フランス・ビオディナミの揺籃の地 アルザスのビオディナミ農法

アルザスでビオディナミ農法が活発な理由に、その特殊な気候を上げる人が多い。南北約100km に渡って広がるアルザスの葡萄畑は、ヴォージュ山脈によって大西洋からの影響が完全に遮断され、年間降雨量は東京の3分の1の600mm 足らず。フランスで最も降雨量が少ない地域の一つだ。それでも、土壌には保水力があり、年間を通じて地下水位が極端に下がらず農業には適している。こうした自然条件に加えて、アルザスの耕作者の性格がドイツ語圏の影響をうけてとても厳格で、細かな作業の必要なビオディナミ農法に適しているという。

 

フランス・ビオディナミの会MABDによると、フランスのビオディナミ発祥の地はアルザスで、1925 年にあるドメーヌがビオディナミ農法を始めたとしている。そして戦後、1958 年にストラスブールで約100 人のビオディナミ支持者が会員になってビオディナミ・カルチャー協会が旗揚げされた。

 

葡萄栽培におけるアルザスのビオディナミの歴史は1969 年にコルマールから南に20kmほど下ったベルゴルツ村の栽培家ユジェーヌ・メイエが、農薬によるひどい中毒症を患い、農薬を使わない栽培法としてビオディナミを採用したのが始まりだという。

 

ユジェーヌ・メイエに続いてアルザスでビオディナミを取り入れたのがパフェンハイム村の栽培家ジャン・ピエール・フリックだ。1970年に12ha の葡萄畑をビオ栽培に切り替え、その後ドイツでビオディナミ農法を学び、1981年からビオディナミの耕作を始めた。さらに、フランスのビオディナミストの草分け、フラソワ・ブシェの指導を受け、1986 年にデメテールの正式認証を得た。環境に配慮した持続可能な農業を意識してビオディナミを取り入れた最初の栽培家だろう。

 

その後、1989年にビオディナミを導入したのがアンドロ村の栽培家マルク・クライデンヴァイスだ。幅広いビジョンと独特の栽培哲学を持ち、アルザスのビオ栽培に大きな影響を与えたマルク・クライデンヴァイスは1999 年にコスティエール・ド・ニームに別のドメーヌを求めて移り住み、アルザスのドメーヌは2007年に息子のアントワーヌが引き継ぎ、ビオディナミを続けている。

 

アルザスにビオディナミの大きな波がやってきたのは1990 年代後半だ、ロワールやブルゴーニュでビオディナミを実践していた栽培家がアルザスを訪れ、講演や研修会を開き、多くの栽培家にインパクトを与えた。今回のルポルタージュのために訪問した7 つのドメーヌは、いずれもこの時期にビオディナミへ転換している。

 

よく知られているように、アルザスワインは戦後長く大量収穫の日常消費ワインを作ってきた。だから1980 年代まで国際的な名声をもつ個人栽培家は皆無だった。アルザスワインの輸出を牽引し、アルザスワインの名声を高めたのはヒューゲル、トリンバック、レオン・ベイエといったネゴシアンだ。

 

しかし、1990 年代に入ってからレオナルド・フンブレヒト、ファレール、ジャン・ミッシェル・ダイスなど個人栽培家が頭角を表してきた。興味深いのは、彼らが一斉にビオディナミを採用し、ドメーヌのテロワール価値を前面に出して高い評価を得たことだ。(M.Matsuura)

 

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