中信のワイナリー/塩尻のために、長野のために産地化に尽力する井筒ワイン

2013 年に『信州ワインバレー構想』ができた。井筒ワインの塚原嘉章社長はその委員として参加していた。長野県としてワインと観光と自然を結びつけようというのがその始まりだった。ここ4、5 年で10社以上の新しい造り手も増えてきた。ワインバレー構想はちょうど今そのスタートラインに立ったところだと塚原氏は言う。NAC(長野県原産地呼称管理制度)についても、その取り組みや効果を伺った。

 

桔梗ヶ原ワインバレーとテロワール

塩尻周辺は『桔梗ヶ原ワインバレー』と呼ばれる。信州ワインバレー構想ができた後、つまりここ3、4 年で急速に桔梗ヶ原の周辺地区(岩垂原、洗馬、片丘、柿沢)にブドウ畑を広げる生産者が増えた。日本ワインの飲酒人口が増え、畑を増やしてワインを増産しても売れる見込みが立ったからだ。これまで塩尻のワイン産地は桔梗ヶ原が中心だったのでこの名がついたが、実際の「桔梗ヶ原」は奈良井川と田川の間の台地を指す。

 

「うちも例に漏れず契約農家の高齢化・後継者不足で畑を手放す者が増えたが、ブドウの根を絶やすわけにはいかないので、ワイナリーとして引き継ぐエリアもあれば、岩垂原のように積極的に畑を広げている地域もある。岩垂原はもともとレタスの一大産地だったが、いまはブドウ畑が増えている。我が社はここにシャルドネやメルロを植栽している。契約農家は10年前に150軒あったが、今はだいたい130軒くらいだろうか。お互いの信用で農家とワイナリーは長いあいだ繋がってきた。

 

桔梗ヶ原ワインバレーには自然条件の有利さがある。海抜700〜850mの冷涼な気候で、しかも農地が広く確保できて作業効率もいい。周りの山は標高がそれほど高くなく、しかも遠く離れているので日照時間が長い魅力的な産地だ。日本の中では雨の少ない長野だが、それでも6月の梅雨と9月の秋雨はやはりブドウにはよくない」。

 

10年以上前からテロワール主義をワイナリーとして持ってきた。例えば『奈良井川Chardonnay』というワインを15年前に発売したが、当時はそれほど求められていなかった。逆にいま、一般消費者もテロワールを感じて飲まれることも多くなり、再度、畑の区画ごとにラベルを分けようとしている。

自社畑は150トン、契約農家を入れると900トン、年間85万本を生産するワイナリーになった。

桔梗ヶ原は1〜2mの火山灰土で覆われた土地が田川と奈良井川によって削られて現在のような台地になった。粘土は少なめで水はけがよく、軽めのメルロができる。飲む方が桔梗ヶ原の風景を思い描きながらワインを飲んでくれるといい。

 

今の栽培上の問題は晩腐病とベト病。これをコントロールできれば最高のテロワールと言えるだろう。特に2015年と2016年は厳しい年だった。昨年も8月まで曇りや雨が続き、「今年もダメかなぁ」と心配していた。8月の終わりから9月にかけて晴れの日が続き、台風もなし、秋雨も軽く済んで、病気の少ないブドウを収穫することができた」。

 

ワイン産地の形成

NACがスタートしたのは2002年なので、昨年で丸15年がたった。NAC のおかげで長野ワイン全体の品質が上がってきているという。同時に日本ワインコンクールの存在も大きく、NACと日本ワインコンクール双方の効果で長野が活気付き、長野ワインの良さがワインのプロにある程度広まったという。ただ、まだ一般のワイン消費者にはひろまっていないと感じている。これからNACのマークとともに、もっと長野のワイン産地を一般消費者に広く知ってもらうことが課題だという。

 

ブドウの産地を有名にし、その評価を大きくすることは一社だけではできない。互いに情報を共有しあって、たとえば病気の防除に努めることも協力し合わないと産地全体が共倒れしてしまうことだってありうる。実際、2015年と2016年の晩腐病は、桔梗ヶ原の栽培家たちを苦しめた。

 

長野県には塩尻市の『ワイン大学』など3軒のワイン学校がある。ワイン造りやブドウ栽培、ワインビジネスで生計を立てたい人が学んでいる。しかし学んだ人がみな簡単に自立できないことも現実だという。「それを地域や県がどのように支えていくかが課題だし、これからもっと取り組んでいくテーマだ」。長野県ワイン協会の理事として地域や県全体のことを考えて活動する塚原氏の危惧と優しさが見えた。

 

塩尻は東京から特急で2時間半。名古屋や関西からも来やすい産地なので今後はもっとワインツーリズムとして塩尻の名が広まることに塚原氏は期待する。それはもちろん行政も一体となって進めていかなくてはいけない。(Rie Matsuki)

 

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