VIKという名のチリワイン

チリはヨーロッパのさまざまな国から移民を受け入れてきた。だから、ワイナリー名にもさまざまな国の言葉が使われている。ロス・バスコスのように「おれたちバスク!」と言ってくれれば、すぐにそのオリジンが伝わるけれど、VIKはわからなかった。どこの国の言葉だろう。有楽町駅前のカメラ屋さんとは違うし、ボールペンの方でもない。何かの頭文字だろうか。じっと綴りを見ていたらぼんやり見えてきた。vikingのvikじゃなかろうか。

2011年に、まだ建設中のワイナリーを訪ねて聞いた。その答えはノルウェー。私の閃きは当たらずとも遠からず。オーナーの父がノルウェー人だという。VIKはノルウェーの家名だった。

 

VIKの創業は2006年。とても新しいワイナリーである。自社畑は300haを超えるのにワインは3種類しか造らない。ボルドー・シャトーのスタイルで、チリではとっても珍しい。樹齢が10年を超えて、ようやく個性と存在感を主張しはじめた。

VIKのオーナーは実業家アレクサンダー・ヴィック。南米最良のワインを造りたいと考えて、その思いをパトリック・ヴァレットに託した。パトリックはシャトー・パヴィの前オーナー、ジャン・ポール・ヴァレットの息子。チリで生まれ、家族とともにサンテミリオンに移ったが、ヴァレット家がパヴィを手放したので2000年にチリに戻った。そして、チリではニンケン・プロジェクトやブーションの醸造コンサルタントを務めた。

 

VIKは、アパルタ丘陵の北側(カチャポアル)のミリャウエに4,300haの土地を購入した。ミリャウエは先住民の言葉で“神の地”という意味。かつてこの丘の上には金鉱があったという。太平洋岸から東に65km、午後には海風が吹き込んできて涼しくなり、真夏の最高気温は30℃ほど。もとは沼地だったところを人工的に水抜きして畑地にした。メドックを意識したのだろうか。地下深いところに残る水を貯水池に溜め灌漑用水に充てた。ていねいに土壌リサーチをしてから作付けを開始した。

ブドウ樹を植えたのは304haだけ。敷地の10分の1にも満たない。カベルネ・ソーヴィニヨン(最大の作付面積)、カベルネ・フラン、カルメネール、メルロ、シラーを植えた。丘陵地(斜面)の植樹密度は7,518本/ha、平地には8,333本/ha。6種の台木に接いでいる。

醸造所は建設中のため、仮設の建物で熟成中のワインを試飲した。まず畑を作り、それから醸造所を造り、最後にホテルの併設に取り掛かるという段取り。

【VIK 2009】 カルメネール63%、カベルネ・ソーヴィニヨン35%、カベルネ・フラン1.5%、メルロ0.2%、シラー0.3%のブレンド。フレッシュな黒い色のフルーツを中心にバニラや杉など香りが層になっている。みずみずしい口当たりで、黒胡椒などのスパイスが広がり、タンニンは滑らかで丸くやさしいが、木の要素が馴染んでいない印象を受ける。きれいな酸味があって後口はとても長い。この年はカルメネール主体のブレンド。

 

ブドウ畑と醸造所、そしてホテルとレストラン。

 

2014年に訪問した時には、大きな醸造施設ができ上がっていた。醸造設備の広い玄関は、風水の考えを取り入れて石と水がふんだんに配置されている。醸造部分も貯蔵部分もゆったり贅沢な造り。光学式選別機をはじめ最新鋭の醸造機器が揃っている。ボルドー・シャトーのシェにならって、熟成庫は熟成1年目と2年目に分かれ、それに瓶熟庫が連なる。これから生産量が増えても対応できるように遊びのスペースが十分にとってある。

そして、広い敷地の一角でホテルとレストランの建築が始まっていた。ホテルの部屋にはそれぞれテーマが設けられ、日本をイメージした部屋もあるという。まだ内装にとりかかっていないので、よくわからなかったが。

醸造責任者のクリスチャン・バジェホ

この時、試飲したのは2011年ヴィンテージ。パトリックに代わってクリスチャン・バジェホが醸造責任者に就いていた。

【VIK 2011】 カベルネ・ソーヴィニヨン55%、カルメネール29%、カベルネ・フラン7%、メルロ5%、シラー4%。天然酵母で発酵。23か月のフランス産オーク新樽熟成。アルコール分13.9%。フレッシュな果実とオークの香り。アタックは瑞々しく甘い。きわめて柔らかく滑らかなタンニンだが、味わいもまだ樽の要素が支配的。後味がとても長い。

この時、2013年産を品種毎にバレル・テイスティングする機会を得た。そして、クリスチャンは、「2013年産は“変化の年”です。カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランがとてもエレガントでスーッと線を引いたように伸びのある味わいです。これまでのチリではお目にかかったことがありません。これを主役に据えようと思っています」と説明した。

2011年産は2009年産と同じく5品種のブレンドだが、主要品種がカルメネールからカベルネ・ソーヴィニヨンに移っていた。クリスチャンが言うには、2015年産からアイコンワインのブレンドを変え、5品種からカベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランの2品種にしたという。

 

 

日本のソムリエにVIKワインを説明するクリスチャン(中央)。

 

2017年の訪問時にはホテルはすっかり完成し、宿泊客を受け入れていた。この年、パトリックはVIKを辞めて家族の待つボルドーに戻り、クリスチャンが醸造責任を一手に引き受けることになった。

クリスチャン・バジェホが2016年産以降のヴィンテージを解説した。

【VIK 2016】 カベルネ・ソーヴィニヨン74%、カベルネ・フラン26%。涼しい春、夏は平年通りだったが秋は涼しくて雨が多かった。フレッシュなワインで、さまざまな味わいが層を成している。エレガントで味わい深く、ソフトでベルベットのようなタンニン。美しくエレガントなワイン。

【VIK 2017】 カベルネ・ソーヴィニヨン78%、カベルネ・フラン22%。平年並みの春、暑さが続いた長い夏、昼夜の寒暖差が大きくタンニンが熟して収穫が早まった。2016年に似ているが、この年の方が味わいにボリュームがある。複雑味のワイン。

【VIK 2018】 カベルネ・ソーヴィニヨン73%、カベルネ・フラン27%。涼しい春、穏やかで長い夏、涼しい秋で気象条件はほぼ完ぺき。私が関与した中でのベスト・ヴィンテージ。複雑味があってエレガントで、味わいが幾層にもなっており、フレッシュできれいな酸味がある。樹齢11年になり区画ごと、品種ごとの個性がはっきりしてきた。ザ・ワイン!

【VIK 2019】 まだ樽熟成中でブレンド比率は決まっていない。2014年に似ていると思う。夏は暑かったが夜温が下がり、ワインはソフトで深みのあるタンニンになった。

 

現在、リリースされている3種のワインを、南北アメリカ・ソムリエコンクールのチリ代表・稲岡美里さんに試飲してもらった。

【VIK 2013】 カベルネ・ソーヴィニョン67%、カベルネ・フラン17%、カルメネール14%、メルロ2%。23か月フレンチオーク熟成、アルコール13.9%、pH3.66、総酸5.53 g/l、残糖2.81 g/l。抜栓直後は甘酸っぱい赤系果実のアロマと、落ち葉や土、皮革などの熟成香が広がったが、抜栓一時間後はカシスやダークチェリーなどの黒系果実とチョコや甘いスパイスの香りが優勢になり、ガラリと印象が変わった。味わいは、のびやかな酸に、まだ少し若さの残るタンニン、すっと伸びた骨格に無駄のないボディ。女性的な味わいのラ・ピウ・ベルに対して、ヴィックは男性的。しっかりと凝縮した果実味とオーク由来のバニラやチョコレートのフレーバーが調和していて、全体的なバランスがとてもいい。また旨みが強く感じられるワインで、長い余韻も楽しめる。今開けても楽しむことできるワインだが、まだまだ熟成するポテンシャルを持つ長熟型。

【ミラ・カラMilla Cala 2016】 カベルネ・ソーヴィニョン67%、カルメネール17%、メルロ11%、カベルネ・フラン4%、シラー1%。20か月フレンチオーク熟成。アルコール14.1%、pH 3.56、総酸5.35 g/l、残糖2.47 g/l。ブラックチェリー、カシス、スミレ、土、スモークなどの複雑で力強いアロマ。ミディアム(+)ボディで、フレッシュ感のある高い酸に豊富なタンニン。アタックは中程度で、中盤から終盤にかけて旨みが口中に広がっていく。アッサンブラージュで使用されるブドウの割合がVIKとほぼ同じで、VIKのスタイルを保持しながら、親しみやすいワインとなっている。

【ラ・ピウ・ベルLa Piu Belle 2015】 カベルネ・ソーヴィニョン45%、カルメネール40%、シラー10%、メルロ5%。23か月フレンチオーク熟成。アルコール14.1%、pH 3.71、総酸5.36 g/l、残糖 2.4 g/l。ブラックプラム、ブラックチェリー、カシスなどの凝縮感のある黒系果実と清涼感のあるユーカリに、オーク由来のバニラやチョコのアロマが調和している。土や皮革などの熟成香も現れ始めている。味わいは、しっかりとしたアタックから、一直線に果実の凝縮感がある。フルボディで、しなやかな酸になめらかなタンニン。ミラ・カラやVIKと比較すると、これはカベルネ・ソーヴィニョンの割合が抑えられ、カルメネールの割合が高くなる。それは味わいにも顕著に表れており、タンニンはより柔らかく、丸みのあるふくよかなボディが女性的。ボトル全体に描かれているインパクトのある女性のエチケットのイメージにもぴったり。

(K. Bansho)

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