ボバルとDOウティエル・レケーナの展望 Bobal & DO Utiel Requena in Valencia, Spain

「ボバル」という品種も「DOウティエル・レケーナ」という産地も、まだ日本では市民権を得ていないように思う。2700年以上もワイン造りを産業としてきた地域にも関わらず、長年バルクワインとして扱われてきたからだ。しかし現地へ赴くと、この土地ならではの品種ボバルになんとしても光を当てたいという情熱や活力が感じられた。歴史や気候、ボバルの特性、そして熱血漢たちを紹介する。

 

<ウティエル・レケーナ>

 ウティエル・レケーナは、バレンシア州の内陸部に位置している。オレンジ、あるいはパエリアで有名な州だ。一大都市であるバレンシア市から約70km西へ入ると、ウティエルやレケーナなど9つの市町村があり、1957年にDOウティエル・レケーナが認定された。総面積は35,000haで、51軒のワイナリー(瓶詰め生産者)がある。

 

<気候と土壌>

スペインの内陸部は標高が高い。この地域も標高700〜900mもある。ふたつの大きな川が流れ山に囲まれている盆地で、大陸性気候と地中海性気候と両方の影響を受ける。寒暖差が激しく、年間の日照時間は2,800時間もある。冬には雪が降ることもあるが、夏はとてもドライで乾燥に強い品種でなければ生きていけない環境にある。年間の降水量は約450mmと少ないが、その恩恵でほぼオーガニックで栽培できる。土壌は川に由来する沖積土壌と粘土石灰質土壌が見られる。

 

<古代醸造所の遺跡>

 気候や土壌の解説を受けるといかにもブドウ栽培が発展しそうな立地であるとわかるが、それはすでに2,700年以上前にフェニキア人が見出していた。レケーナ市のドゥーケ村のオーセス・デ・ガブリエル自然公園内の「ラス・ピリリャス」を訪ねた。

途中でバスを降り、林と乾燥した斜面に岩がゴロゴロとしている地を歩いた。2700年前にイベリア人が歩いたのと同じ道だ。舗装もされていない。この近辺から昔のアンフォラの破片も出てきているので、古くからこのあたりに何かがある、ということは近隣の人々はわかっていたようだが、本格的な発掘調査が始まったのは1980年代になったからのことだ。土の中に埋もれていたアンフォラ、コップ、ブドウの種も見つかった。

実際のワイン造りはイベリア人が行なっていたが、教えたのはフェニキア人だった。この土地は「ソラナ(太陽=ソル、より)」と呼ばれていたという。日照に恵まれているため、アルコール度数が高いワインが造れる。それは保存可能なワインとして重宝された。その結果、ワイン造りに適しているとしてイベリア人が定住した。

アンフォラに詰められた出来上がったワインはガブリエル川を使って地中海までワインを運び、そこからフェニキア人が輸出していたのだと考えられている。

丘の斜面にある遺跡は、石灰岩をくり抜いたラガールのようなものだった。2段階になっており、上の石の器にブドウを投入し、その上に板を置き、テコの原理で棒を使って板を上から押して圧搾する。果汁が上の石の器の側面に開けられた穴から出て、下の石の器に流れ出る。

こういった仕組みの遺跡が16ヶ所見つかっており、一ヶ所で2,000ℓのワインができるという。また、15km先にはアンフォラを作る作業場も見つかった。この地域で当時既にワイン造りが産業として成立していたのだ。

 

<ボバル>

35,000haの畑のうち75%がボバルで、その3分の1が1900〜1975年植樹の古木だ。とても古いものは自根のままだが、近年は干ばつに耐性のある台木を接木している。仕立ては株仕立てが多いが、近年は密植できて若木でも良質なブドウが取れると垂直コルドンも増えている。

基本的に乾燥に強いためほぼドライ・ファーミングだ。葉の裏に産毛のようなものが生え水の蒸散を防いでいる。発芽が4月末から5月と遅いく、春の遅霜のリスクが少ないのも利点だ。ただし同じ木でも房のサイズ(300〜800g)や成熟度が異なり選別作業に手間がかかる。また、多産にすると1房でも粒ごとに成熟度が異なるので厄介だ。

またポリフェノールの一種で抗酸化作用が強い成分レスベラトロールが、黒ブドウで一番高い、という研究結果が出ているという。

名前の由来は諸説あるが、牛の血のように濃い赤だから闘牛=ボビーノBovino(スペインではbとvの発音は同じ)からだとも言われている。Bobalという言葉は14世紀から文献に登場し、当時のボバルの果皮も発見されているようだ。

ボバルはスペインで、アイレン、テンプラニーリョに次いで栽培面積の多い品種だが、発祥の地はこの地域であることを2700年前からのワイン産地であることと供にアピールしたい考えで、ユネスコの世界遺産への登録申請を目論んでいるという。

 

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トップ画像:Bolloボリョというおやつは、ソーセージと生ハムの厚切りを、オリーブオイルたっぷりのパン生地に乗せて焼いてある。朝一番で畑仕事をした後の栄養補給に欠かせない。

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