年間11,000本を試飲するシャンパーニュのエキスパート リチャード・ユーリンに聞く

スウェーデン出身のリチャード・ユーリンは、シャンパーニュの専門家で多くの書籍も出版している。”Champagne 2000” が出たのが1999年で、つづきは”Champagne 2000”, “Champagne 4000” と掲載本数がどんどん増え、2013年発行の “A Scent of Champagne” ではついに”8000”という数字になった。この次の書籍用の写真を撮影するために来日したリチャードに新刊本とシャンパーニュについて少々話を聞いた。

新刊は、“A Scent of Champagne”とは対極だという。「セント・オブ・シャンパーニュは、8,000銘柄について細かな情報を記した百科事典的なもの。だから、今度は別のアプローチで人々の情熱にリンクするものを作りたいと考えた。例えば、シャンパーニュを飲んでいる時どのような感情を抱くだろうか。親友や家族と飲む。旅先で飲む。自然の只中で飲む。それぞれの環境で感じ方が変わるはずで、もちろん選んだ銘柄にもよって異なる。それを伝えたいというのが主旨だ」。

もともと趣味で1986年からシャンパーニュを飲み始めたのが、この道に進むきっかけだったという。今では多くの知識と経験を積んだプロフェッショナルであっても、かつては純粋な消費者の一人だったという原点に立ち返る意味もあるのかもしれない。

新刊の構想ができてから様々なリサーチをした。「シャンパーニュを分析しコメントを記したり、テロワールについて、あるいは技術的な側面について書いたりするようになったのは、ここ30年ぐらいのこと。皆の知識が増え、次に料理との相性も語られるようになった。グラスの形状によっても味わいが異なる」。リチャード自身も、数年前にはシャンパーニュ用の万能なグラスの設計もこなし、イタレッセから発売されている。

「グラスや温度、飲み方も味わいに影響を及ぼすとわかった。しかし、誰とどのような環境でどのようにして飲むのか、いかに素晴らしい経験としてシャンパーニュを飲むのか、という心理的な部分、あるいは同時に目で見ているものが影響を与えると確信した」。

撮影の95%が自然環境の中で行われたという。中には2回登場する銘柄もある。「ドン ペリニヨン ロゼは、スロヴァキアの森の中で飲むと、キノコやベリーの香りが強く感じられた。しかし、ゴールデン・ゲイト・ブリッジで飲むと、花や果実はもちろんだが海の香りが強く印象に残った。最高のシャンパーニュはまるでカメレオンのようだ」と笑う。

欧州だけではなく各国の美しい100ヶ所で、選ばれたプレステージ・キュヴェとヴィンテージ100銘柄のシャンパーニュを飲むシーンを提案する。日本は、京都の寺、竹林、富士山、和食とともに、といったシーンが取り上げられる。

 12月1日発売予定で “Champagne Hiking” という名の書籍だけではなく、スマートフォンのアプリケーションも開発した。登録して、同じ環境で同じシャンパーニュを開けているところを撮影し投稿する、という体験型の楽しみ方を準備した。「プレステージをナイトクラブで飲む人は多いようだが、まだアウトドアで飲む人は少ないようだから」と、飲み方革命を提案したい考えだ。

近年のシャンパーニュについて尋ねると「各社のノン・ヴィンテージの質が上がっている。理由は技術の向上、競争の激化、温暖化が影響していると考えている。また、20年前はメゾンごとにスタイルがまったく異なっていたが、最近は差が少なくなった。また、バイオダイナミクスを採用する造り手が少しずつ増えてきている。レコルタン・マニピュランについては、70年代ぐらいから徐々に増え、90年代で急増した。ジャーナリストも積極的に記事にしたし、隣の人の成功を見て自ら瓶詰めを始めたりした。しかし、強い情熱がなければ続かない」と語った。(Y. Nagoshi)

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