ヴォルネイの歴史的地所ドメーヌ・ド・ラ・プス・ドール 新当主ブノワ・ランダンジェによる精密な造り

ドメーヌ・ド・ラ・プス・ドールは、4世紀の歴史がある由緒あるドメーヌだ。モノクロームの古い画像と今の様子を映し出しながら「昔はシャトーの前は庭園で、畑を挟んで散歩道もあった。建物の中は改装したが外観は当時そのまま」とブノワ・ランダンジェは語る。父パトリックと20年ともにドメーヌで働き、昨年2018年に当主の職を引き継いだ。

 

二足の草鞋

「ブス・ドール」は、元々は王家に属していたドメーヌで、その後の所有者も多くの著名な人物が名を連ねている。例えば、ロマネ・コンティとクロ・ド・タールのオーナーが所有していた時代もある。フランスは相続の仕組みが複雑なため、相続のタイミングで所有者が変わることが多かったという。

パトリック・ランダンジェは整形外科の医療機器ビジネスで成功した人物で、ヴォーヌ・ロマネに別荘を所有しており、ぶどう畑も購入してワイン造りをしたいと考えていた。そしてこのドメーヌを手にしたのは1997年のことだった。資金を投じ、すべて重力だけで移動可能な6階建て構造の醸造設備が1999年に完成した。自社畑も拡張し、現在4つの特級畑と11の1級畑を所有している。

ブノワ・ランダンジェは、ワイン造りだけでなく医療機器の仕事も父から引き継いだ。ブノワの代で心臓の手術をする際に使用する特殊な内視鏡を開発し、この分野では世界No.1のシェアを占め、複数の会社を経営しているという。眼光鋭く頭脳明晰そうなオーラを放っているが、彼のバックグラウンドを聞いて合点した。ワイン造りにおいても同様に、精密で微に入り細に入りこだわる仕事をしていることを伺わせた。

その一例がこれだ。光学式選果台を使用しているため、全房醗酵をすることはない。基本的にはホールベリーで醸造する。ただ、場合によってはセレクトした状態のよい梗を加えることがある。こうすることで粒も梗も質の高いものだけ使うことができる。

すべての工程において、完璧主義であるとお見受けした。これらが、プス・ドールのワインはどれもピュアで洗練されていて、若くしても楽しめるが長期熟成も可能だ、という評価につながっているのだろう。

 

純粋なワイン造りの追求

「現在、ぶどう栽培にはビオディナミを採用している。私たちの哲学にちょうど合う考え方だから。そして、状態のよいぶどうだけを使うことがとても重要なため、徹底的に選果する。そのために光学式選果台を導入した。もちろん人間の目で選別することも重要だが、人間の目で見えない細かな部分についても選別可能な優れた機械だ」。

そして、2015年から実験的にアンフォラを使い始めたことについて、このように説明した。

「熟成には228ℓの小樽を用いてきたが、750ℓのアンフォラでも試し始めた。そもそも樽を使う理由は、醸造や熟成だけでなく転がして運ぶためであった。そして、オークを通してワインが呼吸をすることにより熟成にもメリットがあるとわかり、広く使われ続けている。しかし、もう一方でビオディナミの目的は、土を活性化してできる限り純粋で混じり気のないワインを創り出すことだ。それぞれの区画や畑の異なる個性をそのまま表現したい。ただ、樽からタンニンなどの成分がワインに吸収される。ぶどうそのものが持っているタンニンと樽のタンニンが融合して質の高いワインになる。ビオディナミによって純粋なワインを創り出すにあたり、樽の影響が加わることはよいことなのかどうか。それがなければ、より純粋なワインができるかもしれない、という考え方もある。オークによって酸素も供給されることでマロラクティックも数か月かけて自然に起こるから、空気はなくてはならない。そして、アンフォラなら空気交換はあるがニュートラルである、と気がついた。だから少量だけ実験的に使ってみることにした。まだ3年しか試していないので確信を得ている訳ではなく、結論が出るにはまだ何年も時間がかかると考えている」。

今回、ラック・コーポレーション<2019春の試飲会>で「ヴォルネイ1erクリュ レ・カイユレ2016」は樽熟成アンフォラ熟成、両方とも試飲に供されていた。アンフォラ熟成の方が、香りも味わいも比較的丸みを帯び、果実の個性が前面に現れておりタンニンも穏やかだ、という印象を受けた。今後、どのような結果が出るのかとても楽しみだ。

 

<おまけの話1:アンフォラ使い>

醸造は温度コントロール用のチューブが内蔵された木製醗酵槽で行う。そして、アンフォラの上には、キャラフのようなガラス管が差し込んである。毎週目減り分を補充しなければならない上、温度によっても樽内の液体量が推移するので調整しなければらならない。しかし、試飲や様子見のために樽を開けるたびに酸化する。だから、頻繁に樽を開けなくてもよいように考えたのがこのガラス管のシステムだ。

アンフォラは、乾燥しているとワインが染み出てきてしまうため、湿度の高い部屋においておかなければならない。そこで、自然に壁から水がしたたり落ちてくるような湿度95〜100%に保たれている館のテラスの上のカーヴにしつらえた。

また、アンフォラ使用にあたっては、昔から醸造にも熟成にも使ってきたシチリアに足繁く通った。2015年に、所有面積が広い「カイユレ」で初めてアンフォラを試し、醸造にも熟成にも使用した。しかし、醸造中の温度コントロールが極めて難しいため、2016年からは熟成だけに使用することにして、比較するために区画は2か所にした。2017年から「ヴォルネイ1erクリュ クロ・ド・ラ・ブスドール(モノポール)」「ヴォルネイ1erクリュ クロ・デ・60 ウーヴレ(モノポール)」「ヴォルネイ1erクリュ レ・カイユレ」の3か所に。 いずれも実験する余裕がある面積を有している畑ばかり。それぞれ、アンフォラ3器ずつを使っており、今のところこれ以上増やす予定はない。ヴィンテージや畑によって樽とアンフォラとの違いがそれぞれ大きかったり小さかったりし、その結果を分析している。10年ほど経過すれば何かつかめるかもしれないと考えている。

 

<おまけの話2:近年のヴィンテージ>

ここ4、5年とても品質がよい。

リスクは高いが春先の芽かきで相当量を落とす。1株あたり5〜6房のみに制限することで、十分な糖分と酸度が保てる。ブルゴーニュでは、夏は暑いが秋は気温が落ち特に夜が寒い。だから、その前に十分熟していなければならない。量は必要ではなく、ともかく品質のみを追求するスタンスだ。

例えば2017年は、9月初めの気温がまだ高い時に収穫した。しかし、その後に雨が降り多くの隣人が大変な思いをした。だから2017年は、畑を十分管理していたドメーヌについては素晴らしい結果となったが、ドメーヌにより大きな差が出たヴィンテージだ。

2018年は、冬から春にかけて記録的な降雨量となったが、そのあとは水不足だった。ぶどうの樹がどのぐらいのストレスを受けたかが、ワインの質に影響するだろう。古木は問題ない。また、9月に入ってもずっと気温が高かったため、2017年とは違い1株あたりの房の数が多い畑でも成熟したぶどうを収穫できたヴィンテージだ。

<おまけの話3:飲み頃>

また、プス・ドールの2011年、2013年、2014年、2016年のいくつかの銘柄も試飲でき、硬い印象を持っていた2013年が開き始めたと感じられた。ただ、今回試飲に供されたの9アイテムはいずれもブノワの指示により「赤は2時間前にダブル・デキャンタ」したという。

他のドメーヌも含めたブルゴーニュの近年のヴィンテージは、2016年はバランスがよいので飲み始められるが、2015年はまだ閉じていて、2014、2013、2012、2011あたりは開いている、とのことなので、ご参考まで。(Y. Nagoshi)

輸入元&ドメーヌ写真提供:ラック・コーポレーション

 

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