ヒップスター達がリードするオーストラリアのワイン産業 各界スペシャリストが語るオーストラリアワインNOW!

レストラン、小売、ジャーナリスト、イー・コマースと、ワイン業界の異なる分野でスペシャリストとして活躍する4人の専門家にインタビューし、彼らが日々感じている今日のオーストラリアワインのトレンドを語ってもらった。

オーストラリアでは近年、“ヒップスター”という言葉がよく使われるようになった。ヒップスターとは、本来「ならずもの」というような意味だが、最近では流行に敏感な若者、あるいはサブカルチャーや、敢えてレトロなものを好んで取り入れる人たちのことを指す。日本語で近い言葉を探すと、さしずめ「意識高い系」といったところだろうか。

ワインの世界で「ヒップスター」というと、メインストリームとは異なる、独自のアプローチでワインを造る新世代の小規模生産者たち、あるいはこういった生産者のワインを好む若いソムリエたちや愛好家たちのことを指す。この国の今のワインのトレンドを語る上で、こういったヒップスター生産者たちの存在は欠かせない。彼らはオーガニックやバイオダイナミック、不介入主義など環境や健康に配慮した栽培醸造方法を取り入れ、さらにオレンジ・ワインやペット・ナット、オルタナティブ品種といったこれまでにはなかったスタイルのワインを、斬新なパッケージに自らのワインを詰め、積極的に市場に送り出している。少数派でありながら、彼らの存在感は大きく、ソーシャルメディアなどにも頻繁に登場する。

同時に大手のワイナリーにおいても、ワインのスタイルや醸造方法に変化が起きている。全体的にワインのライト化が進み、オーガニック農法を採用するワイナリーが増え、野生酵母による自然発酵がより頻繁に行われるようになったという声もあった。

高アルコールでビッグな赤ワインばかりがもてはやされたオーストラリアは次第に過去のものとなった。冷涼気候と一言でいっても、ただ単に軽く、低アルコールというだけでなく、食事に合わせやすい、果実由来の個性が体現された“Expressive”なワインが評価されるようになった。その背景には人々の健康や環境問題への意識の高まりや、多民族国家であるオーストラリアで形成された多様で豊かな食生活、そして温暖な気候条件といういくつもの要素が織りなすこの国の現代のライフスタイルがある。

 

ソムリエ 

リアン・アルトマン

リアン・アルトマン (Leanne Altmann)

 

プロフィール

「スーパーノーマル」「カトラー& Co」など、メルボルンに人気レストランを複数展開するアンドリュー・マコーネル・レストラン・グループのビバレッジ・ダイレクターとして、各店のワイン・バイヤー、ソムリエおよび全ての飲料を統括する。WSET認定エデュケーター、ワイン・ジャッジ。オーストラリア・コート・オブ・マスター史上初の女性アドバンスド試験合格者である。他にも数々のコンクールにおける入賞歴やスカラシップの獲得歴を持つ、今業界内で最も尊敬される女性ソムリエの一人だ。

 

新たなワインのパッケージ、コラヴァンにより

広がるサービスの選択肢

レストラン・シーンではビールのようにサーバーから注ぐ「タップワイン」、大型のフラゴンボトルなどの新しいスタイルのハウス・ワインが浸透してきている。消費者側の反応も決して悪くはない。ただし、タップワインの容器に使用されるエコ・ケグのサステナビリティに関しては賛否両論あり、しばしば論議の対象にもなっている。

去年オーストラリアでも話題となった新アイテム「コラヴァン」の登場により、バイ・ザ・グラスの選択肢が大きく広がった。デギュスタシオン・メニューに活用されるなど、「量より質」を追及する現在のニーズにマッチしたサービスの提供が可能となったのだ。

 

将来へ向けて環境への配慮を

リアンは、懸念のひとつとして、ワイン生産にかかる環境への負担を挙げる。特に灌漑に必要な水の供給は、大半を砂漠が占めているオーストラリアにとって深刻な問題だ。低価格帯の、暑い内陸地で生産される従来からある品種への需要が続けば問題は深刻化する一方だろう。干ばつに強い品種を植えたり、あるいは立地を見直したりと、ワイン産業全体での対策が求められている。また、オーストラリアではすでにタバコ業界が健康への影響を警告する目的の一環としてパッケージの簡素化を実施したように、ワインを含む酒類業界もいずれ同じような対応を迫られる可能性がある、と懸念を示している。

 

小売店大手

ジョー・アームストロング

ジョー・アームストロング(Joe Armstrong

 

プロフィール

オーストラリアにおける最大手の小売業ウールワース・グループのリカー・ダイレクト・セール部門「セラーマスターズ」のヘッド・バイヤー。国内外のワインメーカーとパートナーシップを結び、グループ独自のブランドを統括する。バロッサやニュージーランドのマルボロには自社ワイナリーも所有し、品揃えの80%がエクスクルーシブ・ブランドだ。さらには同じグループ傘下の国内最大手のリカー・ストア、ダン・マーフィーズやBWSにも、オリジナルブランドのワインやビール、スピリッツなどを提供する。カナダ出身ながら、オーストラリアのワイン業界においては20 年以上の実績を持つ。

 

世界中のワインを楽しむオーストラリア国民

ジョーはまず、消費者の買い物の仕方が大きく変わったと感じている。20年前のオーストラリアの市場は「ペンフォールズ」や「ウルフ・ブラス」といった昔からあるオーストラリアの老舗ブランドに忠実で、どこのレストランもこういった老舗ブランドのみがオンリストされていた。そして当時はほぼ自国産ワインしかなかったが、今では世界中のワインが買えるようになり、20ドル以下のヨーロッパのワインなどがどこでも手に入るようになった。今の消費者は気軽に、新しいブランドや品種、産地などを次々と試していく。

「ワイン生産国であるオーストラリアの人々のワインに関する平均的な知識レベルは、他の西洋諸国に比べても高い方だ。そうであるからこそ、新しい分野のワインへの抵抗も少ないのではないか」と指摘する。

Text & photo by フロスト結子

 

つづきはWANDS 2018年12月号をご覧ください。
12月号は「オーストラリアワイン/南アフリカワイン」特集です。
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