- 2016-5-13
- Wines, シャトー・メルシャン, 日本 Japan
甲州市勝沼町のシャトー・メルシャン「ワインギャラリー」では、季節ごとに現地でしか販売しない特別キュヴェがお目見えする。そのひとつが、2013年ヴィンテージが初のお披露目となる「甲州グリ・ド・グリ無濾過」だ。
「グリ・ド・グリ」はGris de Grisと書く。シャンパーニュのブラン・ド・ブランBlanc de Blancsが白ブドウ(シャルドネ)で造った白、という意味を表すが、こちらは果皮がピンク色をした甲州ブドウがフランスではグリ(灰色)ブドウと呼ばれることからの命名だ。
甲州ブドウからなるべく多くを抽出するというコンセプトで、甲州の果皮から香りやポリフェノールの成分を抽出し、ワインの色や味わいに甲州独特の表現を出したワインで、色合いも普通の甲州が無色透明に近いものが多いのに対して「グリ・ド・グリ」はオレンジ色をしている。
チーフ・ワインメーカーの安蔵光弘が、無濾過の造りや成り立ちについて解説してくれた。
「今は『オレンジワイン』という言い方をされるワインのカテゴリーがあるが、このワインを始めた頃は、オレンジ色のワインは稀で、この色だけで敬遠されることもあった」。このヴィンテージは、木樽で4、5日の醸し醗酵の後、樽でシュール・リーを行った。
2002年が「グリ・ド・グリ」の初ヴィンテージだったが、2010年まではステンレスタンクだけを用いてきた。「一部のキュヴェに樽を使ってみると、このワインが持つ赤ワイン的な要素とよくマッチした」のがきっかけで樽を使い始めたという。そして、このワインを長いあいだ飲み続けてくれている人たちの意見を元に「無濾過」で瓶詰めした。
「グリ・ド・グリには基本的に渋みやタンニンがある。樽から試飲するとふくよかでまるみも感じられるが、濾過して瓶詰めするとタンニンや渋みを強く感じると気がついていた」。だから、無濾過のまま瓶詰めしてボディの厚みと渋みのバランスをとることにした。澱下げ前のグリ・ド・グリのうち、上澄み200ℓを抜きとって「無濾過」として限定300本のみリリースすることにした。
ただし、瓶詰め直後からかなり濁っており、1年経つと結構な澱が出てくるので万人受けはしない、ともわかっている。既存の「グリ・ド・グリ」ファンは厚みのあるワインが好きな人が多いという。特にこの無濾過は旨み成分が強いので、そういう人にはたまらないアイテムになるにちがいない。
2002年の初ヴィンテージ以来の製品を地下セラーにストックしている。その中から最近2005年を開けて試飲してみたという。
「熟成した香りの中に焼きリンゴの香り(ベータダマセノン)がほど良く感じられ、タンニンは柔らかいニュアンスに変化していた。甲州の熟成可能性のひとつの形かもしれない。例えば、きいろ香は甲州のカンキツの部分のみを取り出した造りだ。蕎麦でいえばグリ・ド・グリがひきぐるみ、きいろ香が更級のようなものかもしれない」と言っていたのが面白かった。
2013年ヴィンテージは、焼リンゴや香ばしさが感じられ、なめらかな食感でふくよかだが、それとともにタンニンの厚みもまだたっぷりだった。深み、厚さ、旨みのある味わいで、肉料理との相性を試してみたくなった。
この試みで、甲州の新たな道がまた拓けていきそうだ。(Y. Nagoshi)
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