甲州種を考える/いよいよ本格的に動き出した生産拡大と品質向上への取り組み

ワインの世界でABC(Anything But Cabernet Sauvignon、Anything But Chardonnay)という言葉が広く言われるようになったのは、2000年代に入ってからのことだろうか。世界のワイン市場ではいま、ジャーナリストやトップソムリエ、ワイン愛好家の関心がかつての様な国際品種から地場品種、固有品種へと向かっている。日本においても、まだ全体に占める数は少ないけれどアルバリーニョやグリューナーフェルトリーナーの人気が高まっている。これらのワインに共通しているのは、特定の地域や国で生産され、ピュアで繊細、そして豊かな果実の風味をたたえていることだ。およそ1000年の歴史をもつ日本固有の白ワイン用品種「甲州」もまさにこの流れの中にある。

甲州ぶどうは2010年にOIVに正式登録され、「Koshu」の名前を冠して胸を張って輸出できるようになった。トップクラスのワインは世界のコンテストで数々の賞を受賞。甲州ワインはいまや世界の注目を集めるワインのひとつと言える存在。和食が世界無形文化遺産に登録されたことも追い風となっている。

 

大きな課題は生産量確保とさらなる品質向上

国税庁が発表した果実酒製造業の概況(平成27年度調査分)によると、全国のワイナリーが受け入れた生ぶどうの品種別数量を見ると、甲州が4649トンと断トツの一位で、全品種合計22,670トンの内、18.4%を占めている。白ワイン用品種だけでみれば、甲州のシェアは40%を超えている。そして、この甲州ぶどうの産出量においてシェア96%と圧倒的な地位を占めているのが山梨県だ。

近年の甲州ワインの人気上昇につれ、品質の高い甲州ぶどうを安定的に確保したい、という造り手の要望はますます強くなっている。しかし、平成に入ってからのロングスパンでみると、甲州ぶどうの作付面積と産出量は年々減少の一途を辿っている(別表参照)。生食用として使われてきたぶどうを醸造用に回すことで、醸造用に振り向けられる甲州の数量は2010年以降増加に転じ、いまは需給バランスがなんとか保たれているが、この先の見通しは全く楽観を許さない。農家の高齢化と耕作放棄地の拡大、新規就農にかかわる環境づくりの不備、そして甲州ぶどうの10倍もの値段で取引されるシャインマスカットなど高額な生食ブドウへの植え替えへの圧力が深刻化しているからだ。出荷組合との協定価格「糖度16度基準で220円」という甲州に対して、良いぶどうであればプレミアムをつけても引き取る、そのために、契約栽培で安定的に良質ぶどうを確保しようという動きは強まっているが、契約栽培の普及割合はまだ3割程度。県下ではかつて、ブームが去ってぶどうの引き取り手がなく90haもの甲州種の樹を引き抜かなければならなかった苦い経験があるだけに、栽培農家もおいそれとは甲州の栽培に力を注ごうとはしない。また、日本ワインブームのなかで増大する苗木需要。注文しても納入は3年先といわれるが、育苗会社は先々の需要に確信がもてず、しかも値段が安い甲州の育苗には二の足を踏んでいるのが実情だ。

こうしたぶどう生産量の問題と併せて、甲州ワインが抱えるもう一つの課題はどうやって更なる品質向上を図るかということ。1000年の歴史を持つとはいえ、甲州は長い間生食用として栽培されてきた。醸造用ぶどうとして使われるようになったのは、ここ100年余りのことだ。かつては「味も香りも薄く糖のノリが悪い、酸がぼけていて後味には苦みが残る」と揶揄されていたが、造り手たちのたゆまぬ努力により、ここ10年、20年、甲州ワインを目覚ましい進化を遂げてきた。さらなる品質向上を図るためには栽培・醸造の両面で何が必要か、どうやって甲州ワイン全体の底上げを図るかがますますもって問われている。

 

甲州の増産計画を打ち出した山梨県

こうした状況をうけて、いま、行政は民間や研究機関、大学と一体となって甲州ワインの未来を切り拓くための具体的な取組に乗り出している。

山梨県ワイン産地確立推進会議は昨年3月末、平成28年~37年にかけて10年間の推進計画をまとめ発表した。平成19年からスタートした第1期計画がどちらかといえば県産ワインの高品質化に軸足を置いていたのに対し、1年前倒しで始まった第2期計画では、高品質化プラス増産を柱として、ぶどう畑の維持・拡大、造り手養成などについて具体的に踏み込んだ案を盛りこんだのが特徴だ……。(M. Yoshino)

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出典:生産量、栽培面積については農林水産省「作物統計調査(18年まで)」、山梨県果樹食品流通課による推計値(未公表/19年より)、関東農政局・甲府地域センターの推計値(未公表/23年)を加工して作成。 仕向量については、全農山梨県本部調べ(13年まで)、山梨県ワイン酒造組合「山梨県のワイン生成量・課税数量・県産ブドウの使用量の推移」を加工して作成

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