ゆっくりと醸成された精妙で芳醇なシャンパーニュ Champagne Devaux

森やブドウ畑に覆われた丘が波打つように連なるコート・デ・バール。モンターニュ・ド・ランスやマルヌ渓谷、コート・デ・ブランと並び、シャンパーニュ全体の4分の1の生産量を誇る主要産地だ。大半を占めるピノ・ノワールは、シャンパーニュ地方の最南端であるがゆえのフルーティで豊満な特徴で知られている。またブルゴーニュ地方と隣接しており、近隣産地の刺激も大いに受け、近年の品質向上は目覚ましい。このコート・デ・バールで特に独創的手法を実践し、オートクチュールのようなシャンパーニュを生み出すシャンパーニュ・ドゥヴォーを訪ねた。

 

 

厳選した区画から生まれる

表情豊かなコレクション

 

とうとうと流れゆくセーヌ川のほとりで、一際青空に映える白亜の館。このシャンパーニュ・ドゥヴォーの拠点は、トロワ南東の街バー・シュール・セーヌにある。パリを流れるかの有名なセーヌ川の上中流部と、サルス川、レーニュ川、ウルス川などが合流する場所にあり、川に沿ったなだらかな傾斜にブドウ畑が広がっている。

メゾン・ドゥヴォーの歴史は1846年に遡り、ジュールとオーギュスト兄弟によってエペルネで創設された。その後シャンパーニュ地方の宿命からか、ヴーヴ(未亡人)となった女性たちがメゾンを支えてきた。そして1987年、これまでブドウ供給者として良きパートナーであった生産者協同組合ユニオン・オーボワーズに、ブランドの将来が託された。それから現在に至るまで、コート・デ・バールの地を活かし、ワインのように熟成に耐えうるキュヴェを目指して、クラシック・シリーズやコレクションDといったプレミアム・シャンパーニュを世に送り出している。

 

メゾン・ドゥヴォーとブドウ栽培農家は長年の信頼関係の上で、よりよい品質を追求するべく厳格な栽培を実践している。パートナーシップを組む約100軒の生産者は、除草剤は使用せず、肥料は土壌の分析に応じて必要な時にだけ施すよう徹底している。また約100haの畑から最終的に80ha分に厳選した収穫を使用する。品種はピノ・ノワールとシャルドネで、ピノ・ノワールは約50区画、シャルドネは約30区画から、様々な個性が揃い出る。渓谷によって畑の形成が異なるため、同じ品種でも微妙なニュアンスが生まれるという。例えば、リセーやポリジー村のあるレーニュ渓谷のピノ・ノワールは、比較的力強くボリューム感があり、ドゥヴォーが拠点を置くセーヌ渓谷は、より繊細で緻密な特徴が育まれるそうだ。シャルドネはトロワの西のモングーのほか、コート・デ・ブランのブドウも使用する。シャンパーニュ地方でも収穫の早いモングーのシャルドネは、南国的で丸みのある風合いであり、コート・デ・ブランのような張りのあるミネラルな風味とは異なる特徴を持つ。各地域12か所にはプレス機を備えた施設があり、摘み取ったブドウは傷まないうちに速やかに圧搾できるよう、配慮されている。そして一番絞りであるラ・キュヴェだけが使用される。この繊細な行程が色彩豊かな味わいの源となるのだ。

 

樽発酵の場合、マロラクティック発酵は行わず、

シュールリーでゆっくりと熟成

醸造や熟成の仕方、リザーヴワインの使い方など、醸造責任者のミッシェル・パリゾは細部にわたってこだわりを貫いている。まずはシャンパーニュ造りでメゾンのスタイルを左右するマロラクティック発酵。多くのメゾンが「する」か「しない」か択一するところ、「両方を融合する」のがミッシェル・パリゾの方針だ。醸造にはステンレスタンクと樽を使用するが、マロラクティック発酵を行うのはステンレスタンクのみ。樽発酵に限ってはマロラクティック発酵を抑制して、シュールリーで8か月間ゆっくりと醸造する。

この手法で、張りやエネルギーに満ち溢れ、フレッシュさを維持しつつ、まろやかに仕上げることができる。そして瓶詰め時にマロラクティック発酵をしたワインと抑制したワインをブレンドする。マロラクティック発酵を行うことによって得られるブリオッシュや焼き菓子のような甘く香ばしい風味と、抑制することによって得られる柑橘系や洋ナシ、ピーチなどフレッシュなフルーツの風味。この対照的な要素が程よく調和されることで、複雑性に満ちた熟成に耐えうるシャンパーニュが生まれる。

 

300リットル容量の地元産オークを使用した特注の樽を使用

また使用する樽も、とことん研究を重ねている。オーク材は、各国各産地の中からモンターニュ・ド・ランスとアルゴンヌ、トロワ近隣の森の地元産を選択。容量も205ℓから600ℓまで様々試した結果、樽香が付きすぎず、程よくエレガントに仕上がる300ℓ容量で、比較的軽めの焼き具合にする。同じ素材、容量、焼き具合で、ブルゴーニュとランスの3社の樽製造会社に特注する。新樽と1年ものの若い樽はシャルドネに、2年から5年ものの樽はピノ・ノワールに使用する。

ミッシェル・パリゾは、同じ品種を扱うブルゴーニュの生産者を頻繁に訪れ、造りの参考にしているという。例えば、シャンパーニュ地方では樽発酵、樽熟成する場合、早めに瓶詰めする傾向にあるが、ブルゴーニュの「瓶詰めを急がない」というアプローチで、シュールリーによる長めの熟成を実践する。ただブルゴーニュの白とは異なり、マロラクティック発酵を避ける。シャンパーニュの熟成には、フレッシュさと張りが必要と考えるからだ。実際ドゥヴォーではその後の瓶内熟成も長く、クラシック・シリーズでも最低3年間、コレクションに至っては最低5年間を費やす。ブルゴーニュを参考にしながらも、シャンパーニュに見合った手法を見極めて取り入れている。

 

数種のリザーヴワインで奏でる緻密なニュアンス

そしてリザーヴワインの使い方も独特だ。ノンヴィンテージのキュヴェDやウルトラ Dは、リザーヴワインが40%を占め、重要な役割を果たす。いくつか種類がある中で、主な3種を紹介してくれた。毎年使用した量を新たな収穫分で注ぎ足していくソレラ方式だが、それぞれ異なるやり方だ。

   

まず1種目のリザーヴワインは、コート・デ・ブランのグラン・クリュのシュイイ限定で、1995年から2016年まで注ぎ足したもの。熟成はステンレスタンクで石灰質のミネラルな風味を保ちつつ、緻密で繊細な風合い。力強くも強さに押されすぎず、艶のある丸みも感じる。2種目のリザーヴワインは、キュヴェDを2002年から2016年まで注ぎ足したもの。毎年キュヴェDの瓶詰め時に、その一部を取り分け、リザーヴワイン用の大樽に混ぜ合わせる。すでに40%のリザーヴワインの加わったキュヴェDが、さらにリザーヴワインとして熟成を重ねるという複雑な構造だ。それは味わいに瞬時に表れ、バニラやラム酒のような濃厚で深みのある風味と、とろみのあるテクスチャーで余韻も長い。3種目のリザーヴワインは、2015年の収穫をベースにしたキュヴェDで、40%リザーヴワインがブレンドされたもの。こちらも瓶詰め時に取り分け、リザーヴワイン用の大樽に個別に入れて2年間熟成させている。

よく熟していながら溌剌とした印象で、口当たりに張りがある。ソレラ方式の利点は、熟成したワインに毎年新鮮な若いワインを注ぎ足すことで、若さと熟成感が相まって、複雑性が生まれることだという。このようなリザーヴワインの豊かさで、ノンヴィンテージでも独特な味わいが構築できるのだ。

 
リザーヴワインを巧みに使ったキュヴェD、
区画選別でヴィンテージに焦点をあてたステノぺ

シャンパーニュ・ドゥヴォーのプレミアムシリーズであるコレクションDは、メゾンの全精力を注入したまさに真髄だ。まず現在リリースされているキュヴェDは、2009年をベースに、40%がリザーヴワイン。55%ピノ・ノワール、45%がシャルドネで、マロラクティック発酵をしない割合は20%。ドザージュは7g/ℓ。ココナッツやパイナップル、ドライフルーツやハシバミ、アーモンドの風味でフィレッシュかつ程よい熟成感。

続いてウルトラDは、キュヴェDの辛口タイプで、ドザージュは2g/ℓ。2009年ベース。レモンや柑橘類の皮の風味で透明感があり、やや塩味も感じ、牡蠣やお鮨に合いそうだ。

ロゼは、白ワインに少量の赤ワインをブレンドした製法。50%シャルドネ、50%ピノ・ノワールで、収穫は2011年。軽やかで繊細であり、アペリティフやピクニックなど、日差しの似合うタイプだ。そしてヴィンテージ・キュヴェは現在2008年。比較的冷涼で、フレッシュな艶と張りが特徴の収穫年だ。年を重ねて程よくほぐれ、ふくよかで深みがあり、アプリコットのドライフルーツやマーマレードの風味。フォアグラやリードヴォーにも合いそうな濃厚さだ。

さらに、芸術的な味わいを紡いだキュヴェ・ステノぺは、珠玉の一品。「ステノぺ」とはピンホールカメラのこと。ローヌワインで著名なミッシェル・シャプティエとの共同作業で生まれるこのキュヴェは、各年の最良区画を選別し、ヴィンテージの最高峰を表現する。2010年は気難しく、多くのメゾンではヴィンテージを造らない幻の年。区画の選りすぐりの成果で、エレガントで繊細、レモンのコンフィや柑橘の皮、そしてフローラルな芳香と緻密なテクスチャーに仕上がっている。50%ピノ・ノワール、50%シャルドネで、80%がシュールリーでの樽醸造及び熟成。ドザージュは約4g/ℓ。生産本数5,000〜6,000本の限定品。
(Tomoko INOUE)

 

ミッシェル・パリゾ Michel Parisot

醸造責任者。物理化学の学問を修めた後、醸造学の道へと進み、1990年醸造家のディプロムを取得。1991年からシャンパーニュ・ドゥヴォーに入社。1999年から醸造責任者に就任。個人的に日本文化や和食を好み、自身の新婚旅行の地に選んだほど!

 

 

※「シャンパーニュ・ドゥヴォー」は国分グループ本社が輸入販売しています。

WANDS2018年6月号は「夏のスパークリングワイン」「ブルゴーニュワイン」「ビール」特集です。
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