73番目のソリスト「モエ・エ・シャンドン グラン ヴィンテージ 2009」来春デビュー

モエ・エ・シャンドン醸造最高責任者ブノワ・ゴエズが率いる10名の醸造チームの一員となったアミン・ガネムが来日した。来春より発売開始する「グラン ヴィンテージ 2009」を披露するためだ。探究心に溢れるアミンは、息を弾ませながら2009年について語り始めた。

 

<グラン ヴィンテージはソリスト>

 アミン・ガネムは「モエ・エ・シャンドンの象徴的な存在のブリュット・アンペリアルはオーケストラ的な存在であるのに対し、このグラン ヴィンテージはソリストだ」という。

毎年一貫性と安定感を求められるノン・ヴィンテージは、たっぷりと蓄えられたリザーヴワインを駆使しながら、様々な畑のブドウを用いて造られるからオーケストラのような合奏だといえる。

対してヴィンテージは、似ている年はあるにしてもそれぞれが唯一無二の存在だ。しかも、その年の気候条件をシェフ・ド・カーヴがどのように解釈するのかにより表現される姿が異なる。だから「グラン ヴィンテージはとてもエモーショナルで、フリースタイルの芸術作品のようだ」とつけ加えた。

 

<2009年の完璧な成熟> 

モエ・エ・シャンドンで初めてヴィンテージが造られた1842年から数えると、2009年は73番目となる。アミンはブノワ・ゴエズが「完璧な成熟を得られた」と絶賛するこのヴィンテージについて、次のように説明した。

「すべての条件が揃いブドウが完熟した、とても豊かな年だった。暑く乾燥した夏を受け、リッチな香りと味わいになっただけでなく、実に健全なブドウが収穫できた。特にピノ・ノワールの出来が素晴らしかったので、かつてないほどふんだんにピノ・ノワールをブレンドしている。実際に口に含むと、夏の終わりの温かさのような雰囲気が感じられるはず」。ピノ・ノワールは、特にシャンパーニュ地方では年によって品質の上下が激しく難しい品種だといわれているから、2009年は本当に諸手を挙げて喜べる状態だったのだろう。

そして、こんなふうにも言った。「成功した45歳以上の『熟した』男性で、既に住宅ローンもすべて払い終わっているような……」。おそらく、2009年の懐が深く包容力のある堂々とした様子を人に喩えてみたくなったのだろう。とてもチャーミングな比喩だった。

アプリコット、ネクタリンなどのストーンフルーツのようなジューシーさ。トーストやグリルしたナッツなどの香ばしさ。豊満でまろやかな、包み込むような味わい。しっかりとしたストラクチャー。確かに、完成度が高く、非の打ち所がない。

 

 

<2008年との違い>

「本当にすべてが揃った年で、過去10年で最高のヴィンテージのひとつだ」と情熱的に語るアミンに、少し意地悪な質問をした。前年の2008年はクラシックで素晴らしい年だった。そして同じグループの「ドン ペリニヨン」は2008年より先に2009年をリリースした。しかし「グラン ヴィンテージ」の場合には、2008年に次いで2009年をリリースすると決定した。これはどうしてなのだろうか。

「確かに、ワインの専門家は酸度が高い2008年を高く評価しているが、ブノワは2009年をブドウの成熟度が完璧な『完成した』ヴィンテージだと言っている。2008年は、フレッシュで若々しく、生き生きとして酸も高くエネルギーに溢れている。それに対して2009年は熟度が完璧で、豊かでストラクチャーが強く、フル・ボディーだ」。ブドウの熟度が高いことから2009年は早めに楽しみ始められ、酸やテンションが高いという理由で2008年をもうしばらく置いておきたい、と考えてもおかしくはないのだが、ブノワの判断はそうではなかった。

グラン ヴィンテージは、7年間瓶内で熟成される。「2008年は7年経過した段階で春のようなフレッシュさがあり今出すのにちょうどよい、と感じた。そして同時に2009年は、7年を待たずして出荷することでそのポテンシャルを潰したくない。ブノワはそう考えたからだ。極めて個人的な感覚によるものだ」。

グラン ヴィンテージについての決定は、すべてブノワの手に委ねられている。だから研ぎ澄まされた感性により緻密に造られるのだが、同時に「エモーショナルな作品」に仕上がるのに違いない。

「グラン ヴィンテージ」であれ、そのバック・ヴィンテージであれ、「どの段階でうちのスタイルが表現できるか」を醸造最高責任者は常に念頭に置いているのだ。

 

<2002年、1990年との類似性>

 「グラン ヴィンテージ 2009」が披露された後に、いくつかのバック・ヴィンテージが開けられた。薄暗くひんやりとしたセラーでの眠りから呼び覚まされたのは2002年と1990年で、いずれも2017年になってからデゴルジュマンされたものだった。

「新たなグラン ヴィンテージをローンチする時には、古いコレクションの中から類似性のあるヴィンテージを同時にリリースするようにしている」とアミン。

1990年も2002年も、気候条件に恵まれて均整のとれた完成度の高い仕上がりだったと記憶している。とりわけ2002年は、欠点の探しようがない眩いばかりのヴィンテージだという印象が強く、時を経てどのように成長しているのかと期待で胸が膨らんだ。

同席していた誰かが「蜂蜜みたい」とつぶやいた。まさに蜂蜜を塗ったトーストのような魅惑的な香りがして、味わいは丸みを帯びふっくらとしていた。

1990年はマグナムボトルから注がれた。25年もの間オリとともに過ごした、まさに熟達者の域に入っている、とでもいうのだろうか。香ばしいナッツや穀物、アプリコット、蜂蜜、麦わらなどなどなど。複雑で豊かな香りだけでも酔いしれそうな勢いだが、しかし口にしたくなる衝動はやはり抑えきれない。芳醇で豊満で、すべてが一体化している。しかし最後にフレッシュさが感じられる。熟成した素晴らしいヴィンテージは、実にマジカルだ。

 

オーケストラによるハーモニーは実に心地よいものだ。しかしソリストは、ソロでいけるだけの才に加えて人を魅了する何かを持ち合わせているように思う。「グラン ヴィンテージ」「グラン ヴィンテージ ロゼ」ともに「完成した」と形容されるこの2009年はとても印象深く、忘れがたいヴィンテージとなりそうだ。(Y. Nagoshi)

輸入元&画像提供:MHD モエ ヘネシー ディアジオ 株式会社

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