「キューヴ38」から読み解くアンリオの真髄

今春、2015年よりアンリオ・グループのCEOに就任したジル・ド・ラルズィエールが来日し「キューヴ38」3rdエディションについて語った。そこからスタンダードの「ブリュット・スーヴェラン」に至るまで一貫したアンリオのポリシーを探った。

 

<究極のブラン・ド・ブラン>

ジル・ド・ラルズィエール

前当主の故ジョゼフ・アンリオの甥にあたるジル・ド・ラルズィエールは「キューヴ38」は、別格のブラン・ド・ブランを造りたいというジョゼフの情熱の賜物だと語った。

1990年に「シャンパーニュのグラン・クリュのシャルドネがいかに長寿であるかを証明したい」と考えたジョゼフは、最も優れたグラン・クリュのシャルドネを取り置いておくよう醸造長のローラン・フレネに指示した。それはリザーヴワインのうち38番目の「医者のタンク」。困った時にこのワインをブレンドすると救われるから、こう呼ばれるようになったという。

毎年一部を引き抜き、新しい年のワインを足していく。鰻屋のたれのような、代々引き継がれる門外不出のタンクなのだ。

気になるのは、このタンクに入れられるシャルドネの素性だ。すべてシャルドネの聖地であるコート・デ・ブランのグラン・クリュで、メニル・シュール・オジェ、シュイィ、アヴィーズ、オジェ。中でも自社畑のあるシュイィとアヴィーズが大切な存在となる。

 

<アヴィーズとシュイィの自社畑>
「柑橘類のアロマ、トーストやペストリーのような香りがアンリオのサインのひとつ。ゆったりとしたシュイィと鮮烈でフレッシュなアヴィーズが重要な役割を果たしている。これら4つの村をブレンドすると、エレガンスとフィネスがコンスタントに現れる」。

通常シュイィはとてもソフトなシャルドネとなるが、アンリオ所有の畑は丘の頂にあるというから最上の区画だ。アヴィーズのミネラル感とエキゾチックなニュアンス、そしてメニル・シュール・オジェの鋼のようなテンションの強さなどが合間って、ゆっくりと熟成していくのだろう。

「正直、初めの数年間はその後どのようになるのかわからなかった。2000年代に入って良い感触が得られ、ようやく確信したのが2007年のことだった」。

1990年から2007年のリザーヴワインだけをティラージュし、2014年末にデゴルジュマンした「キューヴ38」1stエディションは、2015年にリリースされた。アンリオがもつ最も品質の高いシャルドネだけが詰められた、究極のエキスともいえるキュヴェが誕生した。

これはマグナムで1,000本のみの限定品だから、あまりお目にかかれない。しかし、アンリオが第一義としているエレガンス、フィネス、バランスは、スタンダードの「ブリュット・スーヴェラン」や「ブラン・ド・ブラン」でも十分に感じることができる。

 

<ブリュット・スーヴェランに見る真髄>

醸造長のローラン・フレネ

「ブリュット・スーヴェラン」を飲んで、どれだけの人が半分はピノ・ノワールだと思うだろうか。アンリオはシャルドネ・ハウスという印象もあり、シャルドネ優勢と感じる人の方が多いはずだ。その理由は、エレガントで白い花や柑橘系の香りが立ち上るなど、シャルドネらしさが表立っているからだ。

ブレンドされる村を見ると、シャルドネはコート・デ・ブランがメインで、先ほどの4つの特級の他にクラマンも名を連ねる。ピノ・ノワールは、モンターニュ・ド・ランスが主体で特級ではアイもあるが、ヴェルズィ、ヴェルズネイ、マイィなど北部の特級の名が並ぶ。これら北部のピノ・ノワールは、よりエレガントで、マイィはシャルドネのようなピノ・ノワールと言われるほど。つまり、あくまでもシャルドネの魅力を最大限に表現し支えるためのピノ・ノワールを選びブレンドしているのだと考えられる。

「ブラン・ド・ブラン」も、特級を含めてやはりコート・デ・ブランのシャルドネがメインパートを形作っている。だからこそ、ノン・ヴィンテージであってもエレガンスはもちろんのこと複雑性と長さが備わり、より洗練された余韻が感じ取れるのだ。

ちなみにプレステージ・キュヴェの「アンシャンテルール」もシャルドネとピノ・ノワール半々だが、シャルドネはメニル・シュール・オジェ、アヴィーズ、シュイイで、ピノ・ノワールはやはりモンターニュ・ド・ランス北部のマイィ、ヴェルズィ、ヴェルズネイだ。

アンリオではコート・デ・ブランのシャルドネが核をなし、その優雅さに華やぎやストラクチャーをもたせるためにピノ・ノワールをブレンドする、という方向性で一貫している。とても贅沢な造りだ。

今年の収穫はシャルドネの熟度が見事で完璧なほどの健全さだったという。今後のリリースもますます楽しみだ。(Y. Nagoshi)

輸入元:株式会社ファインズ

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