シャトー・メルシャン スタートアップワイナリーへのコンサルティング事業を開始

コンサルタントのシャトー・メルシャン シニア・ワインメーカー 藤野勝久氏(中央)、アールペイザンワイナリーの栽培・醸造責任者の高橋和也氏(右)、MKファームこぶしの堰根慶氏(左)。

日本のワイナリー数は直近5年で1.5倍になった。しかし国内では栽培・醸造を系統的に学べる場所が限られている。
そこでシャトー・メルシャンは持続可能な日本ワイン産業を目指し、スタートアップワイナリーへのコンサルティング事業を開始した。

日本を世界の銘醸地に

メルシャンは日本のワイン黎明期から、自社だけでなくワイン市場全体が活性化するよう尽力してきた。メルシャン藤沢工場長、メルシャン勝沼工場長(現シャトー・メルシャン)を務めた浅井昭吾氏(筆名:麻井宇介氏)の、「メルシャン1社で良いワインを造っても地域全体でワイン産地として認められなければ、将来日本ワインの発展はない」という理念を引き継ぎ、「日本を世界の銘醸地に」を掲げてきた。

日本ワインへの注目度が上がり、国内のワイナリー数も毎年増加している。しかし、いくつもの課題が見えてきた。ひとつは、日本のワイナリーの大多数が中小企業で低収益であること。とくに新規ワイナリーの多く生産量が少なく、営業利益がマイナスである。そして最も大きな課題が、栽培や醸造に関して系統的に学べる場所が限られていることだ。日本ワイン全体が持続的に発展していくためには、強固な基盤を形成しなければならない。そう考え、シャトー・メルシャンが掲げるビジョンに共感するスタートアップワイナリーに対して、コンサルティング事業を開始することを決断した。コンサルティングは、シャトー・メルシャンの技術者やOBが行い、それぞれが抱える問題をひとつずつ解決していく。

すでに始まっているコンサルティング事例は4件ある。2021年4月から開始した岩手県花巻市の「MKファームこぶし」、同年8月からは近隣の「アールペイザンワイナリー」も。今年7月からは宮城県仙台市の「仙台秋保醸造所」、9月からは南三陸市の「南三陸ワイナリー」も加わった。今回、「アールペイザンワイナリー」を訪ねて実例を取材した。

棚田を崩して整地したなだらかな傾斜の畑。ペットボトルはスズメバチ対策に手作りしたトラップ。

花巻市のアールペイザンワイナリー

アールペイザンワイナリーでは、継ぎ手のなかった2haのリンゴ園と新たに植えた専用品種からシードルも造っている。

花巻駅から車で5分ほどの丘の上にモダンな建物がある。社会福祉法人悠和会が立ち上げたワイナリーだ。1.3haの耕作放棄地だった棚田を崩して斜面にし、ブドウ畑に整備。ブドウは2018年にマスカット・ベーリーA(以下MBA)、メルロ、シャルドネ、ゲヴュルツトラミネールを植樹した。昨年が初収穫で、収穫前の8月に契約。シャトー・メルシャンのシニア・ワインメーカー藤野勝久氏が担当し、年に7回14日間ほどじっくりとコンサルティングを行っている。

「まずブドウの状態を見て、どのようなワインができそうかを伝えました」と、藤野氏。真っ黒な果皮で小ぶりな房、そして疎着なメルロやMBAに、一定以上の可能性を感じたと言う。病気もなく、種も木質化し、梗も熟して赤茶色に。良質なブドウの個性を尊重し、丁寧に醸造・育成を行うようにアドバイスした。房を洗って乾かし、除梗してから粒選り。破砕し、2週間のマセレーション。その後、新たに購入したタランソーの小樽で育成。

「じつは、樽育成は考えていませんでした」と、アールペイザンワイナリーの栽培・醸造責任者の高橋和也氏は言う。予定していなかった高価な買い物となったが、ワインの成長とともに納得している。

今年は梅雨が明けずに苦労したと言うが、例年は奥羽山脈と北上山地の恩恵で台風の影響を受けずに済み、雨が少なく、冷涼な気候にある。例えばMBAは糖度がBrix20°を超え、総酸度7g/l。4品種とも無補糖・無補酸でいける。糖度や酸度をはじめ、いつ、何を、どのように分析し、どのように判断するのかをその都度伝えていく。収穫の適期についても話し合い、今年はシャルドネを待てるだけ待ち5回に分けて収穫したと言う。

「MKファームこぶし シャルドネ 2021」(左)と、「アールペイザンワイナリー シャルドネ 2021」。

「とてもきれいな畑で良質のブドウができていますから、あとは造り。とても素直に意見を聞き、熱心に取り組んでいます。それがワインに反映されています」と、藤野氏。「合格です」と目を細める。

 

花巻市の MK ファームこぶし

花巻市で、みちのくクボタグループが「MKファームこぶし」を2017年に興し、同じく2018年にブドウを植樹した。品種はカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、ツヴァイゲルト、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなど。

「今は5haですが、将来20haまで拡張したいと考えています」と、栽培・醸造を担当している堰根慶氏は言う。まだワイナリーができていないためアールペイザンワイナリーに醸造を委託し、藤野氏が訪問するたびに同時にアドバイスを受け、学びを積み重ねている。初めにうちは、目標とするワインの姿を聞かれても返答のしようがなかったと言う。

「どういうワインが良いワインかを知らなければ、良いワインは造れません。だから、良いワインをたくさんテイスティングすることも勉強ですね」と藤野氏。2021年の両社のシャルドネを試飲すると、アールペイザンワイナリーは柑橘類の清々しい香りときれいな酸が印象的だったのに対し、MKファームこぶしはよりふわりとした甘い香りとソフトな口当たりだと感じた。「発酵直後はどちらも少し線が細いと思いましたが、オリや樽の力も借りながらよくここまで成長しました。するべきことをきちんと行えば、ブドウの個性を生かした良いワインになります」と、藤野氏も改めてブドウの力に感心している。

収穫直近のMBA。メルロと同様に垣根仕立て。小さな房で粒も小さく疎着。種も良く熟していた。

浅井氏のDNAを伝授

高橋氏も堰根氏も声を揃えて言うのは、藤野氏から受ける人肌感だ。

2週間前に収穫した2022年のシャルドネを樽発酵中。状態を確認する藤野氏の意見を聞く高橋氏

2021年の樽育成中のMBA。メルロもMBAも疎着で一粒一粒日照が行き渡り日較差も大きいため、セニエしなくても十分な色が得られる。

「周りにはワインに対して情熱的な人がいませんでした。例えば小樽を購入したのも、藤野さんの熱意に押されてのことです。真面目にワインに向き合えば、こういうワインができるとわかりました」。「フランス駐在時代の話や、浅井さんからの教え。技術的なことだけでなく、ワインに対してあるべき姿勢を学ばせてもらっています」。「無我夢中なので、まだ独自のスタイルがどうかというよりも、正直迷いの連続です。でも、長年の経験がある藤野さんが見て、方向性を示してくれることで、とても安心して進められます」。

藤野氏は、浅井氏にとって教え子第一世代に当たり、大変厳しい薫陶を受けたようだ。とくに品質管理については相当厳格な人物であったと言う。このような経験があるからこそ、ブドウの成長とともに造り手も経験を積み、岩手あるいは花巻市のスタイル、ワイナリーごとの色が生まれてくることを何よりも願っているように映った。ワインに対する情熱、正しい姿、厳しい観察力を伝授することに重きを置いているため、伝わりやすいのだろうと感じた。

花巻市のアールペイザンワイナリーのショップと醸造所。小規模だがモダンできれいなしつらえ

問い合わせ:メルシャン
0120-676-757
https://www.chateaumercian.com
飲酒は20歳を過ぎてから。

 

続きは、WANDS 11月号
【特集】進化し続けるクラフトジンの実力 泡立つ需要スパークリングワイン
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