WANDS editorial 2018年酒類市場予測

景気の穏やかな回復が続くなか需要喚起の地道な取組が求められている

 

英国のブレグジットや米国におけるトランプ新大統領誕生による保護主義の台頭、そして主要都市でのテロ頻発やミサイル発射をエスカレートさせる北朝鮮の地政学的リスクなど、世界の政治経済状況はますます混迷の度合いを深めているが、2017年の日本経済は穏やかな回復基調を維持した。円安を背景に輸出も増加。企業業績も大手を中心に過去最高を記録するところが続出し、株価も上昇。9月までの実質GDPは7四半期連続でプラス成長となった。依然として非正規労働者の比率が高いものの、失業率は低水準で推移し、有効求人倍率も1974年以来の高水準にあるという。しかし、個人消費は賃金の伸び悩みや将来不安を抱える中で、依然として盛り上がりを欠いている。夏場の天候不順もあって、個人の消費支出は7四半期ぶりにマイナスとなった。

 

国税庁発表の酒税課税状況表によると、国産・輸入合わせた2017年9月までの酒類総出荷量は前年比ちょうどイーブン。ウイスキーが9.7%増、スピリッツ等が13.0%増、果実酒が3.5%増、リキュール2.6%増と気を吐いてはいるものの、ビールは2.4%減、発泡酒も4.1%減、清酒・焼酎はともに2%台の減少となっている。特にビールは、夏場の天候不順と6月に実施された改正酒税法による実質値上げが消費にマイナスのインパクトを与えたことが大きいようだ。

日本の総人口は2008年の1億2800万人をピークに減り続けている。2060年には総人口が9000万人を割り込み、しかも少子高齢化がさらに進んで65歳以上の高齢化率は40%近い水準になるという予測もある。成熟社会がますます進行するなかで、酒類消費のパイも余り広がる余地はない。事実、酒の総消費量は2001年の9556kℓをピークに年々低下する傾向にある。そうしたなかでここ数年、国産メーカー、輸入業者ともに、限られたパイをどのように自分の土俵に取り込むかを巡って厳しい争奪戦を強いられてきた。

しかし、日経MJが毎年発表している「ヒット商品番付2017」で、酒類関連企業の製品のなかからリスティングされたのは唯一、キリンビールのノンアルコール製品「零ICHI」だけ。それだけ、いまや爆発的な人気を獲得するような商品開発を行うことがなかなか容易でないということを物語っているといえるだろう。その分、酒類業界にあってはマスマーケティングではなく、消費者の多様なニーズをくみ取り、新たな需要を創造していけるような地道で細かな商品開発とマーケティング施策を積み重ねていくことがますます求められているということだろう。

 

このところ酒類の中でのカテゴリ横断的商品の開発がさらに進む一方、価格とアルコール度数の両面において消費者の嗜好がますます両極化へと向かっている。低アルコールRTDに市場を食われているというビールは、クラフトとプレミアムの両面で付加価値提案を強化するとともに、昨年はヘビーユーザーを中心とした高アルコールRTD市場からの需要奪還を探る動きが目立っている。クラフトビールやクラフトジンなどに対する関心の高まりは、流通大手による品揃え強化により市場における露出度がアップ。また、食との相性提案による需要喚起はウイスキーやスピリッツ製品にとどまらない。ワインに敷居の高さを感じている消費者をターゲットに、よりわかり易いネーミングとコンセプトをもった商品によって、食との相性をアピールする動きが強まっている。こうした動きは今年も続くと見られている。

 

マクロ経済のアナリストや銀行筋の予測によると、2018年の日本経済は引き続いて堅調を維持し、1%台ながら穏やかな伸びを続けるという見方が有力なようだ。(つづく)

つづきと製品カテゴリ別(ビール、ウイスキー、スピリッツ、ワイン)の市場見通しについては、WANDS 2018年1月号をご覧ください ウォンズのご購入・ご購読はこちらから デジタル版もできました!

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