あたらしいブドウ産地、信州・安曇野

安曇野で連想するのはなんだろう。

北アルプス、美術館、湧水、山葵田、蕎麦、、、うーん、そんなところか。

その安曇野でメルローを栽培してみたら、これがなかなかいける。あらたに信州のワイン産地の仲間入りをしたようだ。いずれは「安曇野といえばメルロー」になるかもしれない。

 

安曇野の立地を確認しておこう。塩尻市と諏訪湖のほぼ中間にある善知鳥(うとう)峠は中央分水嶺のひとつである。ここから南側の雨は天竜川から太平洋へ流れ、北側の雨は犀川、千曲川、信濃川を経て日本海へ流れる。塩尻には桔梗ヶ原があり、ここはすでに日本を代表するメルローの産地である。その桔梗ヶ原から少し北へ向かうと松本平が広がり、松本平の北辺に安曇野はある。

 

ブドウ畑のある北安曇郡池田町は、松本平の北部に位置しており、西向き斜面に拓かれたブドウ畑からは北アルプスの常念岳を望むことができる。

この畑の起こりはそれほど古い話ではない。行政が果樹栽培用に土地を造成して民間に売却した。JAの職員だった横山嘉道さんがそれを購入し、2007年から2008年にかけてブドウを植栽した。2haにメルロー80%、シャルドネ20%の割合で植えた。栽培のアドバイスはメルシャンが行った。作目すべてがメルローだと作業リスクが大きいのでリスク分散のためにシャルドネも植えたという。

 

katsuno1勝野泰朗(やすあき)はシャトー・メルシャンの栽培責任者で桔梗ヶ原の近くに住んでいる。2008年1月~2010年8月にかけてボルドーのシャトー・レイソンで栽培研修を積み、2010年にはブルゴーニュのアルベール・ビショーで、2011年と2012年はサンテミリオンのパヴィ・マカンでワインの仕込みをした。帰国後、ずっと桔梗ヶ原でメルローの栽培に携わっている。その勝野が安曇野メルローも担当した。

 

勝野に安曇野のテロワールを聞いた。

土壌は表土が薄く礫質が主体で痩せていて、水捌けがよい。これは北アルプスの隆起によってできたものだ。マリコ・ヴィンヤードは重い粘土質で、桔梗ヶ原は黒ボクと呼ばれる火山性土壌、それほど離れていないけれど土壌の特徴はずいぶん違う。安曇野は降水量も少ない。周囲を大きな山に囲まれた内陸性気候で畑の標高は600mである。

 

ブドウ樹の仕立て方はギュイヨダブル。片翼が80cmで樹間2m、畝間2.5m。しかし勝野はこの仕立てに改良を加え、樹のバランスの悪い区画をコルドンに変えている。安曇野の地勢や風の強さなどを考慮するとコルドンの方が良い区画もあると判断したからだ。畑は全部で9区画に分かれており、1区画と5区画にシャルドネを植え、残りがメルローだ。

 

収穫量は1ha当たり8トン。しかし“赤熟れ”と呼ばれる未熟果が混じっていることが多かった。それで試験的に一部の区画(ギュイヨダブルの区画)に限って冬の剪定をきつくして収量を落としたら、良く熟し、果皮の色が安定してきた。アントシアンがずいぶん多くなっている。ワインをブラインドで試飲しても他の産地のメルローとの差がなくなってきた。今後はこの剪定の仕方を全区画へ広げようと勝野は考えている。ここでもハクビシンやタヌキなど小動物の食害はある。しかしマリコと違ってシカはいないという。

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安曇野メルローは2011年初収穫。これまではシャトー・メルシャンの売店で販売されたり、長野メルローにブレンドされたりしてきた。6か月樽熟成、瓶詰後すぐに出荷する軽快な早飲みのワインだ。ヴィンテージを重ねるごとに酒質がしっかりしてきたので、2015年産から全国発売することに決めた。全国発売することによって「安曇野」という産地が認知される。それが良いものを作ろうとする生産者のモチベーションにもなる。

 

安曇野メルローはレスベラトロールの含有量が多いという特徴がある。レスベラトロールは動脈硬化や認知症予防に効果があるとされる抗酸化物質だ。安曇野のメルローにレスベラトロールが多いのは、この斜面はいつでも風が強いことと関連しているのではないかといわれている。

 

勝野泰朗の話は聞いていて気持ちがよい。言葉で飾り立てることをせず、事実を並べ、スパっと評価する。

「安曇野はこれから期待できる産地です。けっこうおいしいメルローになりますよ」。

勝野が言うから間違いない。(K. B.)

画像提供:メルシャン

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