ジョー・アハーンMWのクロアチアワイン &モダンベトナム料理との邂逅

マスター・オヴ・ワインのジョー・アハーンが、2014年からクロアチアのフヴァール島でワイン造りを開始した。ワイナリー名は「アハーン・ヴィーノ」という。彼女の初来日に伴い、東京・外苑前のモダンベトナム料理店「An Di(アンディ)」でランチセミナーを開催した。

 

クロアチアでワイン造りを始めた理由

世界各国でコンサルタントをする彼女が、この地を選んだ理由はなにか?「90種類の固有品種。ユニークな地勢。この2つが大きなポイント」とジョー。土壌はおもに、石灰岩とドロマイトと呼ばれる苦灰石の2つ。これらの土壌は水はけがとても良い。それに加えてクロアチア沿岸部の畑の多くは南向きの急勾配にあり、太陽の恩恵を最大に受ける。

温暖なワイン産地では、時に緩い酸が気になることがある。しかし彼女のワインにはそういった雰囲気が一切ない。なぜなら購入するブドウは標高の高い畑、もしくは低地でも海寄りの海風が強く吹く畑に限られる。収穫のタイミングも生産者任せにはせず、自身がブドウを食味し判断する。ブドウの過熟に注意して酸と糖のバランスを保ち、テンションの感じられるワインを造りだしている。

1)ロジーナ2017 X 海老の生春巻き

ダルネクシャはプラヴァッツ・マリとボグダヌシャにルーツをもつ、絶滅が危惧されている品種で、世界でもわずか1.5ヘクタールの栽培面積しかない。この品種を直接圧搾して造られたロゼは、きりっとシャープな口当たりで、アルコールは11度と控えめ。酸もフレッシュで爽やか。一見軽めだが、舌の上でしっかりとワインのウェイトも感じられる。これは8ヶ月におよぶシュール・リーにより、ワインに溶け込んだ旨味成分がテクスチャーに影響を与えるからだ。

このワインに合わせたのはコリアンダーたっぷりの「海老の生春巻き」と魚醤のソース。日本の魚醤を使うことで生臭みを抑え、上品でいながら旨味がしっかりと感じられる。ワインがもつ柑橘の風味もしっかり残り、オリとの接触によるアミノ酸の旨味と魚醤が持つペプチドの旨味が見事にマッチしていた。

 

2)ワイルド・スキンズ2017 X 揚げ春巻き

3つの土着品種、クッチュ、ボグダヌシャ、ポシップを品種ごとに醸し発酵の後、ブレンドしたオレンジワイン。10日から最長340日の醸しをかけている。熟したアプリコットやオレンジスパイス、フレッシュハーブなど。長い醸しによる酸化的な香りはない。味わいはドライだが、オイリーな質感。わずかに塩気を思わせる余韻。グリップのある苦味がふくよかなボディをギュッと引き締める。

このワインに用意された料理は「揚げ春巻き」。「揚げ春巻きはオレンジワインの渋味度合いによって揚げ具合を調整する」と、アン・ディをプロデュースする大越基裕ソムリエ。ジョーの造る優しいオレンジワインに合わせ、軽めに揚げ、スパイシーな山椒のソースで仕上げてあった。カリッとした衣の中にずわい蟹とおからのフワっとした食感。そこに粘性を帯びた液体が加わることで、よりずわい蟹の甘みが引き出される。そしてオレンジワイン特有の渋味が口中をサッパリ洗い流し、重さを感じさせない絶妙なバランス。

つづく (Taku Iguro)

 

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Jo Ahearne MW(ジョー・アハーン)ロンドン出身。
豪州で醸造学を修め、同国のワイナリーでワイン醸造に従事。
08年、マスター・オヴ・ワインの資格を取得。スペインやマケドニアなど各国で醸造コンサルタントとして活躍。
14年、クロアチアのフヴァール島に自身のワイナリー「アハーン・ヴィーノ」を設立した。

【執筆者プロフィール
井黒 卓
銀座 ロオジエ ソムリエ。沖縄出身31歳。
第8回全日本ソムリエコンクール準優勝。
2018年アジア・オセアニア コンクール4位。

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