在来種ボバル、マカベオで造る ボデガ・イニエスタのスプマンテ

イニエスタがJリーグでプレイするようになって、はや半年が過ぎた。

カンプ・ノウに行かなくてもイニエスタをみることができる。しかも日本でみられる。そんな幸せな日が来るとは想像だにしなかった。けれど、人の思いは勝手なもので、どうせ日本にくるのなら神戸ではなく柏レイソルにして欲しかったといまは思っている。ともかく、7月28日、台風がやってくるというのに、いそいそと神戸・ノエスタへ出かけた。ゲームはレイソルが負けたけれど、日本のピッチで躍動するイニエスタをみてそれなりに満足した。

そして11月10日、再び神戸・ノエスタへ。この日は鳥栖戦。周囲ははやくからイニエスタVSトーレスを煽っていて、チケットは発売後すぐに売り切れた。けれど、そんなことは眼中になかった。このゲームで神戸が勝てばレイソルにJ1残留のかぼそい途がのこる。それだけだった。でも結果はスコアレスドロー。鳥栖が自動降格圏から抜け出し、レイソルは自力残留の途を断たれた。イニエスタの動きも精彩を欠いていた。

翌日、ボデガ・イニエスタのプレス・ミーティングが神戸・三宮であった。ボデガ・イニエスタは、アンドレス・イニエスタが故郷・フエンテアルビージャ村(スペイン、カスティーリャ・ラ・マンチャ州)に所有するワイナリーである。社長のアグスティン・ラサロと醸造責任者のエクトル・マルティネスが、ボデガのオーナー・イニエスタを神戸に訪ねてワイン・ビジネスの打ち合わせをした。あわせて関西のお得意さんを表敬訪問し、プレスに新商品を紹介したかったという。その場にイニエスタもやってきた。

 

 

フエンテアルビージャはバレンシア州との境界にある。この辺り一帯にボバルという在来種の黒ブドウが栽培されている。色が濃くてタンニンのとても渋いブドウだから、そのワインはボトルに詰めて販売されることはなく、大きな容器で他所へ運ばれて、彼の地のワインの色付けと厚みを増すために使われるという役割をながらく担ってきた。ところが近年の在来種を再評価しようというワイン界の動きが、遅れ馳せながらこの地方にもやってきて、若い世代がボバルでおいしいワインを造るために試行錯誤を繰り返した。エクトル・マルティネスもその一人である。その甲斐あって、ボバルワインは世界中のプロから注目されるようになった。

エクトルの造ったボバルワインは、ボデガ・イニエスタ・フィンカ・エル・カリール・パオロ・アンドレアという長い名前だ。アンドレス・イニエスタがボバルワインに長男パオロ・アンドレアの名前を付けた自慢の一品だ。ただ、このワインはおいしいけれど生産量が少なくて、日本には来年2月にならないと入荷しないという。

その代わりと言っては何だが、同じボバルで造ったボデガ・イニエスタ・コラソン・スプマンテ・ロサードというロゼのスパークリングワインがあって、これならすぐに手に入る。1本2,800円でシャンパーニュの半額だ。クセの強いボバルでも、ロゼ仕立てにしてスパークリングにすれば瑞々しくて飲みやすくなる。

もうひとつ、コラソン・スプマンテというスパークリングワインもある。こちらはマカベオとベルデホという白ブドウで造る。マカベオもベルデホもボバルと同じ、この地方の在来種である。柑橘と青リンゴや洋ナシなどの香りがして、すっきり爽快な飲み心地だ。こちらも1本2,800円である。

ところで、ボデガ・イニエスタは、スペインのスパークリングワインなのにどうして「スプマンテ」というイタリア語を名乗るのか。スペインならカバかエスプモーソだろう。ワインに詳しい人ならすぐに気がついたはず。そのわけをエクトルに尋ねると、次のような説明が返ってきた。

「米国の若い人たちに大人気のプロセッコのようなスパークリングワインを、マンチュエラ(ボデガ・イニエスタのある地域名)のボバルやマカベオで造りたいと思ったのです。ボトルで二次発酵させるスペインのカバには、味わいが重くて値段が安いというイメージが強いから。それでいまから3年前に、ボバルで造ったベースワイン(二次発酵をする前のワインで炭酸ガスがない)をイタリアの(プロセッコの生産地)コネリアーノに持ち込んで、スパークリングワインの造り方を教わりました。2017年には専用の発酵タンクを買って、収穫から製造までのすべてをフエンテアルビージャで行いました。これは、炭酸ガスを生み出す二次発酵を密閉タンクで行うマルティノッティ方式で造っています。だからラベルにスプマンテを名乗っているのです」。

 

11月24日、柏レイソルはセレッソ大阪に3-0で完勝した。久しぶりに胸のすく思いがした。それでも時すでに遅く、2019年はJ2リーグで戦うことになる。イニエスタとの対戦は1年間のお預けだ。ところで、イニエスタの神戸に来年はダビド・ビジャが加わるらしい。ビジャといえば横浜・日産スタジアムのCWC 2011(クラブワールドカップ)ファイナルを思い出す。イニエスタ、チャビ、メッシを擁するグアルディオラのバルサがCWCを手にした。あのゲームで負傷し、それがもとでバルサを去り、スペイン代表を外れ、MLSのニューヨークシティFCでプレイしていたビジャがJリーグにやってくる。日立台のピッチでプレイするイニエスタとビジャが見たかった。残念でならない。(K.Bansho)

 

WANDS 2018年11月号は「シャンパーニュ&スパークリングワイン」特集です。
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