山と海に挟まれたブドウ栽培の理想郷 多様なワインを生み出しはじめたアブルッツォ

今年2018年は、アブルッツォ州を代表するワイン、Motepulciano d’AbruzzoがDOCに認定されてちょうど50周年にあたる。これを記念して、アブルッツォのワイン生産者協会はアブルッツォ産ワインの一層の啓蒙と品質管理向上のための活動を展開している。そしてその一環として今年12月1日から、Montepulciano d’Aburuzzoにとどまらず、全てのアブルッツォ産DOPワインに、イタリア政府のIDシールを添付する予定だ。

 

ブドウ栽培の適地

アブルッツォはイタリア中部、アドリア海とアペニン山脈の最も険しい要衝であるグラン・サッソ山塊とマイエッラ山に挟まれたところに位置する。内陸部は州の面積の65%以上を占める山岳地帯であり、残りの海岸に近いところも丘陵地が細長く広がっている。アペニン山脈のアドリア海を臨む側は極めて温暖、これに対して内陸部はより大陸性気候の要素が強くなる。

この地域をユニークな存在にしているのは山岳地帯から海までの距離が短く、その距離数10kmは車なら1時間もかからずにカバーすることができることだ。こうした地理的条件は、昼夜の寒暖差とともに、風通しの良さ、理想的な雨量、そして優れた日照をもたらし、ブドウの生育にとっては理想的な環境をもたらしている。

労せずともそこそこのブドウが生育できる環境下にあって、アブルッツォでは永年にわたり質よりも量を重視したブドウ栽培が行われてきた。しかし、90年代以降、特に2000年代に入ってアブルッツォにおけるブドウ栽培は新世代の台頭とともに品質面でも急速な進歩をとげている。

 

ブドウとワインの生産状況

ブドウ栽培はこの地域の農業にとって主導的な分野であり、今日、3万6000haのブドウ畑から年間およそ380万hlのワインが産出されている。

ブドウ栽培はほとんど全て丘陵地に集中している。南部Chieti(キエーティ)県が州内の総栽培面積の75%以上を占め、これに続いてPescara(ペスカーラ)とTeramo(テラモ)両県がそれぞれ約10%。内陸部にありアペニン山脈が連なる山岳地帯のL’Aquila(ラクイラ)県の栽培面積は4%弱にとどまる。

伝統的に棚式のペルゴラ仕立てが一般的で、いまでもブドウ畑全体の80%以上を占め

ているが、近年ではペルゴラのメリットを活かしながら、低収量で高品質ブドウを収穫するための取組が広く進められるようになった。垣根仕立ても増えつつあり、短梢コルドンやギュイヨ、GDCなど様々な仕立て方が試みられている。

モンテプルチャーノ種は記録に残る限りでも1700年代半ばからこの地において最も広く栽培されている品種で、作付面積は約1万7000ha。アブルッツォ全体の53%を占める。近年に限っても新植される品種の70%以上がモンテプルチャーノだ。

これに次いで多いのがトレッビアーノ種で、1万4000ha強。この二つの品種で65.6%を占めている。

一方で、pecorino(ペコリーノ)、passerina(パッセリーナ)、cococciola(ココッチオーラ)、montonico(モントニコ)などの在来品種はこれまではモンテプルチャーノやトレッビアーノの補助品種としてブレンドされてきたが、今日では単一品種ワインが盛んにつくられ、人気を集めつつある。さらに、90年代以降、先駆的生産者の成功に促されるようにしてサンジョヴェーゼ、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなどの国際品種も広く栽培されるようになった。

アブルッツォには1万軒におよぶブドウ栽培者と約250のワイン製造会社が存在する。ワイン全生産量の4分3は40(この内、32がキエーティ県に集中)を数える協同組合によって生産されている。

アブルッツォのワインはドイツ(23%)やUSA(20%)、カナダ(10%)を初めとする輸出市場でも人気を博している。近年、特に成長著しい市場は英国、スエーデン、デンマーク、ノルウェイなどの北欧諸国。価格高騰気味のピエモンテやトスカーナなどのワインに比べ、まだまだ比較的手頃な価格で手に入れることができ、しかも様々な料理と合わせやすい多様な味わいが人気の源泉といえるだろう。

 

主要なブドウ品種とDOP規定

アブルッツォでは1つのDOCGと8つのDOCが認定されている。

DOCGは2003年に認定されたMontepulciano d’Abruzzo Colline Teramaneで、北部テラモ県のモンテプルチャーノを90%以上使うことが条件。

DOC Montepulciano d’Abruzzoは州内全域で生産され、DOCワイン全体のほぼ8割を占めている。モンテプルチャーノは一般に標高500m以下のところで栽培されているが、最大15%まで他の品種をブレンドすることも可能。DOC規定ではアルコール度数が12%以上、リゼルヴァは12.5%以上。

モンテプルチャーノは凝縮したルビー色を呈し、赤い果実や花やスパイスのアロマ、ドライだがソフトで適度なタンニンを備えている。晩熟型で、ブドウの熟期は通常10月1日~20日の間に訪れる。様々な仕立て方が可能で、この品種から造られるワインは収穫後6~8か月、最長でも18か月以内で飲まれる比較的安い値段の若飲み用ワインとしても楽しめるし、一方で、オーク樽を使って長期熟成させるとより複雑みを帯びた秀逸なワインともなる。

ペスカーラ県で造られるMontepulciano d’AbruzzoにはTerre dei VestiniとCasauria(またはTerre di Casauria)という二つのサブ呼称が、また、2010年からはキエーティ県内にTeate、ラクイア県内にTerre dei PeligniとAlto Tirinoという二つのサブ呼称が認定された。

2011年に誕生したもっとも新しいDOC Villamagnaはモンテプルチャーノを95%以上使うことが条件。キエーティ県のヴィッラマーニャ一帯は構造のしっかりとしたワインの産出地として知られる。同じ年、キエーティ県に誕生したもうひとつのDOC Ortonaは赤と白があり、赤はモンテプルチャーノ95%以上、白はトレッビアーノ・アブルッツォとトレッビアーノ・トスカーナを合わせて70%以上となっている。

 

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