- 2018-7-3
- Wines, スペイン Spain
1879年にレアル・デ・アスア兄弟が創立した「クネ」は、1917年ヴィンテージから「インペリアル」を造り続けている。そのグラン・レセルバのバック・ヴィンテージを5世代目のビクトール・ウルティア・イバラCEOとともに試飲し、クラシックなリオハの長期熟成について確認した。
クネとインペリアルの伝統
北スペインワイン会社=Compañia Vinicola del Norte de Españaの略語から派生した呼び名がすっかり定着している「クネ」の拠点は、リオハの中でも西部のリオハ・アルタ地区のアロにある。ビクトールは、クネのどのラベルにも描かれているシンボルについてこう説明した。「19世紀にスペイン王室からスペインの国旗を使う許しを得た。これはスペインのワイナリーでクネが唯一のこと。つまり、我々のワインはスペインのアンバサダーとして認められたのだ」。
スペインを代表するワイナリーとして「最高のワインを造る」という精神のもと生まれたのが「インペリアル」だった。初ヴィンテージは1917年だが、小樽熟成と瓶内熟成を経て市場に出たのは1920年代になってからだ。そして先代までの哲学に加え、5代目としてビクトールが新たに掲げた目標が「世界中の人々に知ってもらうこと」だ。
ちなみに「インペリアル」という名前は、当時イギリス市場向けだったボトル “imperial pint” に由来しているそうだ。英パイントは568ml(米パイントは473ml)だから、現在より小ぶりな瓶で出荷していたのだろう。
スペイン王室とクネは19世紀以来繋がりが続いており、数々のヴィンテージを王室に届けてきた。中でも近年では2004年に行われたフェリペ6世(当時は皇太子)のロイヤル・ウエディングが思い出される。晴れやかな婚礼で唯一の赤ワインとして供されたのは、クネの「インペリアル グラン・レセルバ1994」だった。
インペリアルはリオハ・アルタの自社畑より
「インペリアル」にはレセルバとグラン・レセルバがあるが、どちらもクネが所有する550haの自社畑の中から厳選されたブドウだけで造られている。その源となる畑はリオハ・アルタの3ヶ所、ビラルバ・デ・リオハ、ブリオネス、そしてトレモンタルボだ。
アロより西にあるビラルバ・デ・リオハは、標高560〜600mと最も高い位置にあり、大西洋気候の影響が最も強く冷涼で霜のリスクも高く、風も強い。降雨量もリオハの平均値より多く700mmあり、急斜面で南向きの畑で、石灰質や砂質の土壌だ。
ブリオネスはアロより東にあり標高500mで、より温暖で大陸性気候の影響も受ける。降雨量はここも700mmほどあり、なだらかな丘陵で砂質で濃い色の土壌に、株仕立てで植樹されている。
トレモンタルボはさらに東に位置し、標高420mで、大陸性気候となり日較差が大きい。降雨量は600mm。急斜面で石が多く、南向きの畑だ。石灰質土壌で、株仕立てで植樹されている。
「平均樹齢は35年ほどで、中には50年を超えるブドウもある。古木になればそれだけ収穫量が少なくなるが、より複雑性豊かなワインになる」。
特別室での醸造
2015年にクネを訪問した際、木製醗酵槽が設えられた部屋に通してもらったのを思い出す。ここは「インペリアル」そして1994年から造り始めた創業者の名を冠したテンプラニーリョだけのトップ・キュヴェ「レアル・デ・アスア」だけのための特別室だった。クネは多くのキュヴェを造っているが、いわばここはクネの中のマイクロ・ワイナリーのような存在だ。1917年からずっと「インペリアル」は特別扱いで「醸造はこの100年で大きく変化したわけではいないが、選果をより厳しくしたりポンプをゼロにしたりと、細かい点ではモダナイズしている」。約12,000ℓのフレンチオークの木製醗酵槽が整然と並び、ここで第一醗酵が行われる。
まず選果しながら丁寧に手摘され運び込まれたブドウは、12〜24時間10℃に冷やされる。除梗破砕のあとは、小ぶりの可動式ステンレスタンクに入れられ、フォークリフトで醗酵槽の真上に持ち上げられて投入される。ゆっくりと自然酵母のみで醗酵され、コンクリートタンクあるいは小樽でマロラクティックが行われる。熟成用の樽はアメリカンオークとフレンチオーク両方で225ℓ。ほぼ半分が新樽だ。小樽が居並ぶ部屋は、贅沢にも1段のみ。ゆったりとした広さがある上に、そこは1909年にアレクサンドル・ギュスターブ・エッフェルが設計したセラーだった。
レセルバは樽内で18ヶ月以上と瓶内で18ヶ月以上、グラン・レセルバは樽内で24ヶ月以上と瓶内で36ヶ月以上熟成してからのリリースとなる。
長寿なインペリアル グラン・レセルバ
ビクトールは「熟成により発展するワインであること。これがとても重要だ。インペリアルの鍵は熟成にある」と言う。特にグラン・レセルバは、あまり早く飲まれてしまうと真価を理解してもらえない可能性があることを示唆した。ただ、こうも付け加えた。「美意識は国によって異なる。しかし、日本は完成されたものの価値を理解してくれる国だと信じている」。
初ヴィンテージの1917年からずっと、すべてのボトルを秘蔵しているそうだ。ただし条件の整った年にしか造らないため、近年では1971年、72年、77年、92年、93年、97年、2002年、03年、06年、13年は存在しない。
5つのヴィンテージを比べるにあたり、ビクトールは発芽から収穫までの成長期の長さに言及した。涼しい年ほど成長期が長く「クラシック」な上質のワインができる。クラシックなワインとは「ファッションやトレンドに惑わされず、永く変わらぬ個性を備えたもの」だと説明した。クネがインペリアルに求めている方向性がこの言葉に現れている。アルコール度数は必ず14%以下だという点においても、リオハ・アルタの立地だけでなくクネの方針が影響していると理解した。
また、どのヴィンテージも基本的にテンプラニーリョ85%、グラシアーノ10%、マスエロ5%という構成比になっている。これは昔ながらの混植がされているからだ。
インペリアル グラン・レセルバ2010
「涼しい夏の年で成長期は178日間。瓶詰めは2013年10月。クールだったがパワーもあるので、いつもはしないが今回はデキャンタした」。それでもまだ香りが開くのはこれからだと感じられ、上品でしなやか、そしてテンションとストラクチャーのしっかりした味わいだった。「生き生きとした酸、これが熟成にもフードペアリングにも重要だ」。
インペリアル グラン・レセルバ2009
「暑い年だった。成長期は186日間。パワフルだったので瓶詰めは2013年1月と遅めに行った。今ようやく開き始めたところで、熟した果実のヴェルヴェットのような香りや味わいだ。果実味がはっきりしているが、酸も生き生きとしている」。暑い年には葉を残し房を守るとともに早めに収穫している。「それでも2003年は暑すぎたので造らなかった」。スパイシーな香りにも厚みのある味わいにも力が感じられ、ストラクチャーの強さが印象的。
インペリアル グラン・レセルバ2005
「クラシックな年で成長期は198日間と長い。2009年5月に瓶詰めした。香りは開き始め、クールさも感じられ深みもある。とてもよくバランスが取れているが、飲むには少し若すぎるとも言える」。とはいえ、とても上品な熟成が始まっている美しい姿で、タンニンも豊かだが熟して繊細なので、手に入るのであれば是非試していただきたい状態だった。
インペリアル グラン・レセルバ2004
「クラシックな年で成長期は198日間。瓶詰めは2008年10月。2005年より少し開いた状態。ワイン・スペクテーターで(Top 100 Wines of 2013のランキングで)No.1になったためあまりストックが残っていない。香りにはクールさと複雑さが感じられる。いつ飲み頃なのかよく聞かれるが、今がちょうど果実のピークが来ていて、これからさらに第3の香りが出てくるところ」。少しだけドライな赤い果実の香りとスパイシーさが融合したしっとりとした香りで、とてもなめらかなテクスチャーが印象的。酸も綺麗でタンニンも溶け込んでいる。
インペリアル グラン・レセルバ1998
「クールな年で成長期は195日間。瓶詰めは2002年10月。このように、力よりもエレガンスを常に求めている。まだこれからも熟成していくが、これが典型的な熟成したクラシックなインペリアル グラン・レセルバの香り。果実は少し控えめになり第3の香りに変化している。なめし皮やミントも感じられる。タンニンも穏やかになっている」。トースト、モカ、スパイス、ドライフルーツといった複雑で美しい熟成香で、柔らかで上品な口当たりで旨味に近い心地よさが感じられる。
ビクトールは「スペインワインに、パワフルで凝縮した地中海性ワインというイメージを抱いている人がまだ多いようだが、クネが位置する北部は大西洋気候の影響を受けるため涼しく、エレガントなワインが生まれる」と強調していた。
今回試飲したインペリアル グラン・レセルバはその言葉通りに、どのヴィンテージもエレガントでバックボーンがしっかりとしていた。ワインの熟成可能性とは、ビクトールが言及したようにやはり熟成して発展することにある。ちょうど2004年に熟成感が見られ始め1998年で花開いていたから、収穫年から10数年待つのは必須で20年経てばその様子を楽しめるということになる。上質ワインを満喫するには根気も必要なのだ。(Y. Nagoshi)輸入元:三国ワイン
続きはWANDS2018年6月号をご覧ください。
WANDS2018年6月号は「夏のスパークリングワイン」「ブルゴーニュワイン」「ビール」特集です。
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