畑のオーナーとワインメーカーの名コンビが育むソノマコーストのスリー・スティックス

〈オーナーは企業再建のプロ〉

スリー・スティックスのオーナー、ビル・プライスはもともとは投資家。世界有数の投資会社テキサス・パシフィック・グループを仲間と3人で立ち上げた。ビルは改善点を見極めて企業の価値を高める再建を得意とし、90年代にはベリンジャーを、続いてシャトー・セントジーンを買収。セントジーンは投資目的ではなく、ワイン業界を学ぶために買った。2007年、リーマンショックが来る前にテキサス・パシフィックの株を売ってリタイアした時、やりたいことが3つあった。1つ目は家族と一緒に過ごすこと、2つ目は癌の撲滅で、現在、癌リサーチセンターのチェアマンを務めている。そして3つ目がワイン造りだった。良い畑を買い、良いブドウを作ることを信条とし、それによりワイナリーが再建したら、畑は手元に残してワイナリーの方を売る。例えば、ギャップス・クラウン・ヴィンヤードはキープして、ワイナリーのコスタ・ブラウンは売る、というように。

ボブ・カブラルの参画

スリー・スティックスの創設は2002年。しかしビルには、設立当初は自社のワインがソノマのポテンシャルを出し切っているという満足感がなかった。そんな折、当時のワインメーカーが息子を交通事故で亡くし、気力を失いリタイア。2015年にボブ・カブラルをワインメーカーとして迎える。

それまでの17年間ウィリアムズ・セリエムに務めていたボブは、当時の仕事をクッキーの型抜きのように決まったスタイルのワインを造り続けていたと振り返る。だが、ビルとは考えが一致した。アメリカのピノ・ノワールとシャルドネはオレゴンやサンタ・リタ・ヒルズの流行に押され、ソノマは忘れ去られている気がしていたこと。ふたりともワインにおいては酸が大切と考えていて、その酸は自社畑だからコントロールできると考えていること。ボブにとっては、ビルが畑の所有者であることも、参画の決め手だった。セリエムは40%しか自社畑がないが、ビルは畑をブロック単位で所有している。例えばデュレル・ヴィンヤードでは、ソノマコースト寄りの風の強い古い区画は白い砂地土壌でパワフルなスタイルのワインを生む一方、新しい区画は50年後にはシャトーヌフ・デュ・パープのような外観を呈するだろうと思われる石の多い土壌で、よりトロピカルなワインを生む。キスラーやパッツ&ホール、リオコなど錚々たるワイナリー約20社がこのデュレル・ヴィンヤードのブドウを使ってワインをつくっているが、キスらーは新しい区画しか所有していないのに対し、スリー・スティックスは新旧の区画を所有し、それらのブドウをバランス良くブレンドすることによりテロワールをクリエイティブに表現している。

ワインのスタイルの決定権はボブが握る。ビルはテイスティングをして、どうすべきかをクリアにすることまで口を出すが、最後はボブに任せる。ボブがヴィンヤード・マネージャーのロブ・ハリスと収穫期の決定などで衝突した時のレフェリー役でもある。

〈良い畑の所有者が良いワインを造る〉

輸出担当のクリス・マットソンは、かつてホワイトハウスのスタッフとして働いていたが、好きなことをやりたいと考え、ワインの世界に飛び込んだ。ヨーロッパでの輸入業や、米国に戻ってからのディストリビューター、エミリタスやジャクソン・ファミリーなどのワイナリーでの職歴を経て、高級レンジのピノ・ノワールとシャルドネに長らく関心を寄せてきた。そして辿り着いたのが、ビル・プライスの長期的な視野に立ったワイン造りだった。キスラーもギャリー・ファレルもオーナーが変わることでワインの方向性が変わったが、スリー・スティックスはずっと変わらずソノマのテロワールを表していくことだろう、と見る。カルトワインは畑とワイナリーの所有者が別々であるケースが多いが、むしろ今は、良い畑の所有者が良いワインを造るのが今のトレンドと考えて欲しいと主張する。

たとえ需要が大きくなっても生産量は上げ過ぎず、クオリティを守るために取引を切った例もある。米国では、スリー・スティックスを ”トレンディな人向けのキスラー” との位置づけて売っており、ニューヨーク、ロサンゼルス、フロリダ、ダラスなどコアなマーケットだけに搾る方針だ。一流のレストランが集まり、キスラーの№.2マーケットでもある東京を重要なターゲットと見る。売り先を星付きレストランなどハイエンド市場に搾ってブランドを構築していく考えだ。

Durell Vineyard Chardonnay 2015

どの品種をどこに植えても、ナツメグやクローヴなどのベーキングスパイスの香りがするのが、この畑の特徴。ソルティ。ボブのワインづくりの信条を表す酸が際立つ。

PFV Estate Pinot Noir 2015

PFVはプライス・ファミリー・ヴィンヤードの略。最良のワインは最良の区画のブレンドだと言うボブの技が光る。ブルゴーニュのピノ・ノワールにみられるスミレの香りが出る、カリフォルニアでは稀な存在。

Gap’s Crown Vineyard Pinot Noir 2015

2017年12月に制定された新AVAペタルマ・ギャップのアンカーとも呼ぶべき畑。風が強く寒く、ブドウが小粒で凝縮感が出る。220ケース限定。(S. Kondo)

スリー・スティクスも参加するソノマの試飲会が5月下旬に開催されます!ソノマカウンティ・ヴィントナーズ・テイスティング・イベント

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