優良クローンの育苗を進めるペサック・レオニャンのCh.ラトゥール・マルティヤック

1953年のグラーヴ格付けで赤ワインが、続く1959年の格付け改定で白ワインもクリュ・クラッセに認定されているシャトー・ラトゥール・マルティヤックが2000年代に入ってさらに大胆な改革を進めている。12世紀に建てられた塔に因んでかつてシャトー・ラトゥールと呼ばれていたこのエステートのワインは、著名なネゴシアンの創始者エドゥアール・クレスマンが独占販売権をもって毎年買い付けを行ってきたが、1930年に息子のアルフレッドがシャトーを購入。以来、シャトー・ラトゥール・マルティヤックと改称し、現在へと続いている。黒と金のストライプに、メスライオンと二つ星、剣の紋章をあしらったアールデコ調のラベルは1937年、英国のジョージ6世の戴冠式でワインが供されたことを契機に変更されたものだ。

ペサック・レオニャンにある50haの畑の内、40haが黒葡萄。55%を占めるカベルネ・ソーヴィニヨンを筆頭に、メルロとごく少量プティ・ヴェルドが栽培されている。残りの10haはソーヴィニヨン・ブランが60%、セミヨン40%という構成。特に、“Gratte-cap” と呼ばれる0.8haの区画はフィロキセラ禍の後、1884年に改植されたセミヨン、ソーヴィニヨン・グリ、ソーヴィニョン・ブラン、ミュスカデルの古木がいまも栽培されている。ここでは40~50もの多様なクローンが存在していることが分かり、98年からマサル・セレクションを始めた。

コンサーバトリーと名付けた新たな区画をつくって優良穂木の選抜育苗を行っている。ここで選ばれたクローンは、さらに6~10リットル容量のタンクで小仕込みを行い、味わいの特徴を解析。2014年からは最も優れたセミヨンのクローンを再植樹している。

シャトー・ラトゥール・マルティヤックのワインづくりの哲学は、「エレガントでバランスがとれ、複雑みに富んだ味わいを表現すること。特に、古木のセミヨンは白ワインに素晴らしいボディを与えている」と、シャトー・オーナーとしてはクレスマン家4代目に当たり、ブランドアンバサダーを務めるエドゥアール。彼の父ルイックは現在、シャトーのマネージング・ディレクターを務めているが、「私は生後5日目から醸造タンクに囲まれて育てられてきた。10歳の時からシャトーの中で、ポンプのスイッチを入れたり切ったりして働いてきたが、いずれは父のようにワインを造りたいと思ってきた」という。

1990年代以降20年以上に亘ってシャトーの醸造責任者を務めているのはヴァレリー・ヴィアラール。グラーヴ地域では初めての女性醸造家だ。また、1985年からドュニ・デュヴルデューがコンサルタントを務めてきた。95年からの10年間はミッシェル・ロランも参画していたが、2006 年以降は(ドゥニ亡き後の)現在もクリストフ・オリヴィエをはじめとするデュヴルデューのチームがコンサルティングを行っている。「ミッシェルの時は瓶詰め直前にブレンドを行っていたが、現在は抽出しすぎないように注意しながら早めにブレンディングを行い、各品種がなじんで行く中からバレルセレクションを行っている」という。

Lagrave-Martillac Blanc 2014

ラトゥール・マルティヤックのセカンドワイン。100%樽発酵したソーヴィニヨン・ブラン80%とセミヨン20%をブレンド。1月に行う試飲でロットを決め、アサンブラージュしてからタンクで熟成を行っている。フレッシュで飲み口の良い味わい。

Chateau Latour Martillac Blanc

ガロンヌ川が運んだ砂利混じりの粘土質と石灰岩が入り組んだグラーヴ特有の特徴を生かした繊細、優雅で切れ味の良い味わい。1995年産はセミヨン55%、ソーヴィニヨン・ブラン40%、ミュスカデル5%という構成。これに対して2013年の白はソーヴィニヨン・ブラン70%とセミヨン30%という構成で、25%は新樽を使い15か月澱と一緒に熟成させている。ソーヴィニヨンの比率が上がっていることについて、「市場がよりフレッシュでクリスピーな味わいを好んでいる。しかし、真の白ワイン愛好家のために、フレッシュさ、ジューシーさを保ちながら複雑さも大事にしていきたい。2015年以降は熟成力のあるセミヨンの比率を40~45%まで上げている」という。

Chateau Latour-Martillac Rouge

カベルネ・ソーヴィニヨン65%にメルロ32%、プティ・ヴェルド3%という品種構成でつくられた2005年産はグラーヴ特有のヨード香や土っぽい香りが豊かで、同時にフレッシュさも保っている。小売価格は1万2000 円。2011年産は7600円というから、価格高騰気味のメドックワインと比べればかなりお買い得。このワインは日本でも百貨店を中心に過去40 年にわたって紹介されているというが、ペサック・レオニャンのポテンシャルを知らしめる好例。レストランでもっと注目されてしかるべきだろう。(M. Yoshino)

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