カクテルレガシーへ、日本人の技を世界に/ディアジオ社主催のバーテンダー世界大会で総合優勝した金子道人氏

味覚の領域が日本人と外国人で違いも

ところで、味覚の領域について日本人と外国人ではどう違うのか、金子氏に聞いてみた。

「世界大会の競技の時はそれほど感じなかった一方で、外国人バーテンダーと長く接して感じたのは、日本人は味のボリュームの低いところに敏感であるということ。そこによく感じるメーターを持っている。逆にヨーロッパや米国の選手はハイボリュームなものにすごく細かいメーターを持っている。簡単にいうと、インドの激辛カレーを食べたときに、日本人だと辛いとしか思わない。でも外国人はスパイスの種類を嗅ぎ分けている。逆に言うと、日本人には分かる鰹出汁のうまみの違いを外国人が飲むと全部同じに感じたりする。そういうところの差はあると思う。つまり、日本人が特別にすばらしい舌を持っているというよりは、そこには得意な分野があるということ。私も海外でカクテルを飲むと全部甘いとか苦いと感じることが多く、実際に彼らと話しをすると、これとこれは違うと言っているので、そこに私たちとは違うメーターを持っていることが分かる」と説明してくれた。

 

金子氏のチャレンジ実技

金子氏のチャレンジ実技

日本の技術を世界に伝えるのが仕事

最後に、世界チャンピオンとしてのこれからの抱負と、さらに挑戦してみたいことを聞くと、金子氏は「日本人として、日本の技術で優勝したので、これを海外にしっかりと伝える仕事がまず一番大事なこと。その上でこれから挑戦するとすれば、カクテルのベースにはあまり使ったことがないスピリッツとして、例えばテキーラだけでなくメスカルとか、すでにワールドトレンドにはなっていて日本ではまだあまり知られていないピスコ、さらに日本の伝統文化である日本酒を使ったカクテルなども追求してみたい」という。

さらに「私たちバーテンダーはいろいろな液体を口に含む仕事なので、口馴染みがいいというか、よりまろやかで繊細な、日本人ならではの優しい味わいのものを高く評価する傾向がある。ウイスキーでも、はじめは少し刺激の強いアイラ系が好きになり、それから飲み込んでいくと最終的には優しいウイスキーを好きになって来る。世界大会のシグネチャーカクテルで『ジョニーウォーカー』を選んだのはそのため。非常に完成度の高いブレンデッドスコッチウイスキーだから」と付け加えた。

 

日本人の苦手分野にも挑戦

一方で、金子氏は「日本人がつくるカクテルは優しくてソフトな味わいと評価されるが、最近は海外でも同じようなカクテルをつくるバーテンダーが出て来ているので、びっくりする。なので、今後は日本人もハイボリュームなカクテルにも挑戦していかないと、特別な存在ではなくなると思う」と続けた。

というのも金子氏自身、外国人客に対する接客では、自分でもキツイだろうと思う分量のウイスキーを入れても必ずと言っていいほど、「味はいいけどアルコールが足りない」と言われるという。1杯のカクテルをつくるのに、ベーススピリッツで45ミリリットル入れるというのは日本ではあり得ないが、60ミリリットル入れないと納得しない。そういう外国人客の要望にも応えるためにも、あまり得意ではないハイボリュームなカクテルをつくることを「もっと研究しなければいけない」と考えている。さらに、「日本人が得意としない、外国人のように大きなパフォーマンスで見せる力、空間をプロデュースする力もちゃんと取り入れないと今後、日本人の技術を取り込んだ外国人バーテンダーに太刀打ちできなくなる」と至って謙虚である。

日本大会から世界大会まで、ずっと金子氏に寄り沿ってきた、いわばマネージャー役の中牟田孝一氏(キリン・ディアジオ社ワールドクラス日本大会統括責任者)は、金子氏について「海外からの評価で、Humbleという言葉をよく耳にした。これは客観性の高さだと思う。自分自身の志はしっかりと持ちながら、謙虚に人からのアドバイスを吸収できる力がある。さらに失敗から学べる力が非常に強いこと。カクテルにはハプニングはつきもの(金子氏は実技中に手を切って出血してしまうというアクシデントに見舞われた)。ただ、そこから立ち直るプランまで考えている。その準備力の高さというのも非常に高く評価された結果だと思う」と語った。

金子氏は今後、ディアジオ社と結ぶアーティスト契約に基づいて行動することになる。既に海外のリゾートホテルからのオファーもあるというが、奈良の自分のお店を起点に世界で活躍することになる。(A. Horiguchi)

画像:世界チャンピオンになった金子道人氏

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