レポート 岩の原葡萄園 川上善兵衛 生誕150年 善兵衛品種に特化する岩の原葡萄園から白品種の新たな息吹

<平成の大改革>

結実した約1,100株から選抜されたのは優良22品種だった。川上善兵衛、鳥井信治郎、坂口謹一郎と東大の研究室のスタッフらにより選ばれたものだ。そのうちの5品種が今でも岩の原葡萄園の畑で栽培が続けられている。交配した番号順で挙げると、No.55 ベーリー・アリカントA、No.3986 マスカット・ベーリーA、No. 4131 ブラック・クイーン、No. 4192 ローズ・シオター、No. 6421 レッド・ミルレンニュームだ。

この岩の原葡萄園の自社畑はかつて18.3haもあったが、今では約6haと3分の1しかない。ではまた増やせるのではないかと思いがちだが、畑での作業の効率と安全性や土壌の性質などを考慮した上で制限し、今日に至っているという。以前は欧州系品種がいくつも植わっていたが「1997、1998、1999年の3年間で大品種改革を行った」と、建入一夫栽培技師長は振り返る。1997年にはマスカット・ベーリーAを増やし、1998年には善兵衛白品種を植え付けた。「ちょうど他社では欧州品種を垣根仕立てで増やし始めた頃だった。うちは反対に善兵衛品種でいくと決めた」。退路を断ち、善兵衛品種で勝負するという決断が下されたのだ。

何かに行き詰まったり次の段階に進もうとしたりする時にはルーツに立ち返れ、と聞いたことがある。岩の原葡萄園でも、何か変化を必要としたのだろう。川上、鳥井、坂口の3人がタッグを組んで選び抜いた、この地で生まれた品種に特化することで、他の誰も真似できない絵を描こうというのだ。

畑を歩いていると、主幹の下方が妙に変形している区画があった。1997年にマスカット・ベーリーAを新植した時に、実は垣根仕立てを試してみた。樹間2mでギュイヨー仕立てにした。しかし、樹勢が強すぎてコントロールできなかったことに加え、せっかく実ったブドウを狸にまんまと食べられてしまった。そこで主幹をあげてGDCに変更したから、幹にその名残がある。

1998年の段階で、善兵衛白品種のローズ・シオターは150本、レッド・ミルレンニュームにいたってはわずか4本しか残っていなかったという。ローズとかレッドという名がついているが、れっきとした白ワイン用品種だ。まず標高80mの「下の畑」にローズ・シオターを30a植えた。そして、見晴らし台のそばにある斜面を平らに整地にした標高130mの「上の畑」57aは、2012年にマスカット・ベーリーAからローズ・シオターに変えた。後者は岩の原で唯一粘土質土壌の区画で、一年中風通しが極めてよい。「ローズ・シオターは酸抜けが早いので、一番標高が高いところにした。9月半ばに収穫するが、果皮が比較的柔らかいのでお盆明けの雨は要注意」。

3年前まで残していたカベルネ・フランも抜いてブラック・クイーンに改植し合計49aになった。ベーリー・アリカントAは今10.5aだが、今後増やしていこうと考えている。こうして岩の原葡萄園の畑は、シャルドネ30aを除いてすべて善兵衛品種に戻った。

<白ワインの進化>

善兵衛品種のうちローズ・シオターはスパークリングワインに、また深雪花・白に30%ほどブレンドされてきた。レッド・ミルレンニュームは、クリオマセレーション製法により甘口ワインに仕立てられてきた。それぞれ昨年秋に辛口白ワインとしてリリースされ始めたが「実は、1998年からいつかは単一品種の銘柄として出すことをねらって模索してきた」と、上村宏一製造部長は言う。

醸造所では、2013年に選果台が導入された。2014年には醸造設備がグラヴィティ・フローに一新され、区画ごとに醸造できる小ぶりなタンクも設えられた。赤ワインはもちろんのこと、これが白ワイン造りに大きな発展をもたらした。

例えばローズ・シオターは9月半ばに収穫されると、まずコンテナタイプの冷蔵室に入れられ約10℃まで冷やされる。「以前は収穫してすぐ醗酵タンクへ入れていたので、醗酵が始まるスピードが早かった。冷やすにはタンクでは間に合わないため、冷蔵室に入れることにした。醗酵をゆっくり立ち上げるのが大切で、冷えた果汁であれば亜硫酸も極少量ですむ」。

また、除梗破砕するのではなく、選果台の上で除梗しながら粒選りしていくイメージだという。レッド・ミルレンニュームは少し硬めの果皮だが、ローズ・シオターは柔らかいので潰れないように気をつけなければならない。

プレス機も1台増えて2台体制となった。果汁やワインの移動に使われるチューブも、卵の黄身も潰さないほどのソフトな圧で、これを使うようになってからワインが格段に綺麗になったと感じている。

小ぶりの長方形のタンクは容量が5,300ℓ前後で、ちょうど畑ひとつ分の4.5tのブドウが入る。「すべてのタンクで温度コントロールをしっかりできるようになってきたことが大きい」。ちょうどタンクで貯蔵されていたローズ・シオターの味見をした。「下の畑」はパイナップルやオレンジに似た華やかな香りが印象的で、「上の畑」は香りは穏やかだが酸がフレッシュで味わいに存在感がある。この後、部分的に短期間「樽をくぐらせて」から8月頃に瓶詰めする予定だ。

アロマティックでフレッシュな酸が特徴のレッド・ミルレンニュームは、醗酵中に出てくる華やかな香りをいかにそのまま瓶の中に閉じ込めようか、というのが命題だ。しかし、ローズ・シオターについては、本来の香りや性質などを見極められ始めたのはここ4、5年のような気がしており、さらに試してみたいことがまだいくつかあるようだ。

ローズ・シオターはまるみがあり酸も穏やかで少し日本酒を思わせる包容力があるタイプであるのに対し、レッド・ミルレンニュームは本当にアロマが豊かでキリッとした爽やかな酸を備えている。いわば対極の性格をもつ善兵衛白品種がもっと増えれば、さらに日本ワインが面白くなるのではないだろうか。(Y. Nagoshi)

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