- 2026-6-7
- Wines, フランス France

南仏ラングドック地方は、この四半世紀で劇的な変貌を遂げた。その変革の急先鋒に立ち、産地の地位を一段上の段階へと押し上げてきたのが、ジャン=クロード・マス氏率いるドメーヌ・ポール・マスである。2026年に創業25周年を迎え、プレミアム化戦略をいっそう推し進める同社が、このほどパリで記者会見と試飲会を開いた。
現在、傘下に17のドメーヌとシャトーを擁し、自社畑は940ヘクタールに及ぶ。これに約80軒の契約農家から得る1500ヘクタール分のブドウが加わる。年間生産量は16万ヘクトリットル、ボトル換算でおよそ2000万本にのぼり、キュヴェ数は180を数える。従業員は240名、2023年の売上は7500万ユーロ。輸出比率は88パーセントに達し、英国・オランダに次いで日本は主要7市場の一角を占めている。
17ドメーヌ、940ヘクタールの足場
出発点は、ジャン=クロード・マス氏が父ポールから受け継いだ35ヘクタールの畑であった。2000年に自社を設立して以降、リムー、コルビエール、テラス・デュ・ラルザック、グレ・ド・モンペリエ、コート・デュ・ルシヨンへと所有地を次々に広げてきた。扱う品種はおよそ50、180品目のうち8割が仏小売価格5〜10ユーロ帯に収まる。マス氏自身はこの価格帯を、実用本位の消費から満足感を求める消費へと切り替わるゾーンと捉え、事業の中核として長く育ててきた。
そのマス氏が、ここ数年で明確に舵を切ったのが上位価格帯キュヴェへの集中である。25年の経験を通じて土壌、気候、植物、品種を理解した今、各ドメーヌの並外れたテロワールの価値を前面に押し出す時が来た、とマス氏は語る。普及品で得た資金と技術を、希少な区画の解像度を高める方向へと振り向ける――それが同社の現在の姿勢にほかならない。
醸造の現場では、アロマを保護するための夜間の機械収穫、果実の損傷を防ぐ重力フローシステムが徹底されている。さらに自社畑の3割で有機栽培を行い、プレミアムキュヴェの多くにビオディナミを導入。自然な表現へのこだわりとして、一部の象徴的なキュヴェでは発酵段階での亜硫酸添加を一切行わず、自生酵母による発酵や、オレンジワインの手法であるスキン・コンタクトを採り入れるなど、伝統と革新を交差させている。
頂点を担う3本柱の現在地
このプレミアム化の起点となったのが、2018年に世に出した3つのキュヴェである。すなわち「クロ・アステリア(モンタニャック)」、「シャトー・ロリガのロリニャ(ルシヨン)」、「ドメーヌ・シレーヌのシレニュス(グレ・ド・モンペリエ)」。いずれも年産5000本前後にとどまり、長期樽熟成を経てから出荷される。

アステリアの中核を成すのが、スーパー・トスカーナに着想を得た「グラン・オクシタン」シリーズである。半径2キロ圏内のブドウ園を土壌・湿度・向き・標高で区分けし、個別に瓶詰めする手法をとり、ボトル名にはその標高を記す。「シャラマ178」はシラー60パーセント、グルナッシュ40パーセント、樹齢35年、収量35ヘクトリットル毎ヘクタールで、フレンチオーク18か月熟成。「グランジェット111」はシャルドネ100パーセントを5か月樽熟成し、瓶詰め時のみ亜硫酸を添加する。「クロ・アステリア、ル・グラン・ブラン」は樹齢50年超のグルナッシュにヴィオニエとピクプールを合わせ、「マス・アステリア・カベルネ・ソーヴィニヨン」はビオディナミ栽培の果実を亜硫酸無添加で14か月樽熟成させた1本だ。
「ロリニャ」は、南仏ルシヨン地方テュイール村の限られた区画のブドウだけで造られる。この畑は1068年までさかのぼる旧王領地で、シスト、グレ、丸石、シレックスが混じり合う土壌が広がる。品種構成はシラー60パーセント、カリニャン30パーセント、グルナッシュ・ノワール10パーセント。収穫量を30ヘクトリットル毎ヘクタールに抑え、新樽の大樽と小樽で14か月熟成させる。年産は5000本以下と希少で、凝縮した素晴らしい味わいが長く続く。
「シレニュス」は、イタリアの醸造家ジョルジオ・グライ氏との1992年以来の協働の成果である。樹齢35年、植密度は1ヘクタールあたり7000本、ビオディナミと伝統醸造、無亜硫酸を貫き、フレンチオークで18か月熟成。シラー75パーセント、グルナッシュ20パーセント、サンソー5パーセントの構成で、AOPグレ・ド・モンペリエを名乗る。
「シャトー・デ・クレ・リカール、ウノテラ(テラス・デュ・ラルザック)」はシラーとグルナッシュの組み合わせで、うち2割を全房の炭酸ガス浸漬で醸造する。同シャトーの2024年の白「レ・ガレ」は、ルーサンヌ40パーセント、ヴェルマンティーノ30パーセント、グルナッシュ・ブラン20パーセント、ヴィオニエ10パーセントの比率で、35パーセントを皮ごと「オレンジワイン仕立て」で醸している。「シャトー・マルティノル(リムー)」は瓶熟24か月のクレマン「グランド・レゼルヴ」で、シャルドネ70パーセント、シュナン20パーセント、モザック10パーセント。そして「シャトー・ジェレミー、キュヴェY」は、2024年にAOPへ格上げされたコルビエール・ブートナックで、樹齢50年のカリニャン55パーセント、グルナッシュ25パーセント、シラー20パーセントを50ヘクトリットルの新フードルで熟成させる。
試飲した主なキュヴェ
今回の試飲会で供された主なキュヴェは、次のとおりである。
- Astelia Chalamat 178 (2022) シラー60%/グルナッシュ40% AOPラングドック・グレ・ド・モンペリエ 樹齢35年
- Astelia Grangette 111 (2024) シャルドネ100% IGPテール・デュ・ミディ 樹齢21年
- Clos Astelia Le Grand Blanc (2020) グルナッシュ/ヴィオニエ/ピクプール IGPテール・デュ・ミディ・ビオ
- Mas Astelia Cabernet Sauvignon (2017) カベルネ・ソーヴィニヨン100% IGPペイ・ドック ビオディナミ
- Château Lauriga “Laurinya” (2018/2022) シラー60/カリニャン30/グルナッシュ・ノワール10 AOPコート・デュ・ルシヨン
- Domaine Silène “Silenus” (2018) シラー75/グルナッシュ20/サンソー5 AOPラングドック・グレ・ド・モンペリエ
- Château des Crès Ricards “Œnothera” (2015/2017) シラー70/グルナッシュ30 AOPテラス・デュ・ラルザック
- Château des Crès Ricards “Les Galets” (2024) ルーサンヌ40/ヴェルメンティーノ30/グルナッシュ・ブラン20/ヴィオニエ10 AOPラングドック
- Château Martinolles Grande Réserve (2019) シャルドネ70/シュナン20/モザック10 AOPクレマン・ド・リムー
- Château Martinolles Chardonnay Vieilles Vignes (2024) シャルドネ100% AOPリムー
- Château Jérémie “Cuvée Y” (2023) カリニャン55/グルナッシュ25/シラー20 AOPコルビエール・ブートナック
- Château Paul Mas Clos des Mûres (2018) シラー85/グルナッシュ・ノワール10/ムールヴェードル5 AOPラングドック
- Clos de Maro Pinot Noir (2024) ピノ・ノワール100% IGPペイ・ドック・ビオ

記者会見の席上、マス氏は「サンソーは、ブルゴーニュにとってのピノ・ノワール、バローロにとってのネッビオーロになり得る」と語り、地元品種の再評価こそがプレミアム化の核になると強調した。マス氏が掲げる「田舎の贅沢(リュクス・リュラル)」は、自然との調和と職人的精度を尊ぶ思想である。派手さはないが、そこには確かに大胆な現代性が息づいている。














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