ワインジャーナリストが探るオールドパーの秘密「マイ ウイスキー、マイ ストーリー」 第6回 〜ペアリングの極意/牛の巻〜

〜ペアリングの極意/牛の巻〜

一旦引退を表明した宮崎駿のドキュメンタリー番組を見たことがある。とても面白かった。頑固な宮崎駿のプロ魂が生々しく映し出されていたからだ。

ある場面で、机に向かい絵コンテを何度も何度も描き直していた。貧乏ゆすりをしながら。そして、こう呟いた。「あぁ、めんどくせぇめんどくせぇ。でも、めんどくせぇことが一番重要なんだよなぁ」。

宮崎駿が背中を向けていたこのカットが、一番印象に残っている。

 

手間を惜しまず

「牡蠣の巻」に続き、「Divin Clos」の大越基裕さんと「割烹 小田島」の小田島大祐さんのコンビに、再び「オールドパー」の「シルバー」&「12年」を別の素材との相性実験に取り組んでもらった。

「シルバー」は、軽やかで穀物の甘さが感じられ、ほんのりとスモーキー。軽めの料理が合いやすい。

「12年」は、スパイシーでバニラも香り、凝縮感があって旨味が感じられ、ボディが強く重みもある。焦がしたような香ばしさもある。火を入れたしっかりとした味わいの料理が合わせやすい。

 

それぞれの特徴とペアリングのポイントを教えてもらったが、別の視点で見るとこういうことになるようだ。

「クラシックな料理にはストレートで。モダンな料理には水割りで」。

料理のスタイルに応じて「ボディ」を調整するということだ。加水するとボディの強さは和らぐが甘みが増し、氷を足せば温度も下がり、炭酸水を入れる場合には温度を下げながらフレッシュ感を加えることにもなる。こうしたポイントを押さえておけば、扱いやすくなりそうだ。

 

大越&大祐コンビの「牡蠣の巻」での仔細な対応には舌を巻いたが、やはり「ペアリングはそのひと手間が重要だから」という言葉に意識の高さが感じられる。ふたりで試食&試飲をして、何か足りないものはないかと話し合い、答えを導き出す。今回のお題は「牛」だ。

 

牛しゃぶ+ポン酢 ×「シルバー」 & 牛しゃぶ+ゴマだれ ×「オールドパー 12年」

牛の巻でも前回同様、ご対面の前に「シルバー」はチューニングを行なった。水:シルバー=2:1に、レモン果汁を少々加え、レモンピールでほんのり香りづけ。

レモンピールからのわずかな成分が、フレッシュ感とほんのりとした苦味をプラスする大切なアクセントの役割を果たしている。また、レモン果汁も数滴にもかかわらず、ポン酢の酸味と均衡を保つのに一役買っているのだ。

「シルバー」に合わせる牛しゃぶは、特製のポン酢で食べる。

「ポン酢はわりあい酸味が強く、その味わいが口の中にステイするので、レモン果汁を加えることで後味の酸が同調する」と大越さん。

なるほど、実際に食べてみると両者の酸と酸の加減がちょうどよく、箸を持ち、今度はグラスを持ち、また箸を持ち、と忙しくなった。

しかし、特性ポン酢側も密かに味わいを合わせてきていた。最後におろし生姜を少量加えていたのだ。これでポン酢に清涼感が加わり、シルバーに加えたレモン果汁との相性がさらによくなっていたのだ。わずかな差異だと思う。しかし、妥協のないこの微調整、このひと手間がやはり重要な仕事なのだ。

 

今度はゴマだれと「12年」のお目通り。「12年」は堂々と素のままで、対してみることになった。

こちらも「12年」のための特製ゴマだれで、そのままスプーンで食べてもよいぐらいの美味しさだった。クタクタに茹でたゴボウをピュレにしたものが混ぜこまれていた。「牡蠣の巻」で生牡蠣のほんのりスモークに使ったトリュフ塩と似た発想で「土っぽさをプラスする」のがゴボウの役目だった。

 

「ゴマだれは、ずっと食べていると疲れることがある。ただ『12年』だとワインとちがい甘みと深みがアップする」。確かに、どちらも味わいだけでなく香りも倍増するから、もう一口、またもう一口と進むのだ。

「素材よりも料理、調理法で風味を合わせる」という工夫の結果がこの一連の流れにつながった。

 

「この糸を引く感じの連続性が、ペアリングの極意なんです」。

何しろ食欲が増し、飲みたくもなる。ペアリングがぴったり当てはまれば客人は食後の満足度が高くなる。顧客の満足度が高ければ、店も一層繁盛する。つまり、どちらもハッピーな関係になるということではないだろうか。食中酒の存在とそのペアリングはやはり侮れない。

 

大越&大祐コンビも今回の試みを存分に楽しんでくれたようだ。

「オールドパー」の「シルバー」&「12年」ペアリング実験室の成果を、また別のプロの仕事に繋げてもらえれば嬉しい。(Y. Nagoshi)

 

<実験後記> おふたりからこのような言葉が届きました。

ボーダレスな世界を追求し楽しむ大越基裕さん(左)と小田島大祐さんの名コンビ。

小田島大祐さん「今回のペアリングを通しての一番の発見は『香りを味わう』ということでした。割るものの種類や添える果実によって色々な表情を見せたオールドパーは、小皿料理やつまみの多い和の食卓にぴったりです。オールドパーの可能性を楽しく学びました」。

大越基裕さん「ウイスキーのアルコール度数の高さとのつきあい方が、特に印象に残り面白いと感じました。料理の風味や脂質の強さとうまく合わせていくと、アルコールの強さがむしろポジティブに働く。ウイスキーは、美味しさを保ちながらアルコールの強さを自由に変えられるのが強みだと思います。まさに「ボーダレス」! ハードリカーをもっと食中酒に取り込むと楽しいですね。美味しいものの間のボーダーはどんどんなくなってきています。軽やかな『オールドパー シルバー』はスモーキーさと塩みが特徴的な風味でした。しっかりとした『オールドパー 12年』は、焦がしたような強い風味があるので、香りとのマッチングが大切です。香ばしさと甘さによく合います」。

ワインジャーナリストが探るオールドパーの秘密 第1回 〜オールドパーの格とオーセンティシティ〜

ワインジャーナリストが探るオールドパーの秘密 第2回 〜世代を超えてオールドパーを選ぶ理由(わけ)〜

ワインジャーナリストが探るオールドパーの秘密 第3回 〜食後酒から食中酒へ 前編〜

ワインジャーナリストが探るオールドパーの秘密 第4回 〜食後酒から食中酒へ 後編〜

ワインジャーナリストが探るオールドパーの秘密「マイ ウイスキー、マイ ストーリー」 第5回 〜ペアリングの極意/牡蠣の巻〜

 

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