見棄てられたブドウの再生ストーリー カリニャンVIGNO

これは温故知新といったらよいのだろうか。

かつてスペインで起きたことによく似ている。はじめは打ち棄てられていたガルナッチャとカリニェナの潜在力が評価されたプリオラートだった。つぎはビエルソで起きたメンシアの復活ストーリーだ。いずれもバルクワイン用に栽培していた量産品種を高品質ワインとして再生した話である。あの時の記憶がチリのマウレ・ヴァレーで甦ってきた。カリニャンの古樹の畑の中で、20 年近く前にみたスペインの景色を思い出していた。

 

マウレの古いカリニャンの存在とそのワインは、2009年のVIGNO(ビーニョ= Vignadores de Carignan)発足当時から聞いていて、毎年、そのうちの何本かを試飲してきた。カリニャンで瑞々しいワインができることに驚いた。いくつか古いカリニャンの畑を訪ねたことはあったけれど、カウケネスには行ったことがなかった。ヴュー・カリニャンとVIGNO のすべてを見にこないかと誘われて、チリのマウレ・ヴァレーを訪ねた。

 

チリには耳慣れないDO 名がたくさんあるが、その中でもほとんど知られていないDO がある。DO セカノ・インテリオルだ。このDO 名をラベル表示したワインが輸出市場に出回るのは稀だったからだ。しかし、最近、パイスで造ったミゲル・トーレスのスパークリングワイン(ボトル二次発酵)が人気になり、そのラベルにこのDO 名がついていることで少しずつ認知されてきたようだ。このDO は、クリコ、マウレ、ビオビオ、イタタ(いずれもチリ南部)の非灌漑地で栽培したパイスとサンソーのワインに適用される呼称だ。

 

古い樹齢のカリニャンもパイスと同様にマウレの非灌漑地域で栽培されてきたが、栽培規模が小さかったのでこの産地呼称の適用を受けなかったのだろう。マウレのカリニャンの畑は485ha(2012 年)でパイスの10 分の1 でしかない。そしてヴュー・カリニャン(高樹齢のカリニャン)の栽培される地域は地図で示したカウケネスなどの4 地区だけである。

 

なぜここにだけカリニャンが植えられているのか。話は1939 年まで遡る。1939 年にカウケネスから直線で南へ約80km のチジャンを震源地とする大地震があった。カウケネスの被害は甚大で、家屋はもとより地割れや地下水脈の移動で16 世紀から栽培してきたパイスの樹も枯れて大量に引き抜かれた。パイスは大量に実を付ける品種だが色が薄く渋みに欠ける。復興事業に乗り出したカウケネスの協同組合は、これを機にパイスの欠点を補うことのできる品種、色が濃くて酸味があってさらに量産型のブドウを探すことにした。白羽の矢を立てたのは、当時、隆盛を誇ったフランス・ラングドックで、量産品種のエースの役割を担っていたカリニャンだった。

それで1940 年以降、カウケネスのパイスの畑の欠株を補うようにカリニャンが植えられたのだった。結果は良好だった。カリニャンは色味の乏しいパイスワインを十分に補強した。カウケネス協同組合の目論見どおりに進んだ。しかしこのワインはあくまでも地場消費に充てたものだったので、カリニャンがチリ全土で広く栽培されることはなかった。1960 年以降のチリ国民のワイン消費減退と、1964 年から1973 年にかけての農地改革が、カウケネスのカリニャンの存在をすっかり忘れさせてしまった。(K.Bansho)

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