クリュ・ボジョレの代表格「シャトー・デ・ジャック」のシリル・シルーズが、ボージョレの「クリュ」を語る

日本ではボージョレ・ヌーヴォー含む新酒が、収穫を祝う秋の風物詩として定着している。しかし、今年は例年と趣が異なる。ボージョレ・ヌーヴォーはフランスから「解禁日」に合わせて飛行機で輸送するから、本国のフランスよりも早く日本で「旬」を味わえるわけだが、今年の飛行機代は10倍とも言われ、予定通りの日時に確実に到着するともわからない状況にあるからだ。

新酒の存在も良いけれど、今年はボージョレそのものや上級キュヴェの「クリュ」に手を伸ばす良いきっかけになるかもしれない。ブラインドで試飲すればピノ・ノワールと違えるほどの赤ワインが生まれているのだから。

こんな状況もあってのことか、「シャトー・デ・ジャック」のワインメーカー、シリル・シルーズが夏前にウェビナーを行なった。シャトー・デ・ジャックは、今まで一度もヌーヴォーを醸造したことのないボージョレの生産者だ。そして、「クリュ」は特別な土壌条件にあると言う。

ボージョレのクリュ

ブルゴーニュの基本は粘土石灰質土壌として知られており、ボージョレの南部の平坦な土地も粘土石灰質や砂岩や粘土質なのだが、ボージョレ北部に位置する「クリュ」は花崗岩が主体で、ピンク色の花崗岩と青色片岩がある。ちなみに中央に当たる「ヴィラージュ」は火山性土壌に石灰質や粘土質が混じっている。

「クリュの乾燥した貧しい土壌ではガメイが最も真価を発揮します。また気候も南北で異なり、北部は東からの大陸性気候と西からくる大西洋気候の影響を受けるのに対し、南部はローヌ経由の地中海性気候の影響も受けているため、冬に霜害がないのは利点ながら夏の日焼けや干ばつは問題です」。

 

ヌーヴォーは生産しない方針変わらず

「シャトー・デ・ジャック」は1930年代からトラン家が所有していたが、1996年にルイ・ジャド家が購入した。自社畑は69haで3つのクリュに分かれている。ほぼガメイだが、シャルドネのクリュも9haある。

「シャトー・デ・ジャックは、トラン家の時代から名声を築いていました。でも実は、1950〜60年代に大きな変化がありました。ヌーヴォーのトレドが始まり、多くのワイナリーでは収穫後すぐにおいしく飲めるようにMC(マセラシオン・カルボニック)を始めました。しかし長期熟成型のワイン造りを行ってきた彼らは、方針を変えることはありませんでした。それは、ルイ・ジャドのグループに入ってからも変わりありません」。

プルミエ・クリュを検討中

シャトー・デ・ジャックのメインの畑はムーランナヴァンにあり、34ha。そしてモルゴンとフルーリーにも所有している。ムーランナヴァンには8つの区画を所有し、すべての区画を別々に醸造している。

ボージョレには、ブルゴーニュのように「プルミエ・クリュ」は存在しない。しかしシリルはこう言う。「ジュリエナ、ブルイィ、コート・ド・ブルイィ、ムーランナヴァンは格付けを検討している最中で、おそらく15〜20年後には実現するのではないかと思います」。気の長い話ではあるが、順調に進むことを願いたい。

 

2019年のムーランナヴァン

通常の「ムーランナヴァン」のラベルは8区画のブドウをブレンドしていて、すべて花崗岩土壌の斜面の畑だ。共に試飲した2019年は、冬の終わりから夏の終わりまで天候が非常に複雑で生産量がとても少なかったと言う。だから、単一区画の銘柄ではなくこの「ムーランナヴァン」のラベルで出すこのキュヴェを優先したそうだ。

「気候変動の典型的なサンプルとも言えます。春の遅霜、干ばつ、そして熱波が7月にも9月にもありました。だから2019年の香りはアロマティックでエレガントですが色はあまり濃くありません。デンシティとエレガンスがあり、力強いわけではなく、タンニンはシルキーです」。

クリュ、区画による違い

シリルは本当はクリュ・ボージョレの中でもそれぞれの区画ならではの特徴を表現したいと考えていて、説明をしてくれた。しかし残念ながらまだ今の日本市場では伝わりにくいのが現状だ。

「ムーランナヴァン ラ・ロッシュは、風が強く岩がちで表土が少ないため耕すのが困難。この畑のブドウは常に凝縮しフルボディー、よりストレートでミネラリー。そして、クロ・デュ・グラン・カルクランと道一本隔てているだけだが土壌が全く異なる」。

「ムーランナヴァン クロ・デュ・グラン・カルクランは、肥沃な土壌。常により成熟して丸みあるワインができる。収穫も一番早い。これら2つの畑は18世紀の地図でもすでに記されている」。

「ムーランナヴァン クロ・デ・ロッシュグレは、標高は350m(上の2つは250m)にあり10haほどの丘の畑。こちらは収穫は常に最後で、カルクランより1週間から10日遅い」。

「モルゴンのコート・デュ・ピュイは、標高350mほど。ロッシュグレと向きも同じで醸造も同じにしている。より多くの有機質にアクセスできるため、色が濃くなるしロッシュグレより凝縮感やストラクチャーが強くなる。だから、ストラクチャーが強くなりすぎないように注意している。とくに2015年、 2018年はとてもフルボディだった」。

説明を聞いていて納得する。そして、聞いていて飽きない。しかし、日本市場ではなぜかあまり「クリュ・ボージョレ」がなかなか注目されないのだ。どうしたら、その良さが伝わるだろうか。プルミエ・クリュの格付けができる15年後、あるいは20年後まで待たなければならないのだろうか。

(Y. Nagoshi)

輸入元:日本リカー

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