アルゼンチンワイン特集/京料理とアンゼンチンワインの邂逅 エル・エステコと本家たん熊、その組み合わせの妙

2016年4月。メンドーサで世界最優秀ソムリエコンクールが開かれた。京都のワインバー勤めの岩田渉は、その年の2月にソムリエ奨学生に選抜された。奨学制度の一環でアルゼンチンに招かれ、ソムリエ世界戦観戦の機会を得た。若い他国のソムリエの活躍を目の当たりにして大いに発奮した岩田は、翌2017年4月の全日本ソムリエコンクールを弱冠27歳で勝ち抜いた。

 

話は戻る。メンドーサのコンクールの後、岩田はサルタに飛び、ブドウ栽培の極地カルチャキ・ヴァレーのテロワールとエル・エステコのワインを知った。そして、自らの住む京都の料理とエル・エステコの組み合わせが案外イケるのではないかと思いつき、京料理本家たん熊の若主人・栗栖純一にこの話を持ちかけた。栗栖が受けた。こうして京料理とアンデス高地のワインが出会うことになった。

 

エル・エステコのあるカファジャテは、サルタの南西180kmに在り、アルゼンチン最北のブドウ栽培地サルタの中心地である。標高2500m~3000m級のキルメス山脈とその東側のアコンキハ山脈に挟まれたカルチャキ・ヴァレーにブドウ畑が拓かれている。6,000m級のアンデス本脈はそのすぐ西方にある。

 

カファジャテは南緯26度。気候区分は亜熱帯で本来なら暑すぎてブドウ栽培は不可能な地域だ。一方、海抜高度は1,700m~2,000mで、これまた本来なら高山植物も育たない寒冷地のはずだ。ところが極限の暑さと極限の寒さが組み合わさったことでうまくバランスがとれてカファジャテを世界でも稀なブドウ栽培地にしているのである。

 

ただ、カファジャテの日射量と日射角は亜熱帯のそれであり、日中の日差しは紫外線がとても強い。だからカファジャテのブドウは早く熟し、果皮に色素と香りの成分を多量に含んでいる。品種の香りが強く色の濃いワインができる所以である。

 

Cuma Torrontes 2017

ワタリガニの酢の物、胡瓜、茗荷、黄身酢

栗栖 ワタリガニの旬はこの時季です。メスに内子が満ちているのは冬から春。淡泊な味わいで甘みがあり、内子がおいしいのです。トロンテスの持っている青リンゴやミント、それにカットグラスの要素に合わせて胡瓜と茗荷をくわえて黄身酢(卵黄を湯煎して酢と砂糖を合せる)で和えました。

岩田 内子がおいしいですね。標高の高さによってもたらされたこのワインのアクセントがすべてこの一皿に入っています。これは酸味の効いた料理や酢の物によく合うワインで、ソーヴィニヨン・ブランなら鮎とたで酢でしょうが、このトロンテスは黄身酢がぴったりですね。

<岩田渉の試飲ノート>

輝きのある緑がかったレモンイエロー。十分に開いており、アロマティックでありながら、香りのヴォリュームもしっかりと感じる。アプリコットや黄桃のような黄色いフルーツにライチや白バラ、ほのかに香るレモングラスの爽やかなハーブ香がフレッシュさを与える。ジューシーで生き生きとした果実味由来の甘みを感じるアタックに、丸みのある柔らかい酸が口の中を穏やかに流れていく。中盤からフィニッシュにかけて、持続的に伸びる酸が長い余韻を生み、心地よい苦味が全体の味わいを引き締める。

 

El Esteco Don David Tannat 2016

煮物椀・鶉丸(うずらがん)、京人参短冊、鶯菜、柚子

岩田 (吸い物椀が出てきてびっくり)うわぁ、タナにお椀ですか。

栗栖 はい。きょう一番の挑戦です。タナのタンニンとスパイシーさ、ちょっと土っぽさに何を合わせようかと考えた時、はじめは「鍬焼き」を思いつきました。しかし、今回は会席料理として全体を組み立てたいと決めました。それで会席のお椀一品をつくることにしました。鶉はミンチにするときに骨を残しました。鶉を丸にする時の出しは昆布出しの二番出しで、しょう油寄りの味付けです。カツオ出しだと旨味が強すぎるのです。野菜のほんのりした甘みも活きるように。

岩田 ほんとうに驚きました。タナにお澄ましがぴったり合っています。鶉の骨の食感とワインのテクスチャーが調和しています。京人参も鶯菜もこのワインの持っている要素とよく合っています。

栗栖 本家たん熊の料理は割烹スタイルの料理がベースとなっており、この時季のメインのお椀としてすっぽんをお出しします。懐石料理には冬に野鳥獣を用いる場合が多々あり、たとえば初釜のお椀の鴨雑煮などがあります。タナのフレーバーにある肉のニュアンスには、すっぽんや野鳥獣を使った料理が合うと思い、煮物椀とタナの組み合わせのヒントはこの辺りにありました。

<岩田渉の試飲ノート>

インクのように非常に濃いクリムゾンレッド。香りは複雑で深みがある。熟したブラックチェリーやブラックベリーに、シナモンやクローヴ、そして甘草のスパイス香とともにグリーンカプシカムが程よいアクセントとなる。枯葉やタバコのニュアンスもあり、様々な香りが幾重にも重なる。凝縮感溢れる力強いアタック。酸度は高く、このワインも標高の高さ由来のきめ細かい洗練された酸とジューシーな果実味が伸びやかなストラクチャーを構成する。中盤にはそれに樽熟成由来のバニラ様の香りも加わり、筋肉質であるが滑らかなボディを与える。タナ由来のタンニンの含有量は多いが、しっかりと熟し、甘みすら思わせる。余韻も長く、ドライハーブ様なフィニッシュが食欲をそそる。

鯧(まながつお)西京焼 × El Esteco Don David Chardonnay 2016

鰆(さわら)の蓮根蒸し、銀杏、百合根、木耳、セリのあんかけ × Cuma Cabernet Sauvignon 2016

海老芋万頭、中入れ・車海老そぼろ × El Esteco Don David Malbec 2016

炊合せ・堀川ごぼう月冠(中入れ・鳥ひき肉)、湯葉、絹さや、木の芽 × El Esteco Fincas Notables Cabernet Franc 2014

以上の組み合わせはWANDS 3月号をご覧ください。ウォンズのご購入・ご購読はこちらから デジタル版も合わせてご活用ください!

WANDSメルマガ登録

関連記事

ページ上部へ戻る