目からウロコが落ちる! 繊細なマスカット・ベーリーA

マスカット・ベーリーAが想定をはるかに超えておいしくなっていた。

あのキャンディやイチゴのような独特の香りが苦手で、ずっとこのワインを等閑視してきた。正直なところ、これはもう交雑種の宿命、限界だろうと思っていたし、この間の日本ワインに対する評判にもゲタを履かせすぎのきらいがあると感じていた。ところが岩の原ワインのマスカット・ベーリーAを飲んでほんとうに驚いた。

 

岩の原ワイン

岩の原ワイン

岩の原ワイン・ヘリテージ2013は、とってもデリケートな香り、デリケートな味わい。絶妙なバランスがとれている。たとえばそれは、切りたった稜線を歩いているようなスリルと爽快感に似ている。ところがヘリテージ2011は、フレッシュだけれど香りにも味わいにも樽由来の要素があって、それが全体を薄い皮膜のように覆っている。マスカット・ベーリーAのタンニンはとてもデリケートだから、バニラがほんの少し強くなっただけで可憐な果実の味わいを覆ってしまうようだ。このワインはトロンセとアリエのバリック(225ℓ樽セガン・モロー製)で熟成させたという。ただ、2013と2011に共通しているのは、あのキャンディやイチゴのトーンがほのかでとても控えめなことだ。

 

テロワールをそのままワインに表現しようと試みる人たちは、近年、バリック熟成から500ℓ樽やフードルに切り替えている。マスカット・ベーリーAのようにデリケートな品種の熟成もバリックではなく大きな樽に切り替えたらどうだろうか。そんな思いを抱きながら、後日、勝沼産マスカット・ベーリーAを試飲する機会に出くわした。こちらはキャンディやイチゴのようなアロマにバニラの香り加わったものだった。味わいはがっちりアメリカンオークで補強されていた。いわく、「マスカット・ベーリーAは独特の香りが強いので、それをマスキングするためにアメリカンオーク(バリック)の熟成が欠かせないのです」とのことだった。

 

同じころ、メルシャンの女性研究員2名がASEV日本ブドウ・ワイン学会で「マスカット・ベーリーAの香味に関する研究開発」という研究成果を発表し技術賞を受賞したという知らせが届いた。その中に次のような指摘があった。

「マスカット・ベーリーA・ワインは、赤ワインにとって重要な味である“渋み”に関与するタンニンが著しく少ないこと、さらにマスカット・ベーリーAの梗にはタンニンが多いことを見出した。これらの知見を基に梗を利用した醸造を行い、複雑性が増したマスカット・ベーリーA・ワインの醸造可能性を示した」。この研究に使ったマスカット・ベーリーAはたぶん勝沼産(山梨産)なのだろう。

 

新潟県上越市にある岩の原葡萄園

新潟県上越市にある岩の原葡萄園

それで漸く納得した。岩の原葡萄園の本家・マスカット・ベーリーAと、それが伝播した勝沼産マスカット・ベーリーAは、川上善兵衛翁の交雑以来、およそ90年の時を経て、すっかり別のクローンになってしまったのだということを……。

岩の原葡萄園の大山弘平さんがその葡萄の違いを解説してくれた。「山梨のベーリーAは果皮が薄くてガメイのような感じですが、岩の原のベーリーAはもっと果皮が厚いので私はグルナッシュのような感覚を持っています。だから熟成させるときもグルナッシュのように扱うのが良いのかもしれません。南フランスでやっているような大樽で熟成することなど、いろいろ試してみたいと思っています」。

 

2015年の岩の原葡萄園は好天に恵まれた。「マスカット・ベーリーAは過去5年間で最高の仕込み糖度(Brix)19.7になったので、ほんの少し補糖するだけでアルコール発酵をすすめ、アルコール分12.1%のワインができました」(大山弘平さん)。大山さんが発酵を終えたばかりのタンクからボトルに詰めて持参した試飲サンプルを飲んで、もういちど驚いた。新鮮な果実味とデリケートなタンニンに加えて、このワインにはしっかりした厚みがある。このサンプルがマロラクティック発酵を終えて酸味が落ち着いたら、きっと凄いことになると思った。(K. B.)

画像:岩の原ワイン・マスカット・ベーリーA

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