています。ところが長野県北部地方を意味する北信には、須坂、高山、豊野、長野にブドウ畑があって栽培地域がとても広いのです。それぞれの地域は地形も土壌も異なっており、ワインをブラインド・テイスティングすると味わいもはっきり違うことがわかります。千曲川を挟んで右岸のワインにはミネラル感があり、比較的固くて閉じています。ボディがしっかりしていて熟成の効くタイプのワインになります。一方、千曲川左岸のワインは若い時から開いていて果実味が強く複雑味があります。これまではすべてをアサンブラージュしていたのですが、アイコンワインはもっと狭い地域名を名乗るべきだと考え、それぞれ異なる味わいのままボトリングすることにしました」と、チーフ・ワインメーカーの安蔵光弘は説明する。

 

長野盆地を流れる千曲川の右岸と左岸の特徴をみてみよう。

鉄分をたくさん含むため茶色い流れの松川

鉄分をたくさん含むため茶色い流れの松川

まず右岸の畑の標高は500m~600m(左岸は350m)である。右岸には高山村と須坂市があり、さらにその奥に奥山田温泉がある。右岸を東西に流れる千曲川支流の松川は鉄分が多くて魚の棲めない“茶色の川”として有名だ。その松川がブドウ畑のそばを流れている。

古くはここで善光寺竜眼を栽培していた。しかし生食用と醸造用の兼用品種だったので、生果市場では余り気味。その当時、メルシャンは甲州と同じようなスタイルのワインに仕上げ、「ブラン・ド・ブラン」や「勝沼ロゼ」に一部を使っていたのだった。

1990年代前半に善光寺竜眼からシャルドネに植え替えた。このころピノ・ノワールの栽培も試したが、うまく熟さなかったので早いうちに諦めた。1975年に新鶴地区でシャルドネの栽培を開始していたが、シャトー・メルシャンとしては1976年の桔梗ヶ原メルロー、1983年の城の平カベルネ・ソーヴィニヨンに続く新品種栽培の取り組みだった。

北信右岸・佐藤農園のシャルドネ

北信右岸・佐藤農園のシャルドネ

なだらかな西向きの扇状地になっていて土壌には砂利、それも陸(おか)砂利が非常に多い。鉄分の含有量が多く水捌けの良いのが特徴だ。ここの2.5haに垣根で栽培している。シャルドネが大部分でカベルネ・ソーヴィニヨンとピノ・ノワールが一部植えてある。佐藤宗一さんが栽培を始めた畑で、2004年から息子の佐藤明夫さんが継いでいる。

 

 

北信左岸・吉原畑のシャルドネ

北信左岸・吉原畑のシャルドネ

一方、左岸は豊野町(現在は長野市に合併されている)にある1.43haの畑で、これを7軒の農家が栽培している。千曲川からすこし内陸に入ると切りたった東向きの急斜面になる。ここはかつてのリンゴ農園で、川へと続く平地には稲を植えていた。この一部をブドウ畑に変えた。組合長の吉原さんは2000年にシャルドネを植えたが、いまでも手広くリンゴ農園を切り盛りしている。メンバーには80歳近い人もいて、この人たちは1990年代初めに栽培をスタートしている。いずれの畑も垣根栽培だ。土壌は粘土質が強い。特に斜面の区画の品質が良く、果実が凝縮して果実味が強い。

 

左岸のブドウも右岸のブドウも醸造方法は同じだ。100%樽発酵。春先まで樽貯蔵してからテイスティングして欠点のある樽をそぎ落として選抜する。マロラクティック発酵は部分的に行う。「2015年産はブルゴーニュのスタイルを踏襲しました。樽発酵のあと無理にマロラクティック発酵を起こさせず、春先に自然にマロラクティック発酵の起きたものもありました」。

新樽率は約30%。かつては60~70%と多かったが、いまはなるべく土地の個性を引き出したいので樽が前面に出ないような条件にしているという。

樽発酵ののち、樽熟成へと移行する。酵母由来の澱には抗酸化物質がある。樽発酵をしてから樽で熟成すると、樽香が付きにくいことが知られている。逆にステンレスタンクで発酵させて澱引きを済ませて樽熟成に移ると樽香が強くつくという。樽熟成は約6か月。かつては8か月熟成していたが短くした。収穫翌年の4月、5月になると気温が上がるからだ。まだ気候の涼しいうちに樽熟成を終えてしまうことで樽の成分がワインに溶出しにくくなる。

 

ちなみにシャトー・メルシャンのシャルドネには「長野シャルドネ・アンウッデッド」というワインもある。これは右岸と左岸のブレンドで北信のブドウ100%、ステンレス・スティールで発酵し熟成する。樽はいっさい使わない。チオール系のアロマティックな香りが強く出ている。

 

北信地方は信州リンゴの産地で日本では涼しい気候の地域である。けれどもフランスのシャブリやシャンパーニュに比べるとずっと暖かい。北信シャルドネの総酸度は6.0~6.5g/l。ワインは自然にトロピカルな風味を帯びる。シャトー・メルシャンはボトル熟成に耐えるシャルドネ造りを目指している。(K.B.)

画像提供:メルシャン

画像:チーフワインメーカー 安蔵光弘

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