シチリアの顔 ドゥーカ・ディ・サラパルータ社 Duca di Salaparuta

トップ画像:パレルモ県のカステルダッチャのドゥーカ・ディ・サラパルータ社屋

 

世界で最も多く飲まれているシチリアワイン、それは「コルヴォ」だ。1824年の初ヴィンテージ以来、その名声を保ち続けている。プレミアムクラスの「ドゥーカ・エンリコ」は単一品種で造られた初めてのシチリアワインで、これが生まれた1984年でさえシチリアでは瓶詰めワインの種類はそれほど多くはなかった。常に時代の先を歩くドゥーカ・ディ・サラパルータ社の今について、現地を訪ねて話を聞いた。

 

もてなしのためのコルヴォ

シチリアらしい青い空とサボテン。カステルダッチャの本社屋は、パレルモの中心街から車で40分ほどの距離にある

コルヴォのラベルには ”DAL 1824” と記されている。シチリアはつい数十年前まで、ブレンド用のバルクワインの源と考えられていたが、その土地で1824年に初めてワインをボトリングした人物がいる。それが当時シチリアで有力な貴族であったジュゼッペ・アッリアータ公爵だ。

公爵の館には各国から要人が頻繁に訪れていたため、来客をもてなすために領地に植わるブドウを用いてワインを造り始めた。コルヴォはまさにもてなしのためのハウスワインという役割を担い始めたのだ。その後、フランス・ボルドーに渡って醸造技術を学んだ3代目のエンリコ・アッリアータ公爵の貢献により、コルヴォの品質は飛躍的に向上した。

コルヴォといえばクラシックなラベルを思い浮かべるだろう。しかし、実は今コルヴォには4つのシリーズが存在する。日本に輸入されているのはクラシックなシリーズと、コルヴォ・グリチネの2種類がある。

左からコルヴォ・ビアンコ、コルヴォ・グリチネ・ビアンコ、コルヴォ・ロゼ、コルヴォ・ロッソ

 

コルヴォ&コルヴォ・グリチネ

コルヴォ・ビアンコは、インツォリアとグリッロをブレンドしている。「昔からブドウ品種はそれほど変わっていないが、インツォリアを主体にしてその特徴をさらに生かすことで以前よりフルーティーでフローラルになった」と、エノロゴのジュゼッペ・スパニュオーロは言う。特に夏が暑かった2017年ヴィンテージは例年以上に香り高く仕上がった。柑橘類の香りが華やぎ、ピュアでフレッシュなうえ口当たりはなめらかで、甘みに似た味わいを感じるものの残糖分は0.5g/lのみ。このラインの、日常に寄り添う「ハウスワイン」という位置付けは1824年から変わっていない。

一方で、1994年から造り始めたコルヴォ・グリチネ・ビアンコは、インツォリア、グレカニコ、そしてフローラルでフルーティな香りがさらに秀でるモスカート・ビアンコがブレンドされている。アロマティックな香りを顕著にするのが目的だ。確かに白い花や熟した甘い桃のような香りが立ち上り、アロマが魅力的だ。

エノロゴのジュゼッペ・スパニュオーロは2005年から同社で仕事をしている

「コルヴォが落ち着いたハウスワインの位置付けであるのに対し、グリチネはよりモダンなタイプで、若者やワインの初心者にもアプローチしやすいように、アルコールが少し低めで果実の甘みが感じられ、ボディも軽やかに仕上げてある」。試飲した2017年はとても夏が暑く降水量も少なかったため、例年はコルヴォのアルコール度数が11.5〜12.0%のところ12.5%となり、グリチネが10.5%のところ11.0%となった。また同様の理由で、香りも一段と華やかに仕上がった。こちらは残糖が12g/lあるのでアロマティックな香りもあいまって、カクテルのように食前から楽しめる。ラベルもコルヴォのクラシックな印象に少し彩を加えて清々しいイメージを演出している。

 

コルヴォ・ロゼ&ロッソ

コルヴォには、ロゼとロッソもある。イチゴのような色合いのロゼは、カルタニッセッタのネロ・ダーヴォラとトラパニのフラッパートをブレンドしている。低温でスキンコンタクトを12時間ほど行うことでこの鮮やかな色を抽出するだけでなくアロマも引き出す。16℃ほどで低温醗酵し、ソフトプレスする。試飲した2017年には、ネロ・ダーヴォラ由来のチェリーなどの赤い果実、フラッパート由来のフローラルな香り、加えて色から連想されるイチゴのような香りも感じられる。まろやかでありながらフレッシュな酸があるため、アプローチしやすい。エノロゴのジュゼッペ曰く「バランス良い味わいとフレッシュさ、適度な軽快さに加え色合いが華やかなので、ピッツェリアでよく飲まれている」。

ロッソは2016年ヴィンテージで、清々しい夏の年だった。ブドウはカルタニッセッタのネロ・ダーヴォラに、フラッパートやネレッロ・マスカレーゼなどをブレンドしている。除梗破砕した後、醗酵浸漬は16日ほどで温度は26〜30℃。マロラクティック終了後に50%は大樽で50%はセメントタンクで最低10ヶ月熟成させる。ネロ・ダーヴォラらしいチェリーなどの赤い果実、そしてスパイスの香りが融合し、なめらかで豊かなテクスチャーだ。タンニンがまろやかなので、必ずしも赤身肉料理でなくとも合わせられそうだ。

コルヴォのシリーズは、日本の食卓でも毎日あまり気取らずに楽しめる。まさに「ハウスワイン」の役割を果たしてくれる安心感あるワインばかりだ。

 

「ドゥーカ・ディ・サラパルータ」シリーズ。左からドゥーカ・ディ・サラパルータ・ブリュット、コロンバ・プラティノ、シャラネーラ、ラヴィコ、ドゥーカ・エンリコ

 

ドゥーカ・ディ・サラパルータは自社畑だけ

3代目当主の名前を冠した「ドゥーカ・エンリコ」をはじめとする「ドゥーカ・ディ・サラパルータ」シリーズには、スプマンテの「ドゥーカ・ディ・サラパルータ・ブリュット」、インツォリア100%の「コロンバ・プラティノ」、ピノ・ネーロ100%の「シャラネーラ」、ネレッロ・マスカレーゼ100%の「ラヴィコ」がある。これらはいずれも全て自社畑のブドウだけを用いている銘柄だ。

インツォリアは、島の南西部トラパニのサレーミにある60haの「リシニョーロ」という畑で、土壌は粘土石灰質。夏は40〜45℃にまで気温が上がるので、例年9月第1週に行われる収穫の5日前まで除葉は行わない。ソフトな圧搾により搾汁率は50%までで、低温醗酵の後2か月間シュール・リー。この立地は「芳香性が高く、塩っぽさ、ミネラル感の豊かな白ができあがる」と、ジュゼッペ。洋梨、リンゴ、桃などの清々しい香りとシルキーなテクスチャーが印象的だった。

ネレッロ・マスカレーゼとピノ・ネーロは、エトナの60haの標高600〜800mの「ヴァヤシンディ」という畑から生まれる。風化した溶岩などによる火山性土壌だ。長年サラパルータ社の醸造に携わっていたジャコモ・タキス氏がエトナの立地を見て、気候がアルト・アディジェやブルゴーニュにも似ていると考えてピノ・ネーロを2003年に植樹し、2014年からそのピノ・ネーロでワインを造り始めている。ピノ・ネーロは9月半ばに収穫し、ネレッロ・マスカレーゼは10月下旬に収穫する。ネレッロ・マスカレーゼは樹齢25年ほどで、2003年が初ヴィンテージとなった。「色が淡く、酸が高く、タンニンもしっかりしているという点で、ピノ・ネーロやネッビオーロに共通点が感じられるし、アロマも似ている」。特徴的なスパイシーさを含めたアロマを保ち、まろやかさ、バランスを取るよう、注意深く醸造している。醗酵温度は26℃まででマセレーションは17日間、マロラクティックも終えてから5年目のバリックで12か月熟成させる。2016年のピノ・ネーロは、とてもエレガントなピュアな赤い果実の香りで、しなやかで心地よいテクスチャーだった。

セラーの一角には、初ヴィンテージの1984年からのドゥーカ・エンリコが静かに眠っている

ネロ・ダーヴォラは、中央南部のカルタニッセッタにある140haの「スオール・マルケーサ」の畑。「ドゥーカ・エンリコ」は、シチリアで初めてネロ・ダーヴォラ100%で瓶詰めされたワインだ。「2007年までは標高50mほどの畑からブドウを購入していたが海に近いため成熟が進み酸が低くなりがちだったため、2008年からは自社畑で標高300〜350mの「スオール・マルケーサ」の畑から厳選したブドウだけを用いている」。酸もストラクチャーもしっかりし、より長寿なワインに仕上がるようになった。ここは樹齢25〜30年のアルベレッロ仕立てで、1株あたり4房のみ。収穫量は5〜6t/ha。収穫の15日前に除葉を行う。2011年の「ドゥーカ・エンリコ」は、ほんのりと熟成感ある香りで、なめし革や少しドライな凝縮したチェリー、スパイスなどが広がり、厚みのあるなめらかな味わいで、ストラクチャーもしっかりしていた。

 

「ドゥーカ・ディ・サラパルータ」は高貴な人物にゆかりのある歴史的なワイナリーだ。だからこそ守らなければならない伝統があるが、さらにその歴史を永らえるには革新をしながら時代に合わせていかなければならない。今の消費者の多くは、軽やかでアロマが高く飲み心地のよいタイプを好むとサラパルータ社では分析している。だからコルヴォはそのトレンドも取り込みつつ、親しみやすいスタイルを創り上げている。

一方で、シャラネーラ、ラヴィコ、ドゥーカ・エンリコといったラインはエキスパート向けで、シチリアの伝統的な品種にフォーカスしている。もちろん、どちらも高い品質を維持していく方向性に変わりはない。エノロゴのジュゼッペは最後にこう言った。「エレガンスに重きを置くワイナリーが増えている。一方で、ストラクチャーの強さにこだわる造り手もある。しかし、どちらかに偏ることはない。洗練されたバランスを追求し続ける」。 (Y. Nagoshi)

輸入元:モンテ物産

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