ブルゴーニュ公国の初代公王が所有していた「ドメーヌ・デュ・シャトー フィリップ・ル・アルディ」

ブルゴーニュ好き、ピノ・ノワール好きならブルゴーニュ公国の初代公王フィリップ・ル・アルディの名前を知らない人はいないに違いない。この公王が、ガメイを引き抜きピノ・ノワールに植え替えるよう、1395年に勅命を発した人物なのだから。

公王フィリップ・ル・アルディが所有していたシャトーとブドウ畑は、今でもサントネーにある。かつて「シャトー・ド・サントネー」として知られていたが、2021年7月1日にその起源に因んで「ドメーヌ・デュ・シャトー フィリップ・ル・アルディ」と改名している(輸出先のカナダだけでは以前から「ドメーヌ・デュ・シャトー フィリップ・ル・アルディ」として販売していたようだ)。

ブルゴーニュ公国の初代公王フィリップ・ル・アルディの肖像画。

 

<25か年計画>

歴史ある美しいシャトー。

実はこのドメーヌは、相続の関係から1997年に大手金融機関のクレディ・アグリコールが買い取ることになった。その後2019年にシャンボール・ミュジニー、ジュヴレ・シャンベルタン、そしてクロ・ド・ヴージョにも0.65haの畑を取得して、今では35のクリマに合計98haの自社畑を所有している。大ドメーヌである。また、ピノ・ノワールが65%を占め、残り35%はシャルドネの畑。このうち、メルキュレの畑が65haと多い(赤50ha、白15ha)(ドメーヌのブドウ以外にも5ha分だけサントネイの長期契約農家から購入している)。

総責任者を務めるジャン・フィリップ・アルシャンボー氏が来日し、近年の変化や進化について語ってくれた。

総責任者を務めるジャン・フィリップ・アルシャンボー氏。

1997年にクレディ・アグリコールの傘下に入ってからすぐ、25か年計画を立てたという。まず取り掛かったのは畑の手入れ。メルキュレのプルミエクリュ・シャン・マルタンの畑は状態が良かったからそのままだが、その他の畑についてはメルキュレを中心に徐々に植え替えを行うことにした。これは計画通りに進んでいるそうだ。

そして、2004年にはサステナブル認証のテラヴィティスを取得し、2008年からオーガニック栽培のトライアルを始め、2011年には除草剤は不使用にするなど、長期的な視野で環境に配慮した仕事を継続している。そして、2021年からオーガニック認証取得に向けて準備を始め、今年認証を取得予定だ。

「オーガニック栽培を始めると収穫量が落ちると聞いていたが、そうはならなかった。準備期間が長く、横に伸びていたブドウの根は徐々に縦に伸び始めたからだ。急に変えるとガタッと収穫量が落ちるという」と、アルシャンボー氏。

そして、2番目の改革はワイナリー。2013年から2014 年に改装し、醸造設備も入れ替えた。

さらに3番目に、品質を向上するために醸造の変更にも着手した。このスタイルの変更のために大きく貢献しているのが2019年に参画したアルシャンボー氏だ。

<醸造の進化>

以前は除梗した後にブドウ果粒はパイプで移動していたという。

「しかし、せっかく手収穫したのにパイプの中で果皮が傷つくのはもったいない」と考え、そのまま優しくタンクへ入れるように手作業でコンテナに入れてコンベアで持ち上げ、重力でタンクの中へ投入する仕組みに変更しました」と、アルシャンボー氏。

発酵後にも粗いタンニンが出ないよう重力を用いて慎重に取り扱う。熟成に関しても新樽比率が高かったが、味わいのバランスを重視し、新樽は少なくし熟成期間を長くする方向へ転換した。例えば、サントーバンの樽熟成は11か月だったところを18か月へ延長した。

また、赤ワインに関する大きな変化は、コート・ド・ニュイのワインを中心にヴィンテージによっては全房発酵を取り入れるようになったこと(2020年は25%全房)。

アルシャンボー氏は、バイオダイナミック農法で知られるM.シャプティエがオーストラリアのプロジェクトを立ち上げる際に関わったり、シャブリのシモーネ・フェーヴルではイランシーやクレマンなどの醸造もしたり、さまざまな経験をしている。

「畑が広がったおかげでトライアルがいくつもできるようになりました。今年の年末から、2020年ヴィンテージのブラン・ド・ブランのクレマンを、ノン・ドゼでリリースする予定」だと、新たな試みに胸躍らせている。ブドウはサントーバンの1haの畑のシャルドネだ。

また、2年前からオレンジワイン、ロゼ、サン・スーフル、アンフォラや大樽醸造のキュヴェも試している。ただしこれらのトライアル品は、ワイナリーのセラードアでしか試せない。

「今月は実験的に5つのワインのセラードアで試飲できるようにしたのです。サン・スーフル、オレンジ、ロゼ、ガラス容器のワイン・グローブで貯蔵したメルキュレ・ブラン、樽発酵させたブーズロン。こういった作品を見てもらうことで、伝統的な産地でもイノヴェーションを行っていることをわかってもらえるのではないか、と考えたからです。もちろんグランクリュにしか興味のない人もいると思いますけれどね」。

<メルキュレの注目度アップ>

メルシュレは近年注目を浴びている産地の一つだ。

「15年ほど前までは粗野なイメージがあると思います。それは、ブドウが未熟なためピジャージュによる抽出をしっかり行っていたからです。ところが今では毎年ブドウが成熟するようになりました。そして、柔らかいタンニンを得られるように、ピジャージュではなくポンピングオーバーしかしていません」。

2020年の収穫は8月半ば下旬に行い、収穫時期も早まっている。また15〜20年前はコート・ドールと比較して量産する産地と考えられ、大きなタンクで複数の区画を一緒に醸造していたことも影響しているという。今では区画ごとに小さいタンクで醸造し、単一畑で瓶詰めもするようになった。そのためメルキュレの品質そのものが随分上がってきている。これらが奏功し、多様性がありそれぞれが持つ品質は高くなってきている。

「これまではコート・ドールのクリマについてしか語られてきませんでしたが、メルキュレはとても多様性があり面白い産地だと感じています」。

ブドウの熟度が上がったことだけでなく、すべての収穫を手作業で行うようになってきたこと、収穫量も低くなってきていることなど、複数の要因がメルキュレをより興味深い産地に変化させてきている。今後、メルキュレのクリマの違いについて語られる日が待ち遠しい!

 

今秋入荷予定の2022年ヴィンテージを一足早く試飲させてもらった(リンク先は2021年、2020年)。

ブルゴーニュ コート・ドール <クロ・ド・ラ・シェーズ デュー> 2022

畑はサントーバンの斜面の上方に位置する12haの畑。ピュアなリンゴ、硬めのモモ、ミラベルなどフレッシュな果実の香りがし、キリッとした爽やかな酸味とミネラル感が心地よい味わい。

サン・トーバン <アン・ヴェスヴォー> 2022

斜面の下方に位置する粘土質が豊かな20haの畑。熟したリンゴや柔らかなモモを思わせる、フレッシュながら丸みのある香りで、味わいもふっくらとして酸は爽やかながら粘性も感じられ、余韻にバニラ香も。

サントネー プルミエ・クリュ <ラ・コム> 2022

2010年からオーガニック栽培を行なっている畑。最も早く収穫するという。「シャサーニュ・モンラッシェのすぐ隣の畑なので個性がよく似ている」と、アルシャンボー氏。バニラなど甘くまろやかな香りが広がり、味わいもふくよかでリッチ、そしてほのかな収斂性が味わいを引き締め、余韻はフレッシュ。

メルキュレ プルミエ・クリュ <レ・ピュイエ> 2022

6haの東向きの急斜面の畑で、土壌は石灰質。「メルキュレの4つのプルミエ・クリュの中で最も洗練され、常にエレガントなのが特徴」。別のプルミエ・クリュ「シャンマルタン」の場合は粘土質が豊かなためよりリッチになるという。ラズベリーやフレッシュな日本のサクランボ、そしてなめし革を思わせる若々しい香りで、味わいは確かにとてもエレガントでフレッシュ。

ポマール <プティ・クロ> モノポール 2022

シャトー・ド・ポマールの畑に隣接する畑。0.3haしかないため約1,500本の少量生産。凝縮した香りと味わいで、丸みがありながらエレガントな仕上がり。

シャルム・シャンベルタン グラン・クリュ 2022

樹齢80年のブドウで、生産できて600本ほど。2022年は50%全房発酵(2021年は梗が熟さなかったのでゼロ)。香りがとても上品に立ち上る。味わいもまさに「シャルム(チャーミング)」で、実に繊細でしっとりとしたテクスチャー。タンニンもとてもエレガント。

(text: Y. Nagoshi)

輸入元:ラック・コーポレーション

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