マーク・デ・ヴィアMWが語る ロバート・モンダヴィのワイン

新興ワイン産地カリフォルニアから世界水準のプレミアムワインをつくり出すべく、故ロバート・モンダヴィ氏がナパ・ヴァレー、オークヴィルに自らの名前を冠した「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」を興したのは1966年のことだった。それから半世紀余り、2016年に創業50周年を記念して特別につくられたワイン「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー マエストロ 2013」のセカンドヴィンテージとなる2014年産が、5月22日、日本市場でも数量限定で初リリースされた。また、同ワイナリーのフラッグシップワインで、このほど意匠をリニューアルした「カベルネ・ソーヴィニヨン リザーブ」の最新ヴィンテージ2014年産もこのほどロウンチされた。

同ワイナリーの親会社、コンステレーション・ブランズ社でファインワインの専属エデュケーターを務めるマーク・デ・ヴィアMWがこのほど来日し、これらのワインの試飲を通して、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーのワインスタイルや、歴史的かつ著名な畑ト・カロン・ヴィンヤードの優れた特長などについて語った。

長期熟成が楽しめるフュメ・ブラン

“カリフォルニアワインの父”と呼ばれるロバート・モンダヴィ氏。その革新的なワイン造りの第一歩は、1967年に白ワイン「フュメ・ブラン」をリリースしたことから始まった。それまでのカリフォルニア産ソーヴィニヨン・ブランといえば、甘くて安価。しかしロバートはこれまでのイメージを一新する辛口で高品質なワインを造り上げ、あえて“Fume Blanc”とラベルに表記することで従来のソーヴィニヨン・ブランとの差別化を図ったことはよく知られたエピソードだ。

「果実の風味が凝縮し、口のなかでしっかりとした構造を持ちながら、エレガントで澄明、フレッシュな味わいは、ロバート・モンダヴィワインに共通した特長だ」と、マークは語る。

この日、試飲したフュメ・ブランは2品。

「ナパ・ヴァレー フュメ・ブラン2014」

はスタッグス・リープ・ディストリクトにある自社畑ワッポ・ヒル・ヴィンヤードのブドウが主体。すべて手摘みで、全房圧搾によりクリーンでフェノールや苦み成分がワインに出るのを防いでいる。また、多くをフランス産の古樽で発酵熟成させ、定期的にバトナージュを行うことにより、丸く厚みのある味わいを実現している。

「スタッグス・リープのソーヴィニヨン・ブランはレモンやライム、グレープフルーツなど柑橘のフレーヴァが豊かなのが特徴。輪郭がはっきりとしてスッキリとした辛口。自然の酸とデリケートでスムーズなテクスチャーが調和している。ソーヴィニヨン・ブランは通常早飲みワインと見られているが、6年~8年熟成させて複雑味を楽しむこともできる」。

もう一つの「フュメ・ブラン リザーブ2013」は、100%ト・カロン・ヴィンヤードにある最良の区画(1960年樹のTブロックや1945年植樹のIブロックなど)のブドウを使用。ピーチやネクタリンを思わせる芳醇なアロマとリッチでクリーミーなテクスチャー。そして、低いPH値に由来するミネラル感や塩っぽさを感じる豊かな酸が特長だ。「私が思うに、おそらくカリフォルニアで造られるベストな白ワインの一つであり、20~25年の熟成が可能だ」。

 

日本市場では初リリースとなった「マエストロ 2014」

日本初上陸の赤ワイン「マエストロ 2014

この日、日本市場での発売を前に初めて紹介された赤ワイン「マエストロ」の基本コンセプトは、“巨匠”“名指揮者”という名前が象徴しているように、いろいろな要素を組み合わせたマルチヴァラエタル、マルチリージョンのブレンドワインであること。ボルドースタイルのメリタージュワインだが、より自由な発想で、その年ごとの特長を反映したワインを目指している。また、高級ワインを自らつくり出しただけでなく、ワイナリー設備を他の造り手にも開放したり、若手の造り手の研修や自社内における研究成果を広く公表するなど、ナパにおけるワイン産業の発展に貢献した故ロバート・モンダヴィ氏へのオマージュの意味合いもあるという。

ファーストヴィンテージの2013年はブドウがよく熟した年で、創業50周年を迎える2016年時点でも楽しめるべく、メルロ主体につくられた。これに対して、セカンドヴィンテージの2014年産および現在熟成中の2015産はカベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランが主体。力強く、黒系果実の風味が豊かなト・カロン畑と、チェリーなど赤い果実と明るくフレッシュな風味をもつワッポ・ヒルのブドウの良さを合わせもっている。新樽比率28%で、21か月かけて樽熟成。ジューシーなプラムやカシス、スミレなどのアロマに続いて、シナモンやカカオの香り。まだ樽香が前面にでているが、滑らかなタンニンと力強い味わい。

「AVAナパ・ヴァレーのワインだが、品質的にはオークヴィル・レンジに近い。今後も毎年造り続ける予定だが、生産量が少なく、各国市場への出荷はアロケーションとなっている」と、マークは言う。

これに対して、ト・カロン畑のブドウ100%で造られているのがフラッグシップとなる「カベルネ・ソーヴィニヨン リザーブ」。このワインは1966年に最初に造られた時は、「Cabernet Sauvignon Unfined」

というネーミングだった。「Reserve」の名称が冠されたのは1971年からだ。

新ヴィンテージ2014年産はカベルネ・ソーヴィニヨン93%に、カベルネ・フラン6%、プティ・ヴェルド1%をブレンド。35日間かけてスキン・コンタクトを行い、フレンチ・オーク樽(新樽100%)で19か月熟成した。甘いダークチェリーや凝縮したブラックベリー、トーストしたオーク香やスパイス香など、様々なアロマがひとかたまりとなって溶け込んでいる。

「力強さや複雑性をもちながら、重すぎず、エレガントでフレッシュな味わいのスタイルは、ファーストヴィンテージから現在にいたるまで一貫したもので、醸造責任者のジャンヴィエーヴ・ジャンセンズは1978年からロバートと一緒に仕事をしてきた」

「特に、2000年以降はオーク・ファーメンターを導入し、より凝縮したミッド・パレットと丸くシームレスなタンニン、パワフル&エレガントな味わいに磨きがかかった」と、マーク。

プレス・ランチで供されたワイン4種。「カベルネ・ソーヴィニヨン リザーヴ2014」をはじめ、これから順次パッケージが変更される予定だ

 

ト・カロン・ヴィンヤードの潜在力!

To-Kalonはギリシャ語で“最高の美”“至高”といった意味をもつ。ハイウェイ29号線沿いの西側、ウォルナット・レインを挟んで南北に広がるこの畑は1868年にハミルトン・クラブ氏が初めて植樹を行ったとされる。それから4年後の1872年に、クラブ氏はHermosa Vineyardsという名前のワイナリーを設立し、86年には畑名をTo-Kalonに変更した。彼はさらに畑を拡張し続け、1800年代末、彼のワインは米国内はもとよりヨーロッパへも輸出され、パリやボルドーの品評会でゴールドメダルを獲得するなど、ト・カロンの畑は100年以上も前から名声を欲しいままにしてきた。その後の禁酒法をはさんで、カリフォルニアにおけるワイン造りは変貌し、低価格の大量生産時代が続くが、この畑のポテンシャルに注目したのが故ロバート・モンダヴィ氏だった。

現在、ト・カロン・ヴィンヤードはモンダヴィをふくめ数者がこの畑を分割所有しているが、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーの所有面積は182haと最大だ。

ナパにおけるカベルネ・ソーヴィニヨンのt当たり取引価格が通常およそ$7000といわれるなかで、ト・カロンのブドウだけは$3万~4万5000と別格の扱いだ。このように、著名な造り手達にとって垂涎の的となっているト・カロン・ヴィンヤードのカベルネは何がどのように優れているのだろうか。

ト・カロン畑はヴァレー・フロアーの中心部から西側の東向き斜面に位置し、午後には冷涼な微風が吹いてくる。また、マヤカマス山の陰になって夕日が1時間ほど早く没するので、昼間は暖かい気温が冷やされ、昼夜の寒暖差が大きい。また、扇状地地形がつくり出した土壌は堆積土壌で排水性に優れる。

「北側に隣接するラザフォードも良いテロワールをもっているが、おおざっぱに言うと、ラザフォードのワインが芳醇でタンニンの強さに特長があるとすれば、オークヴィルのブドウを使ったワインは黒系果実の風味が強く、酸が豊か。モンダヴィでは、それぞれの区画にあわせたクローンと台木の選定など、これまでに多くの研究成果を蓄積してきた。特に、リザーブに使われるブドウは古木が栽培されているモナステリー・ブロックに代表されるように、岩混じりで粒子が粗いヒルサイドの区画を選別し、さらに試飲によってキュヴェを厳選している」のだ、とマークは説明している。

▲マーク・デ・ヴィアMW 英国オックスフォード出身で、現在38人いるアメリカ在住のMWの一人。1997年からナパ・ヴァレーに移り住み、20年以上に亘りロバート・モンダヴィ・ワイナリーでスタッフトレーニングやエデュケーション活動を行っている。

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