光が変われば味わいが変わり、土が異なれば味わいが異なる 安心院葡萄酒工房

安心院(あじむ)は霧深い盆地。南に由布岳を望む。

「ワイナリーに向かうとき、山から霧が降りてきて霧の中へ車を走らせることもあります」と、出迎えてくれた古屋浩二さんは言う。古屋さんはカリフォルニア大学デイヴィス校でワイン造りを学んだ安心院葡萄酒工房の工房長だ。大分県宇佐市安心院町は古くからの農業地域で、稲作、畜産の他、1960年代から国営のパイロット事業としてブドウ栽培が行われている。また清流を利用したスッポン養殖でも知られる。

 

古屋浩二工房長

 

安心院葡萄酒工房の歴史は、麦焼酎「いいちこ」、日本酒「和香牡丹」で知られるメーカー三和酒類が、「いいちこ」発売前にワイン製造に取り組み、1974年に「アジムワイン」を発売したことに遡さかのぼる。その後、隣接する安心院町の依頼を受けて、2001年に開園したものだ。

 

<杜の100年ワイナリー構想>

安心院葡萄酒工房が描く「100年ワイナリー構想」は、安心院にワイン文化を育み、「農」を大事にしたワイン造りを行い、多彩な味わいを消費者に届けること。それは、この土地で育ったさまざまなブドウから生み出される豊富な商品群と、テロワールを描き出す作り手の工夫を加味した味わいの追求である。そのため2007年からは、すべて安心院産のブドウで醸造している。

 

2011年、ワイナリー西側の耕作放棄地4haを開墾し、「あじむの丘農園・下毛(しもげ)圃場」を開き15品種を植えた。この一角に実験圃場があり、300本の5BB育種用台木に安心院オリジナル品種を緑枝(りょくし)接ぎして苗を育てている。山ブドウとの交配種から毎年新しい種を採取し、蒔いた種が芽を出したら台木に接木するという気の遠くなるような作業だ。大分県北部振興局と協働して雨や害虫に強い新品種の模索や、収量性の向上など、生産農家の負担軽減とブドウの安定確保の役割を目指している。

2016年には隣接する北側丘陵を切り拓き、その1haにピノ・ノワールとシャルドネを植樹した。2011年に植えた15品種から、土壌との相性や安心院らしさなどを考慮してカベルネ・フラン、ソーヴィニヨン・ブラン、ヴィオニエ、プチ・マンサンを引き抜いたので、現在の栽培品種は11品種になっている。

 

また同年、国の農地再整備事業でまとまった土地を手に入れた。これは下毛圃場から南東へ約5km、標高200mの高台に矢津圃場10haを2018年に開墾。土壌は礫(こいし)の多い粘土質の赤黄色土。第1期造成エリアにシャルドネ、ビジュ・ノワールを植えた。一文字短梢のT字仕立てを採用している。2019年3月に第2期造成エリアの植樹を開始する予定で、ここにはアルバリーニョ、ピノ・ノワール、ノートン、プチ・ヴェルド、プチ・マンサンを植える。

 

なぜ日本では珍しいアルバリーニョを植えるのかと聞くと、「シャルドネとは違った奥行きがあり、品種特性の面白さがあります。安心院の湿気や栽培環境は、本家のスペイン・ガリシアに似ているし、イベリア半島と九州は形が似ていると思いませんか」と、古屋さんはいたずらっぽく笑った。

ノートンはアメリカ系品種だが、日本人の嗜好にも馴染みやすく、柔らかさの中に独特のスパイシーな香りがある。色が濃く酸の落ちにくい特性は何より魅力的で、ずば抜けた耐病性もある。それに早摘みの小公子(山ブドウの交配種)から遅摘みのノートンまで収穫作業を分散することもできる。2016年に下毛圃場の北側丘陵区に実験的に植えたピノ・ノワールは、まだ結果は出ていないが、ノートンと小公子のツートップに次ぐ品種として、スパークリングワインはもちろん、スティルワインでもチャレンジしてみたいと考えている。

 

安心院葡萄酒工房のワイン生産本数は現在約15万本。8割が大分県内、1割が九州で消費されている。新しい矢津圃場で7万本の増産を見込んでいるが、需要に応えるためには年間30万本の生産が必要。そのためには更に、約10haの畑を開墾しなければならない。2014年にはブドウ畑の広がりに伴うワインの生産量増加に対応するため、醸造場の目の前に2棟の貯蔵庫を建てた。2棟の庫内温度は異なり、ワインの適性にあわせて管理している。

 

2015年にはドイツ製の新しいニューマティックプレスを導入した。窒素ガスを注入して圧搾し、空気に触れずに発酵タンクまで果汁を送ることができる。酸化を避けたい品種には有効だ。最新の充填機の導入や、手作業で行っていたスパークリングワインのコルク打栓とワイヤー懸けの機械化も果たして、着々と増産体制を整えている。加えて、食の安全・安心にも注力しており、JGAP、FSSC22000の認証を取得、環境保全にも取り組んでいる。(K.Hosogai)

 

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