Chilean Coastal Pinot Noir チリ生まれ潮風のピノ・ノワールとは

ピノ・ノワールはフランス北東部のブルゴーニュなど海から遠く離れた内陸の畑で連綿と栽培されてきたブドウである。果皮の色素は淡く軽快なタンニンと爽やかな酸味が特徴だ。ブルゴーニュは寒冷の地、その緯度は北緯47 度で、これは北緯45 度の北海道北端よりさらに北に位置する。ブドウが完熟するためには十分な日照量が必要だ。だからここでは南東向き斜面上部のもっとも陽当たりのよい区画で育ったブドウが最良とされ「グランクリュ」と呼ばれている。つまりピノ・ノワールは寒さに強い品種で、充分な日差しに恵まれた畑のブドウが上等の評価を得ているわけだ。

 

近年のブドウのディフュージョン(品種拡散)は、シャルドネに続いてピノ・ノワールにも新天地を与えた。初めは栽培の仕方も醸造法も手探りの状態だったニューワールドの生産者だが、選抜された優良クローンを植え、造り手が本場ブルゴーニュを訪ねて習い、まねることで徐々にピノ・ノワールの特性を引きだせるようになった。しかし、ニューワールドの畑はブルゴーニュに比べるとずっと暖かく、ブドウがどうしても熟しすぎてアルコール分の多いワインになっていた。

 

チリのピノ・ノワールも同じ状況だった。ところがチリでは2000 年代になると、海風の吹きすさぶ海岸線の丘陵地に新しいブドウ畑の開拓が進んだ。そこにシャルドネやソーヴィニヨン・ブランなどの白品種と一緒にピノ・ノワールも植えられた。ピノ・ノワールはその樹齢を重ねることで、まったく新しいタイプのワインを生み出すようになった。

 

ブドウ栽培の盛んなチリ中央部の地形は、西側に太平洋と背の低い沿岸山地、東側に6, 000m 級の山の連なるアンデス山脈、そしてその二つの山並みの間に広大な中央平地という構成だ。古くからブドウは灌漑水を確保しやすい中央平地で栽培されてきた。しかし、より複雑味があってデリケートなワインを求める近年のワイン消費傾向に応えるために、チリでは2000 年以降、冷涼な海のそばとアンデスの麓でブドウ畑の開墾が進行した。

 

フンボルト寒流の流れるチリの海は、日差しは強くとも海水温はとても低く冷たくて真夏でも海に入ることができない。その海から吹いてくる風もこれまた飛び切り冷たい。夜になると急激に気温が下がり濃い霧が内陸へ忍び込む。沿岸山地のブドウ畑は朝霧に覆われ、陽が昇るとともに海へと退いていく。午後になると霧の代わりに冷たい海風が吹き込んで、真夏でも気温が28℃を越えることがない。そこは本家ブルゴーニュと同様に寒冷でピノ・ノワール栽培の最適地である。

 

(中略)

チリの新しいピノ・ノワールはブルゴーニュに倣い寒冷地に植えられている。だがブルゴーニュとの大きな違いが二つある。ひとつはブルゴーニュにはまったくない冷たい海風の影響を強く受けていること。もうひとつは土壌に石灰質を含んでいないことである。それでチリのものを“潮風のピノ・ノワール”と名付けた。潮風のピノ・ノワールは、フレッシュな果実の香りが豊かで味わいに塩っぽいミネラルを感じるのが特徴だ。

 

潮風のピノ・ノワールは本家ブルゴーニュより色が濃い。チリの産地は南緯32~35度近辺にあり、ブルゴーニュより緯度にして12 度以上も低いところにある。緯度が低いと日射が鋭角になり紫外線が強くなる。強い紫外線から種を守るためにブドウは果皮を厚くする。果皮の厚いブドウはアントシアンが多い。それでワインの色が濃くなり香りの量も増す。

 

沿岸山地の土壌は古くて痩せている。沿岸山地はアンデス以前に形成されたもので、いくつもの島だったと言われている。表土は砂状粘土や岩石の風化でできた崩積土で、粘板岩(スレート、ピサラス)や片岩などを含んでいる。サン・アントニオには石灰岩層がほんの一部にだけ残っている。いずれにせよ根が地中深くまで伸びたなら、地中の豊富なミネラルを掴み果実に届けるはずだ。

 

このように新しいスタイルのピノ・ノワールがいくつも生まれているにも関わらず、多くのワインファンは、「チリのピノ・ノワールは熟しすぎてアルコールが強い」というイメージから抜け出せていない。過日、アカデミー・デュ・ヴァンで興味深い試飲実験があった。潮風のピノ・ノワール5 種と、有名なネゴシアンのACブルゴーニュをブラインドで比較試飲するというものだ。その結果は別表のとおり。潮風のピノ・ノワールもなかなかやるじゃないか。(K.Bansho)

省略した箇所はWANDS 12月号をご覧ください。ウォンズのご購入.ご購読はこちらから。デジタル版もできました。

ピノ・ノワール ブラインド・テイスティング
いちばん好き 二番目に好き
チリA       4,500円 1人 5人
チリB       3,800円 9人 9人
ACブルゴーニュ 3,000円 2人 1人
チリC       2,800円 19人 14人
チリD       3,500円 9人 11人
チリE       2,500円 2人 5人
※アカデミー・デュ・ヴァン調査

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