本坊酒造「マルス津貫蒸溜所」竣工 ジャパニーズウイスキーに南の風を

既報の通り、本坊酒造は昨年11月10日、発祥の地に「マルス津貫蒸溜所」を竣工した。これで、「マルス信州蒸溜所」との2蒸溜所体制となり、冷涼な気候の長野とは対照的に、温暖湿潤な鹿児島の気候から生まれる新しいタイプのウイスキー造りが可能となる。

11月7日の竣工記念式典に参加するため、たまたま前日までいた長野県小諸市から鹿児島県南さつま市へと向かったので、その「温度差」※を肌で実感することができた。

この日、地元日刊紙「南日本新聞」の朝刊には、「津貫から世界へ。マルスウイスキーの新たな挑戦がはじまる。」との両面カラー広告が掲載された。3年後には南国の気候に育まれた鹿児島らしさ溢れる力強いウイスキーが世界に羽ばたくことが期待されている。

当日は秋晴れに恵まれ、来賓の鹿児島県副知事、南さつま市長をはじめ、施工業者、取引先など多数の関係者が臨席する中、竣工記念式典が執り行われた。

※信州と津貫の「温度差」

北緯 標高 平均気温 気温 年間気温差 平均湿度 平均気圧
信州 35° 約800m 11℃ -15~33℃ 48℃ 約65%~67% 10hPa
津貫 31° 約60m 18℃ -2~36℃ 38℃ 約70%~72% 17hPa

 

ウイスキー事業67年目の挑戦

冒頭、本坊和人社長は「1949年に鹿児島でウイスキー製造免許を取得してから67年目を迎えた。この間は山あり谷あり、どちらかというと谷の方が多かったが、お陰様で2番目の蒸溜所を竣工することができた。これにより製造数量は倍増し、異なる気候から生まれる新しいタイプのウイスキー造りが可能となる。世界的にジャパニーズウイスキーのニーズが高まる中で、マルスならではの新しい価値を生み出していきたい。2020年のオリンピックイヤーには、最初のシングルモルト(3年物)を出せるのではないか。現在、売上高の約3割は海外との取引になっている。ウイスキー事業100年の節目に向けて、ワールドワイドにビジネスを展開できるよう、新たな挑戦の第一歩にしたい」と挨拶した。

竣工記念式典報道記者発表会で挨拶する本坊和人社長。(左から)土屋伸寿津貫蒸溜所所長、谷口健二常務取締役南九州事業部長、折田浩之経営企画本部津貫プロジェクト責任部長

 

 

維新の志士のような力強いタイプに

南国でのウイスキー造りは、熟成が早く進む。軽いタイプのニューポットだと樽からの溶出物が早く出すぎてバランスが悪くなる。「出来れば非常にボディのあるしっかりとしたタイプを造りたい」と本坊社長。

こうした中で、原酒の酒質設計を担当した谷口健二常務取締役南九州事業部長は「鹿児島には、ランドマークである桜島や明治維新を導いた薩摩の志士の印象があると思う。同じように、津貫では力強いタイプのニューポットを造るのに適した“オニオン型”の初溜釜を採用した。釜の形状が玉ねぎに似ているのでそう呼ばれている。これは世界でも珍しく、おそらく国内初ではないか。この形状により内部で蒸気の対流が少なく、ストレートに醪の香味成分が蒸留液に反映される。グローバルな視点からも、本土最南端の蒸溜所では、これまでのジャパニーズウイスキーとは違った印象を与えるウイスキー造りを行っていきたい」と抱負を語った。

ちなみに、信州の蒸溜釜は同社の顧問であった岩井喜一郎氏が設計した「岩井式」で、こちらは「スワンネック型」。摂津酒造の常務であった岩井氏は大学の後輩であったニッカウヰスキー創業者竹鶴政孝氏を、本格ウイスキーをつくるためにスコットランドへ派遣するなど、国産ウイスキー誕生の一翼を担ったことで知られる。

 

(中略)

 

求めるニューポットへ試行錯誤続く

新設したステンレス製の発酵槽を背に、草野辰朗さん

津貫でのウイスキー製造を担当するのは若手のホープ草野辰朗さん。鹿児島大学大学院の焼酎学講座で醸造学を学び、2013年4月に本坊酒造に入社した28歳。信州でウイスキー造りを経験し、津貫の立ち上げに携わった。技術面では、信州の竹平考輝所長らが支える。

既に10月から新しい蒸溜釜での試運転を開始し、酒質の安定を図っている。

蒸留酒であるウイスキーの原酒製造においては、どうしてもポットスチルの形状や樽熟成の環境に主眼が置かれる。そうした中でウォッシュバック(発酵槽)、さらにその前段となるマッシュタン(仕込釜)など、醸造工程全般にも視野を広げて、目指すべき力強いタイプのニューポット造りに向けて、真摯に取り組んでいる草野さんの姿が、とても印象的だった。

 

南国のウイスキー造りに注目集まる

「もし、岩井先生が生きていたら、マルス津貫蒸溜所について何というでしょうか」と不躾ながら、本坊社長に質問してみた。すると、「当時の常識から言ったら、岩井先生は予想だにしなかったのではないか。ただ、現実は、(平均気温が高いことから、熟成のピークが早く、ウイスキーの製造・熟成が困難と見られてきた)台湾のカバランが世界最高賞を受賞するなど、南国でのウイスキー造りが世界的にも注目されている。そういう大きな時代の変化の話をしたら、きっと大いに賛同してくれると思う」という答えが返ってきた。

 

2018年のNHK大河ドラマで『西郷(せご)どん』が放映されることが決定した。朝の連続テレビドラマの“マッサン効果”で国産ウイスキーが脚光を浴びたことは記憶に新しい。大河ドラマでは2008年の『篤姫』に続き、再び鹿児島にスポットライトが当たることは、マルス津貫蒸溜所にとっても追い風となるだろう。「天気と食は西から変わる」といわれるが、ウイスキーではどんな南の風を吹かせてくれるか、今から楽しみだ。(A.Horiguchi)

 

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画像:オニオン型の初溜釜。奥はストレート型の再溜釜

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