エディターズ・チョイス2016 〜今年最も印象に残った銘柄・出来事〜

最も印象に残った銘柄 by K. Bansho

<500年、悠久の眠りから覚めたパイス サンタ・ディグナ・エステラド・ロゼ・ウバ・パイス>

何にしようかずいぶん迷った。

前年同様、南米ワインから選ぼうと決めて、それからまた迷った。そしてエステラドにした。決め手は値段と味わいのバランスの良さである。6月初め、クリコにあるミゲル・トーレス・チリのワイナリーで試飲したのは2014年産パイスで造ったエステラドだった。久しぶりに会ったら、とても上品で洗練された味わいになっていて驚いた。

 

エステラドに初めて会ったのは2009年のこと。醸造責任者のフェルナンド・アルメダが、「おもしろい実験の最中なんだけど、試してみるかい」と言って、ラベルのない数本のスパークリングワインを出してきた。

ミゲル・トーレス・チリとタルカ大学は、2007年に、政府機関の農業改良基金FIAからパイスの救済策を見つけてほしいと頼まれた。チリ南部のマウレ、イタタ、ビオビオには7,000haのパイスがあり、これを8,000軒の零細農家が栽培している。ながらくバルクワインの原料になっていたが、近年、この需要が急激に落ちているので、何か新しい使い途を見つけて農家とパイスを守りたいとのことだった。

 

パイスはスペイン原産のリスタン・プリエトというブドウで、16世紀、キリスト教の布教とともにアメリカ大陸に持ち込んで植えたとされている。メキシコやカリフォルニアではそのままミッション(布教)と呼ばれ、アルゼンチンではクリオジャ・チカ(スペイン系移民の女の子)になり、チリではパイス(カントリー)の名前で知られている。19世紀半ば、ボルドー品種が移植されるまで、チリのブドウ畑はずっとパイスが主役だった。

 

フェルナンドは彼の故郷・ペネデスのカバのようにボトルで二次発酵をするパイス・スパークリングワインを造ろうと決め、2008年から3年がかりのプロジェクトをはじめた。カウケネス、サン・ハビエル、ジュンベルの畑からパイスを集めて、2008年はブラン・ド・ノワールを造った。2009年は通常より2週間早く摘んだものやロゼ製法にしたものなどを加えて12の異なるサンプルを造った。それを試飲させてくれたのだった。

エステラドを造ったフェルナンド・アルメダ

 

2009年の私のメモは、2008年産は、「香りのボリューム、味わいの厚みがあり、活き活きした酸のジュンベル(ビオビオ)のサンプル」を、もっとも高く評価をしている。2009年産は早く摘んだブドウの瑞々しさが際立っており、カウケネス(マウレ)産は香りが華やかになっている。「2010年にどういう判断を下すのか分からないが、パイス・スパークリングワイン実現の可能性は大きいと思う」とメモは締めくくっている。

 

ところが2010年2月27日、コンセプシオン沖の大地震に見舞われて、熟成中のボトルが割れ、2010年の収穫にも大きな障りがでた。3年プロジェクトは、2012年までの5年になり、2012年産がエステラドの初ヴィンテージになった。いま販売されているのは2014年産で3回目の製品だ。9月にロンドンで開催されたシャンパーニュ&スパークリングワイン・ワールド・チャンピオンシップCSWWCで世界最優秀賞を獲得した。

 

1本2,200円。500年の眠りから覚めたパイスの実力をぜひ試していただきたい。

 

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