シャトー・ムートンの系譜に連なる ラングドックのグランクリュ的存在 ドメーヌ・ド・バロナルク

マダム・フィリピーヌ・ド・ロッチルドが世界に通用する高級ラングドックワインを作るために取得したドメーヌ・ド・バロナルクが間もなく20 周年を迎える。ドメーヌ取得以来、ドメーヌ・ド・バロナルクの管理責任者をつとめるヴァンサン・モンテゴにドメーヌの変遷と現状を聞いた。

 

ドメーヌ・ド・バロナルクは17 世紀に作られた伝統を持つドメーヌだが、買収した時、36ha の葡萄畑のほとんどが放棄された状態だったため、3 つの区画を除いて全て引き抜き植え替えた。現在、作付面積は計43ha でうち11ha にシャルドネ、32ha に赤ワイン品種(メルロ、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニョン、シラー、マルベック)を植えている。

ドメーヌの買収は1998 年だが、ドメーヌの名を冠したボトルの生産が実際に始まったのはINAO がAOC リムーを認可した2003 年産からだ。当初はドメーヌ・ド・バロナルク赤のみだったが、2008 年にセカンドワイン赤、2009 年に白の生産を始めた。

リムーから高速道路に乗りボルドーに向かって北上すると分水嶺と表示したパネルが目に入る。降雨が大西洋に注ぐか地中海に注ぐかの分岐点で、大西洋気候と地中海性気候の分かれ目にもなっている。

「リムーは地理的に分水嶺に近い中間点にあり、地中海性気候と大西洋気候の影響を受けているが、加えてピレネー山脈の影響も強く受けている。ラングドックに属しながらも、フレッシュで複雑性を持つユニークなワインを生み出すのは、こうした独自のテロワールが背景にある」と、ヴァンサンは説明する。

 

<ラングドックのムルソー、バロナルク白>

シャルドネ100%で作る。1ha 当たりの植樹密度は畑により4500 本または7500 本。手で収穫し、12kg 入るプラスチックケースで醸造所に運び、収穫葡萄の大部分を房ごと直接プレスし、一部を2 時間程度スキンコンタクトした後に圧搾する。例えば、現在販売中の2015 年産は直接プレス88%、スキンコンタクト12%のブレンドだ。100%樽で発酵し、その後、樽で約8 か月熟成する。当初は新樽比率が50%を超えていたが、現在は新樽40%、1 年樽40%、2年樽20%程度に落ち着いている。樽の要素が溶け込んでいてほとんど感じられない。繊細で心地よく、複雑で新鮮なアロマが長く持続する。マロラクティック発酵の割合も当初より下げており、2015 年産の場合、マロラクティック発酵を施したのは全体の7%のみ。シャルドネは、既に一定の樹齢に達したグルナッシュに3種類のクローンを接木したもの。

最初からかなり内容のあるワインができたのはこのためだ。また、ラングドック白は最適な栽培条件を探さないとすぐに味わいが重くなるが、畑が標高250m~350mの冷涼な高地にあるため生き生きとした活力のある酸が保たれている。パーカーがドメーヌ・ド・バロナルク白に高得点を付けている他、世界最優秀ソムリエのマルク・デル・モネゴもドメーヌ・ド・バロナルク白をラングドックのムルソーと高く評価している。

 

<シラーを強調したキャピテル赤>

セカンドワイン赤のキャピテルはドメーヌ・ド・バロナルク赤のセレクションを完璧に行うために作られたものだ。しかし、セカンドワインとして残ったものをさらに選別し、20~30%をサードワインとしてネゴスにバルクで販売している。セカンドワインとはいえキャピテルの質は高く安定している。

ドメーヌ・ド・バロナルクの最大の特徴はボルドーの品種と地中海地域の品種をブレンドしていることだが、特にセカンドワインのキャピテルはシラーの割合が多い。ミレジームによるがだいたい30~35%をブレンドしており、地中海ワインの個性がより強く出ている。熟成に使うのは1 年樽のみ。新樽は全く使っていない。熟成期間も6 か月と短い。だから、ボトルを購入してからそれほど長く寝かす必要はない。

現在市場に出ている2014 年産キャピテル(メルロ47%、カベルネ・フラン10%、シラー26%、マルベック17%)を試飲直前にカラフに移して味わったが、既に素晴らしいバランスを得ており、果実味を楽しむことができた。僅かにスパイシーなニュアンスが感じられるが新鮮でエレガント。

 

<ボルドー品種のドメーヌ・ド・バロナルク赤>

現在、市場で販売されているドメーヌ・ド・バロナルク赤は2014 年産。品種構成はメルロ46%、カベルネ・フラン28%、カベルネ・ソーヴィニョン4%でボルドーの品種が主体だが、これにシラー13%、マルベック9%をブレンドしている。粘土石灰質土壌で標高が高く冷涼なドメーヌ・ド・バロナルクの畑には、カベルネ・ソーヴィニョンよりカベルネ・フランが合うという。

「ボルドーでは特に右岸でカベルネ・フランの割合が多い。このため、ドメーヌ・ド・バロナルクをボルドーのサンテミリオンになぞらえる人もいる」と、ヴァンサンはカベルネ・フランのすばらしさを強調する。

樽熟成は12 か月。新樽、1 年、2 年、3年の樽がそれぞれ25%ずつ。1ℓ当たりのタンニン量はセカンドワインの3.8g より多く4gある。だからしっかりした構造、骨組みを感じるが、収斂する攻撃的なタンニンは全くない。しなやかで繊細、アロマが長く続く。ボルドーのアクセントに地中海ワインのニュアンスが混じり合い、独自のアイデンティティを主張している偉大なワインだ。

ドメーヌ・ド・バロナルク赤が時間とともにどのように変化するか、その一例として2007年産を試飲した。現在販売している2014 年産と比べると僅かに溶け込んだ色合いだが、ほとんど区別のつかない若々しいカベルネの色を保っている。香りも新鮮だ。口に含むと、全ての要素が溶け込み、奥行きのあるバランスのよいワインに仕上がっていることがわかる。10 年の熟成を経てこれほど素晴らしい調和を保っているワインはラングドックでは珍しい。バロン・フィリップ・ド・ロッチルド・グループのワイン造りのノウハウが注ぎ込まれている紛れもない証を感じ取ることができる。

「我々はボルドーのプルミエクリュ・クラッセ、ムートン・ロッチルドのメンバーとの交流を頻繁に行っている。例えば、ドメーヌ・ド・バロナルクのブレンドにはドメーヌ管理責任者の私とメットル・ド・シェのファブリス・ブリエ、耕作責任者のディディエ・ドゥジロの3 人に加えてシャトー・ムートン・ロッチルドから総責任者のフィリップ・ダルアン、技術部門のディレクター、エリック・トゥルビエの2 人が加わる。

これによって、バロン・フィリップ・ド・ロッチルドのスタイルが刻印されたワインができあがる。

そしてドメーヌ・ド・バロナルクは、ボルドーのシャトー・ムートン・ロッチルド、カリフォルニアのオパス・ワン、チリのアルマヴィーヴァと同様、ロッチルド・ファミリーの作る高級ワインの中に確実に位置づけられている。ただ肉付きのよさと力強さだけを強調したボディビルダーのような南のワインではない。長く高級ワインを作ってきたムートンのエスプリが息づいている」と、ヴァンサンは胸を張る。

当初、ドメーヌの表記はBaron’arques としていたが、2015 年からBaronarques となった。また、ドメーヌのエンブレムとして使われている古代建築の仮面装飾マスカロンをやや現代的なものに改め、ネックの部分にロッチルド・ファミリーのシンボル、5 本の矢の印を付けるなどボトルの外装が少し変化し、より洗練されたものに生まれ変わった。 (T.Matsuura)

トップ画像:17世紀にリムー近郊のサン・ポリカルプ村の大修道院に属していたドメーヌ・ド・バロナルク。現在の建物は、1875年にドメーヌを引き継いだテイセール家が1900年に建てたもの。

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