創業100周年を迎えたサドヤ 4代目が語るワイン造りの歴史とこれから

山梨のワイナリー・サドヤが今年、創業100周年を迎えた。

サドヤは日本で初めて欧州系の醸造用専用品種でワインをつくり、特に自社畑で栽培されたセミヨンとカベルネ・ソーヴィニヨンでは独特の味わいをもつワインの造り手として知られている。創業者である今井精三氏のひ孫にあたり、4代目となる今井裕景氏がこのほど、赤・白計6本のワインの試飲を交えて、これまでの100年におよぶワインづくりの歴史とこれから目指すサドヤのワイン・スタイルについて思いを語った。

サドヤの創業は大正6年(1917年)。甲府で洋酒・ビールなどの代理店「サドヤ洋酒店」を営んでいた今井家6代目の精三が、出資先であった東洋ぶどう酒の倒産に伴い、自らワインの醸造販売に乗り出したのがきっかけだったと言われる。しかし当時、ワインは広く飲まれるお酒ではなく、つくったお酒は滋養強壮、鉄分補給ができる「甲鐵天然葡萄酒」として、地元の旅館向けに小さなリキュールグラスを配りながら販売された。この「甲鐵」のトレードマークは、今もシャトーブリヤンなど自社畑ぶどうを使ったワインのラベルに使われている。

それからほぼ20年、転機は1936年に訪れた。赤玉ポートワインのような甘口ワインの人気はいずれ廃れる、これからはワイン専用品種を使った本格的なワインづくりが必要だと考えた精三は、長男の友之助とともに葡萄栽培に乗り出すことになる。

今井裕景氏(左)と、セミナーでともに講師を務めた沼田実氏

善光寺が所有していた山の斜面を譲り受け、約5haの畑を開墾した。一口に開墾とはいっても、平均斜度18度、スキーの中級クラス並みの傾斜をもつこの土地を全て人の手で拓くのは容易なことではない。土中から出てきた安山岩を石積みしテラス状に均し、2本の用水路も敷設した。同時に、モンペリエから約80種の苗木を輸入したものの、船便で2か月かけて横浜港に到着した頃は枯れてしまう。3度目の輸入でやっと植樹できる苗木を手にいれたという。

以来80年、標高差約50mある一枚畑のサドヤ農場では、上部にカベルネ・ソーヴィニヨン、下部にセミヨンが棚式で栽培されている。この棚はポールを立てて上からワイヤーで支えるという独特なもの。しかも、ワイヤーはステンレス製のためさびたり伸びたりしない。当時としては極めて革新的で、しかも大変な投資であったに違いない。

「2016年に2500万円かけてレ-ザー式選果台を導入した。しかし、農場はサドヤの原点であり、ワインの味わいの95%は畑で決まる」と、裕景氏。

 

シャトーブリヤン ミュール サドヤ農場白 100%自社畑産セミヨンを使い、2013年産を中心としたマルチヴィンテージのワイン。アロマは控え目ながら、円みをもった酸と心地良いタンニン。「サドヤのワインづくりの基本テーマは日本人の嗜好にあった風味。セミヨンは酸がゆっくりと控え目に出てくる。このワインはスタイルが安定し、サドヤの中で一番CPが高いとの評価を受けている」。

シャトーブリヤン2014白  全量自社畑のセミヨンを使った、ミディアムボディの辛口ワイン。生産量は4000本弱。2012年からタランソー新樽を中心に小樽発酵を実践している。和柑橘と上品なバニラ香、クリーミーな食感はボルドー辛口白と見分けがつかない。「セミヨンは長熟のワイン。つくって10年ぐらいはあまり変わらないが、それから先が旨しくなってくれれば良い」。

シャトーブリヤン1970白 黄金色で、熟した果実やオレンジピールなど、きれいな熟成感をもった辛口。地下セラーのなかで一升瓶に詰めて長く寝かされていたワインを、年に1回、普通瓶に移し替えて商品化。セミヨンの長熟のポテンシャルを見事に表現している。

シャトーブリヤン2012赤 自園のカベルネ・ソーヴィニヨンを100%使用。エッジに少しガーネットの色調。シガーや乾燥したイチジク。口のなかではしなやかでややねっとりとした独特の舌触りが感じられる。「祖父は、“うちのカベルネはピノ・ノワールのようになる”と語っていた。最近になってこの言葉の真意が分かるようになった。だから、凝縮はあまり重視していない。渋みをきれいに伝えるのがサドヤのスタイルであり、このワインは熟成すると逆に果実の風味が増してくる」。

 

1992年から5年間渡仏し、コス=デストゥルネルなどでも修業し、2007年からサドヤのワインづくりに携わっている裕景氏。

「シャトーブリヤンは、“いつでも輝き続ける存在”でありたいという思いを込めて、1950年に祖父が命名したワイン。自分も、バランスがあって人に優しく、甲府の土地を反映したオリジナルなサドヤのワインをつくっていきたい」と締めくくった。(M. Yoshino)

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