ジンファンデルの泰斗、ターリー・ワイン・セラーズ カリフォルニア最古の畑の数々から粋を集めたラインナップ

9月はカリフォルニアワインマンス。そして、日本では今年、新たに9月9日が「カリフォルニアワインの日」と制定された。日付はカリフォルニアがアメリカ合衆国の31番目の州として編入された1850年9月9日に因む。アメリカ最大のワイン生産地であり、ナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨン、ソノマのピノ・ノワールなど、世界に名を轟かすブランドも多いカリフォルニア。そんな中、最もカリフォルニア的と言える品種、ジンファンデルとプティ・シラーを愛してやまないワイナリーに目を向けてみてはどうだろうか?

 

ターリー・ワイン・セラーズは、今年、創設30周年を迎えた。初来日したセールス&マーケティング・ディレクターのクリスティーナ・ターリー氏は、ターリー家4人姉妹の長女だ。父のラリー・ターリー氏は、ロバート・パーカー氏がワインの女神と称したワインメーカーのヘレン・ターリー氏の弟であり、ナパ・ヴァレーのフロッグス・リープ設立者の一人でもある。同ワイナリーで成功を収めたものの、彼は次第にジンファンデルとプティ・シラーに傾倒し、特に古木のブドウへの関心を深める。1993年にセント・ヘレナに自身のワイナリーを設立。現在ではパソ・ロプレスとアマドール・カウンティにもワイナリーを持ち、北はメンドシーノから南はパソ・ロプレスまで、50の畑から50のワインを生産、うち35がジンファンデルだ。多くの畑は古く、その歴史は1800年代後半にまで遡るものも少なくない。樹勢の弱い朽ち果てそうな老いたブドウの木を有機栽培で管理し、命を繋ぐ。前職で20年以上、緊急救命室の医師として働いた経験から、どんなものでも蘇生できるという信念を持ち、古木のブドウに愛情を注いできた。

ワイナリーは、セント・ヘレナの150年樹齢のオリーブの木に囲まれた土地にある。ナパ・ヴァレーでは、より高値のワインを産むカベルネ・ソーヴィニヨンに植え替える動きが目立つ中、ターリーはアメリカの文化とも言うべき品種を継承すべく、設立以来ジンファンデルの植樹を続けている。 栽培は全てオーガニックでCCOFの認証を取得。ワインの発酵は全て天然酵母による。それが、単一畑の特徴を顕わに表現するからだ。

セント・ヘレナ公立図書館の真裏にあるライブラリー・ヴィンヤードはナパ・ヴァレーに残る希少な畑だ。

1880年から1920年にかけて植樹されたこの畑の品種構成は、極めてユニーク。プティ・シラーを中心に、プルールサン、サンソー、シラー、ミッション、アリカンテ・ブーシェ、グラン・ノワール、カリニャン、グルナッシュ、ジンファンデル、マスカット・アレキサンドリア、ミュスカデルなど、赤白併せて25品種が混植されている。
150年樹齢の畑をキープするより、ホテルでも建てた方が効率が良いという意見もあった。ターリーはこの畑の苗木を自社畑に植え、この文化的・歴史的価値を後世に伝えようとしている。

紹介されたワインは、左から、ホワイト・ジン・ロゼ2021、リナルディ・ジンファンデル2020、ペセンティ・ジンファンデル2021、キルシェンマン・ジンファンデル2021、ドラゴン・ジンファンデル2021、エステート・プティ・シラー2012。

ホワイト・ジン・ロゼは、3つの自社畑、植樹の古い順にパソ・ロブレスのアマデオズ、アマドールのバック・コブ、ナパのエステート・ヴィンヤードから。1970~80年代に人気を博した甘口のホワイト・ジンファンデルは、カベルネ・ソーヴィニヨンなど他品種への転作に歯止めを掛け、ジンファンデルの歴史を守った。このワインは、ステンレス発酵の後、ニュートラルオークで6~7か月熟成し、辛口に仕上げている。

シエラ・フット・ヒルズのリナルディは、米国西海岸で最古の畑。古いものでは1860年植樹の木もある。ジンファンデルをメインに、ミッション、カリニャン、グルナッシュ、サンソーが混植。全て灌漑なしの株仕立て。根が深く伸び、旱魃にも強くブドウの寿命長くなるため、新しい植樹もこの仕立てにしている。通常のジンファンデルは果皮が薄くタンニンは少ないが、ここはカリフォルニアなのに冬に雪が降るほど標高が高いため、タニックで骨格ある味わいとなる。

パソ・ロブレスのペセンティは、1920年植樹の畑。1千万年から1500万年前のクジラの背骨の化石が出たという土地には、チョークのような色の大きな石がゴロゴロ。この石灰質土壌が、温暖で果実味豊かなワインに活き活きとした酸をもたらす。ジンファンデルをメインにカリニャンとグルナッシュも。

ローダイのキルシェンマンは、ターリーのワインメーカーであるティーガン・パサラクアが所有する1915年に植樹の畑。石灰質土壌の上に1.2mの厚みの砂質土壌があり、これがフィロキセラほ寄せ付けないが故の自根だ。ワインはレイヤーあり複雑、パフューミーな果実感。砂質からのシルキーさがあり「良いワインはテクスチャに現れる、手法ではごまかせない」と、造り手は言う。

ナパ・ヴァレー最古のAVAハウエル・マウンテンのドラゴンは、標高685mと、1500フィート(≒460m)以上という規定が設けられているこのAVA内の中でも高い位置にある。霧の上で日照時間は長いが東向きなので朝の柔らかな日差しを受け、タンニン強くスパイシーでも、西向き畑ほどの荒々しさはない。ラリー氏が最も好きなワイン。

エステート・プティ・シラーは、前出の畑の区画図にあるように、ジンファンデルに隣接している。この畑を入手した時点で垣根仕立てで植えられていたため、この区画は灌漑をしている。ナパでは多くの場合、色や骨格を出すためブレンド用に用いられる品種だ。房は小さく果皮厚く、長期熟成ポテンシャルがある。10年の熟成経て殆ど色の変化がないという。

独特の形状のボトルは、ラリー氏がデザインしたオリジナルだ。ボルドー型、ブルゴーニュ型のような典型スタイルがジンファンデルにはなかったからだ。若干ブルゴーニュ寄りなシルエットは、クリスティーナ氏の継母がブルゴーニュワインの輸入に携わっていたため、家族経営の小さなワイナリーという想いを反映させてのこと。キャップシールの天面に配置された4つの星は、4人姉妹を表している。ボトルをひっくり返してよく見ると、パントの真ん中に星形のエンボスを見つけることができる。これは若くして他界した弟を表しており、ここにも家族の結束力の印が。こんなトリビアをコミュニケーションツールに、カリフォルニアワインマンスを楽しむのも良いかもしれない。

(Saori Kondo)

 

 

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