2018年産ブドウから初仕込みを行った マルス穂坂ワイナリー

↑ グラヴィティフローの設計思想に基づき、醸造機器や小樽が完備されたワイナリー内部 ↑

 

2月半ばをすぎたばかりというのに、春霞のような靄に包まれた甲府盆地を眼下に見下ろすマルス穂坂ワイナリーを1年数か月振りに訪問した。

南アルプスの山々や富士山を遠望する絶景地に開設されたこのワイナリー。2017年11月に行われた竣工式の時点では完了していなかった石和のワイナリーからの発酵タンク移設や、新たに購入された窒素ガス置換機能をもった圧搾機、発酵前果汁処理用タンクもワイナリー上部に設置され、ポンプを使わずグラビティフローによる小仕込み可能な醸造体制が完璧に整えられた。

(中略)

第一期工事が終わった時点での穂坂ワイナリーでの製造能力は600~650トン。発酵を終えたワインは、シュールリーを行うものを除き直ちにタンクローリーで石和ワイナリーに運ばれ、そこで熟成、瓶詰が行われる。日本ワインの新しい表示規則に則り、醸造地はマルス穂坂ワイナリー、製造者は本坊酒造㈱マルス山梨ワイナリーとなる。

穂坂のワイナリーで初めて仕込まれた2018年産ブドウはおよそ420t。品種は新酒に使われるデラウエア、巨峰、そして欧州系ブドウのシャルドネ、セミヨン、ヴィオニエ、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルロ、シラー、プティ・ヴェルド、そしてごく少量ながらソーヴィニヨン・ブランとアジロン。しかし、穂坂に初めて設立されたワイナリーということで、最大ボリュームを占めているのは甲州、二番目に多いのがマスカット・ベーリーAだ。昨年は全体に熟期が早まったことで、1週間ほどは搬入されるブドウが殺到。大わらわで同じタンクを使いながら仕込を2回、3回と繰り返したという。

(中略)

「穂坂に念願のワイナリーができたことの最大のメリットは、栽培農家とのコミュニケーションがこれまで以上に密になり、穂坂の農家がワイナリーに足を運んでくれ、自分のブドウがどのようなワインに仕上がるか確認してくれるようになったこと。(ワイン造りの)良いサイクルができつつある。そして、ブドウに対するストレス軽減と同時に、作業環境が改善され人間のストレスも少なくなったことだ」と、田澤長巳工場長。作業効率を決める動線の問題に加え、いまや周囲が住宅に囲まれてしまった石和では、ワイン造りも近隣住民への影響を配慮しなければならなかったからだ。

田澤長己工場長(右)と専属スタッフの田口誠一氏

マルスで今年10年目の仕込を担当する穂坂ワイナリーの専属醸造スタッフ、田口誠一氏も、「一日仕事を終えての疲労感が全く違う。例えば、これまでは冷却水を使って5本の発酵タンクを冷やしたいと思っていても3本しかできなかったこともあるが、ここではキュヴェごとの細かい温度管理ができる。品質向上には間違いなく繋がっているはずだ」と、目を輝かせる。

2018年ヴィンテージのワインはまだ新酒しか発売されていないが、春からは穂坂収穫のMBAや白根の甲州シュール・リーなどのワインが続々と登場する予定だ。 (以下、略)

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