苦味成分がビールの泡持ちを向上させる ~キリン社がビール表面の分子と泡の安定性の相関を解明~

キリン社・酒類技術研究所は、産業技術総合研究所ナノ材料研究部門・ナノ界面計測グループとの共同研究で、ビール表面の解析に有効な分光法を使って表面を直接測定し、表面のホップ由来の分子とビールに含まれるタンパク質の挙動を明らかにすることに成功したという。以下、そのレポートを要約した。

 

ビールの表面を調べることで、液体の表面にはホップ由来の分子とタンパク質とが両方とも存在しており、さらに表面に現れているホップ由来の分子の存在量とビールの泡の安定性に相関があることが分かった。

ビールの主な原料は水、大麦を発芽させた麦芽、ホップ、ビール酵母だが、中でもホップはビールの魂とも言われ、ビールの風味や特長を出す重要な原料である。ビールに苦味を与える成分は、主にホップに含まれる苦味成分のイソフムロン類で、ビールの泡の形成にも影響を与えている。ビールの泡は、見た目のおいしさだけでなく味わいを決める重要な要素の一つであり、ビールの泡の形成過程を調べ、泡が長時間安定して液体のビールの上に存在することはビールの品質ならびにおいしさの向上にとって重要な課題の一つだった。

ビールの泡の形成、安定化にはタンパク質など液体中に含まれる高分子量分子の介在が考えられており、泡の安定性にもタンパク質は重要な役割を果たしている。液体そのものを調べることでタンパク質の作用と泡の形成や安定性との関連を調べることはこれまでにも数多く行われてきたが、泡は液体の表面で発生するため、泡の形成過程を調べるにはそもそもビールの表面の情報が必要となり、表面は液体の内部と同じなのかどうか全く分かっていなかった。これは液体表面を分子のレベルで調べる手法がほとんど存在していなかったことが大きな要因だった。

今回、物質の表面もしくは界面の分子を解析する方法の一つであるSFG分光法を用いて、液体としてのビールの表面を測定することで、泡の形成過程やその構成、特に気体との界面に存在する分子の挙動を調べ、ホップ由来の分子とタンパク質が表面に共存することを、初めて実験的に確認した。

ビール表面の水に対して、タンパク質とホップ由来成分の疎水性(水に溶けにくいこと)の構造が相互に作用してネットワークを形成し、泡の最表面に現れることで安定性を持つ泡が形成され、さらに表面に現れるホップの量が増加することで泡の安定性が向上することが確かめられたという。

ビールの泡は、見た目のおいしさの他にも、酸化や香り成分の揮発を防ぐなど、ビールのふたのような役割もしている。泡に関与する成分の挙動を把握し制御することは、ビールの泡の品質向上や泡の新しい価値を見出す可能性もある。

この研究成果は、8月10日に日本化学会が発行する学術誌Chemistry Lettersに掲載され、9月10~13日に福岡国際会議場(福岡市博多区)で開催される第12回分子科学討論会でも発表される予定。

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