特集・アルゼンチンワイン/マルベックの新しい潮流 グアルタジャリー、パラヘ・アルタミラ

潮目が変わった。4、5年前からメンドーサのマルベックに新しい潮流がみられるようになっている。テラサスのエルヴェ・ビルニースコットが断言した。

「アルゼンチン・マルベックの遺伝的な特性とか、フランスのコットとはどう違うかなどと言っている時代は過ぎた。いまメンドーサのマルベックはそれぞれのテロワールを表現している。サブ・リージョン、地域ごと区画ごとのマルベックの特徴を語るべき時期に来ている。かつてナパ・ヴァレーがディストリクト毎にカベルネ・ソーヴィニヨンを表現したように」。当時、ナパで仕事をしたエルヴェの言だから、なるほど説得力がある。

大きくてタニックで黒い色をしてアルコール分が多くて濃縮している。少し前まで、メンドーサ・マルベックを代表するキュヴェはそうだった。欧米の醸造コンサルタントが指導し、米国のメディアが高く評価したからだ。

(中略)

<メンドーサのテロワールと新生マルベック>

メンドーサの地形図を見るとマルベックの産地はメンドーサ市の南に広がっていることがわかる。そしてマイプーとルハン・デ・クージョは、プレ・アンデスの東向き斜面に位置する産地だが、ウコ・ヴァレーはアンデス本脈の裾野に位置する幾つかの扇状地である。つまりルハンは標高約1,000mのラス・コンプエルタスが最高点だが、ウコ・ヴァレーはアンデス山脈に連なる傾斜地、扇状地にあるので、その気になれば2,000m以上の高地に畑を拓くこともできるわけだ。

マイプー:メンドーサ市の南東に位置し標高が低い。バランカスはメンドーサ川右岸の河川敷で、丸い小石の多い土壌が特徴。

ルハン・デ・クージョ:マイプーと同じ斜面の上部に位置する。ウコ・ヴァレーの開拓前まではルハンがプレミアム産地の代表格。サブ・リージョンは北からビスタルバ、ラス・コンプエルタス、ペルドリエル、アグレロ、ウガルテチェがある。

ウコ・ヴァレー:サブ・リージョンは北からトゥプンガト、トゥヌジャン(ラス・トゥナス川とトゥヌジャン川に挟まれた地域)、サン・カルロス。3つのサブ・リージョンの中にさらに小さな区画のIG(地理的表示)が認められている。パラへ・アルタミラ、ラ・コンスルタなどは、サン・カルロスにあってトゥヌジャン川の影響を受けた土壌構成が特徴だ。一方、トゥプンガトの中の小さな区画グアルタジャリーは行政区との関係で境界線の策定協議中。まだIGに認定されていないので、「グアルタ」と略して記載したラベルが散見される。

アンデス高地の冷涼地開拓が一段落したいま、生産者の興味は根圏と土壌分析に向かっている。テロワールが気候と土壌と人の営みの総体であるとするなら、すでに望ましい気候を手に入れたメンドーサは、次なるステップとして土壌の組成を詳細に調べ、根圏の範囲を知り、そこで収穫したブドウの的確な醸造方法の策定に真剣に取り組み始めた。それで冒頭のエルヴェ・ビルニースコットの「メンドーサはサブ・リージョン、地域ごと区画ごとのマルベックの特徴を語るべき時期に来ている」という発言に戻る。

 

このところ、グアルタジャリー、パラヘ・アルタミラのワインを集めたテイスティングが企画され、新しいマルベック探しが始まっている。グアルタジャリーは、トゥプンガトにあって土壌には砂や粘土とともに表面が石灰質で覆われた丸い石がたくさん含まれることが特徴だ。パラヘ・アルタミラはサン・カルロスにあって土壌に石灰岩を多く含む。

メンドーサの土壌は基本的に小石、礫などを多く含む痩せた砂状土が中心で、石灰質、石灰岩を含む土壌はそれほど多くない。畑にカリカタ(鉱物調査のための掘削穴)を掘って根圏を知り、土壌のプロファイルを見定め、それにふさわしい台木と灌水の仕方を見極め、そのブドウを十分に表現できるような醸造法でワインを造る。濃くて力強いマルベックのあとにやってきたのは、テロワールを忠実に表現したワインである。(K.Bansho)

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