キュヴェ・エスプレンドール・デ・ヴァルドン・ケネットとは Valdon Kennett by TORRES

キング・オブ・スペインの異名をもつミゲル・トーレスが、スパークリングワインを造り始めた。満を持してというべきなのだろうか。今まで着手していなかったのが不思議とも思えるが、一体どのようなコンセプトのスパークリングワインなのか知るために現地まで足を伸ばした。

 

常に先を行くトーレスのDNA

ご存知のように、トーレスはペネデスで140年の歴史ある名門ワイナリーだ。特に今の当主ミゲル・トーレスは、立ち止まっていられない性格なのだろう、常にスペインワイン界を牽引する先駆者の役割を果たしてきた。

例えば、1960年代に多くの国際品種の栽培を始めた。ステンレスタンクやフレンチオークを醸造所に導入し、革新的なワイン造りを始めて皆を驚かせた。

その結果のひとつが、1979年のゴー・エ・ミヨによる「ワイン・オリンピック」だ。「グラン・コルナス・ブラックラベル1970年」が、シャトー・ラトゥールやシャトー・オー・ブリオンより高評価を得たビッグ・ニュースは有名だ。この銘柄は、今でもトーレスのトップ・キュヴェのひとつであるカベルネ・ソーヴィニヨンの単一畑キュヴェ「マス・ラ・プラナ」のことだ。久しぶりに2012年ヴィンテージを味見したが、凝縮した果実の香りが感じられるが樽に押されることもなく、上品なテクスチャーが印象的だった。常に微調整して進化してきているのだろう。余談だが、その変化についても聞いてみたいと思わせた。

およそ3年前にミゲル・トーレスが来日した際、インタビューしたのを覚えている。エントリー・レベルからプレミアムラインまで揃えているのは「多くの人にワインを楽しんでほしいから」と語っていた。どのカテゴリーにおいても、No.1でありたいという明確な意志が感じられた。

そして、カタルーニャで忘れられてしまった古いブドウ品種の調査を30年に亘り続けてきた、とも付け加えた。スペインだけでなく、あまねく国際品種が栽培されるようになった今は、かえって古い希少品種の方が未来への光であり宝のような存在だ。

また、温暖化による影響も懸念して実際に様々な対策を畑で行なっているようだが、新たに冷涼な高地の土地も手立てした。その一部はピレネー山脈の麓で標高1,000mだと言っていた。実は1,200mの地にも土地は準備したがまだ植樹はしておらず、それはこれからさらに10年、20年先のための転ばぬ先の杖だという。

 

ヴァルドン・ケネット

ヴァルドン・ケネットの醸造を担当するアナ・ベラスケスに会いに、バルセロナから車で向かった。カバのメッカであるサン・サドルニ・ダノイアを通り過ぎ、聖なる山モンセラットの方向へ走った。19世紀に建てられたという館は端正なつくりで、その敷地には小さな教会も残っていた。

ガーンジー島を描いた絵画

トーレスが1980年代に付随する畑とともに購入した館で、このプロジェクトが始動するまでは農作業のためにだけ使っていたようだ。かつての建物のオーナーは、イギリス海峡に浮かぶガーンジー島で1781年に生まれたダニエル・ヴァルドン・ケネットと、妻のマリア・フランチスカ・デ・フェレールだ。海運商だったヴァルドン・ケネットは、フランスを経て19世紀初頭にバルセロナまで船で渡った。そしてここの土地や文化に惚れ込み、地元のワインを輸出し始めた。そして美しいマリアに出会って恋に落ち、根を下ろして自分たちのワインを造り始めたのだ。

魅力的なワインと愛のストーリーだ。ヴァルドン・ケネットのボトルが2枚貝の殻をあしらった特別なデザインに成型されているのも、この実話に由来している。

美しいマリアの肖像画も飾られている。

 

高地のブドウで

てっきり、素となるブドウもこの敷地の周りの畑から調達しているのかと思った。ところが、この地は標高300mにあり栽培されているのは樹齢25〜30年のカベルネ・ソーヴィニヨン、フラン、メルロといった黒ブドウだけで、別のワインに使っているという。

つまり、ヴァルドン・ケネットと妻マリアの愛のストーリーをこの透明感溢れるスペシャル・キュヴェの象徴としたというわけだ。当初ミゲル・トーレスと娘のミレイアが始めたプロジェクトで、その後ミレイアが主体となり醸造家のアナとの女性コンビでよりロマンチックな世界を創り上げた。

「エスプレンドール・デ・ヴァルドン・ケネット」のブドウ品種は、ピノ・ノワール、シャルドネ、そして少量のチャレロだ。ブドウの素性を尋ねると、すべて標高550m以上の畑からだという。

2012年ヴィンテージに初めて試作し、2013年ヴィンテージからが本番だ。2013年は、すべてアルト・ペネデスの自社畑からブドウを供給した。2014年も同様にフレッシュな酸が得られたのでアルト・ペネデスのブドウを主体にした。しかし、2015年からはドライで暑く理想的な酸が得られなくなり「山のブドウが必要だと考えて、ピレネー山脈のサン・ミケルにあるトレンプ畑のブドウも使い始めた」。サン・ミケルは標高950mにある。これに加え、ピノ・ノワールのプレミアムワイン「マス・ボラス」用のブドウを栽培しているフランソーラ畑のブドウも使用している。

 「当初はカバとしてリリースしようと考えていたが、トレンプのブドウを使うことにしたので、DOカバの範疇から出てしまった。ヴァルドン・ケネットはカバであることよりフレッシュな性格を優先させたいキュヴェだから、カバではなくスパークリングワインとしてリリースすると2016年の夏にアナウンスした」。ヴァルドン・ケネットは初めから数量限定のプレミアムラインだと聞いていたため、敢えてカバの名称を避けたのかと思っていたが、そうではなかった。ちなみに、まだ発売時期は決まっていないようだが、これとは別にカバの準備もし始めているというから楽しみだ。

 

この土地ならでは

カバのメッカのお膝元でありながら、カバではなくスパークリングワインとしてリリース開始することになったが、この土地ならではの個性にはやはりこだわりがあった。だから「柑橘系のフルーティーさと酸をもたらすシャルドネ、赤い果実のアロマとともにボディを与えるピノ・ノワールに加えて、地元の伝統品種でありフェンネルのアロマやミネラリティを加えるチャレロをブレンドすると決めた」。

そして、醗酵は大半をニュートラルなステンレスタンクで行うがが、12%だけは樽醗酵して深みを持たせ、適度な熟成によるトースティーな香りを醸し出すためにも30ヶ月以上の瓶内熟成を施した。「リキュール・デクスペディションにブランデーを使うことも考えたが、やめた。ここのティピシティを出すにはドライな仕上がりがよいと判断しておよそ3〜4g/l程度のドザージュにとどめることにした」。ドザージュの後には、ジェッティング・システムのある打栓機を使用し極力酸化を回避する対策も万全だ。(つづく)(Y. Nagoshi)

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