フェッラーリのシェフ・ド・カーヴ、シリル・ブラン氏が語るトレンティーノ

シャンパーニュからトレンティーノへ移住し、2023年にフェッラーリのシェフ・ド・カーヴに就任したシリル・ブラン氏が、「トレンティーノのシャルドネとピノ・ネロのポテンシャル」セミナーに登壇!

数年前のある日、シャンパーニュの有名醸造家の一人であるシリル・ブラン氏に関するニュースが飛び込んできた。今でも当時の驚きを記憶している人は多いのではないだろうか。シャンパーニュのアイ村生まれのブラン氏は、ヴーヴ・クリコで15年勤務した後、2015年からシャルル・エドシックでシェフ・ド・カーヴを務めた人物だ。その彼が2023年に、北イタリアの山の産地トレンティーノを代表するフェッラーリのシェフ・ド・カーヴに就任した。

そして今年6月、フェッラーリの人になって初めて来日しセミナーで語った。シャンパーニュを知り尽くした彼は、この産地を、そしてフェッラーリをどのように見て、どのように進化させたいと考えているのだろうか。

シャンパーニュ人から見たトレンティーノ

「すぐにトレンティーノのテロワールの素晴らしさに気が付きました。この地の山の気候は世界でも唯一無二で、ブドウはゆっくり成熟し、ワインにフレッシュさや純粋さ、テンションやフレッシュな酸をもたらします。しっかりとした酸の真っ直ぐなさまに驚きました」と、シリル・ブラン氏は口火を切った。

トレンティーノは標高が250〜700mと幅広く、標高の違いによりそこから生まれるブドウの個性が異なる。一方でシャンパーニュは、土壌が多様で土壌の違いによりニュアンスが異なる。トレンティーノは山、そして岩である。そして山でありながら、南にあるガルダ湖からの風も入り込む。複数の風の影響によりこの地ならではの特別な微気候が生まれている。今では世界中で気候変動が問題視されているが、この山の気候はそれほど大きな影響を受けていないという。

「フェッラーリのスパークリングワインを試飲した時、その酸やフレッシュさはまるで1980/1990年代から2000年代初頭の黄金時代のシャンパーニュのようだと思いました。昨今シャンパーニュは、酸も減少しよりソフトになってきています。トレンティーノならではの酸の高さは重要だと考えます。そして、フェッラーリの自社畑は全てオーガニック認証を取得しています。冷涼でありながら湿度が低く、常にフレッシュな風が流れているといった条件が整っているのです」。

現在栽培している品種は、シャルドネが95%を占め、ピノ・ネロはロゼ用。仕立ては主にペルゴラシステム(伝統的な棚仕立て)で、日中は暑くなるほどで葉は日照量を十分に得られる一方で、葉がブドウを隠すこともない。手入れや収穫時に身をかがめなくて良いことも利点の一つとなっている。

フェッラーリのCEOマッティオ・ルネッリ氏(右)と、シェフ・ド・カーヴのシリル・ブラン氏(左)。

 

トレンティーノへ向かった理由

おそらく皆が聞いてみたい質問の一つだろう。なぜブラン氏はトレンティーノへ移る決断をしたのか、自ら語り始めた。

「25年間以上シャンパーニュのメゾンで仕事をして、正直とても居心地が良かったのです。ただある日、自分の技術や能力を何か他のことに役立たせてみたい、と思うようになりました。コンフォタブルゾーンから出て、挑戦したいと。そして、コロナ禍の直前にマッテオ(フェッラーリのCEOマッティオ・ルネッリ氏)とロンドンで出会う機会がありました。その後、トレンテイーノを訪問することになり、畑や醸造所を見学したのですが、山のインパクトが大きかったですね。ただ当時は、マッテオが新しいワインメーカーを探していたことも知りませんでした。その後に打診を受け、家族にも相談した後、もう一度現地を訪問して再度このテリトリーを確認しました。そこで確信し、移住を決めたのです。家族を説得し、およそ1年後にトレンティーノに引っ越しました。何度か聞かれたのですが、シャンパーニュに住んでコンサルタントを、とは考えませんでした。畑から全て携わることが条件でしたから。今ではパスタも上手に茹でられるようになり、イタリア語も少し話しますよ」と、ブラン氏は笑う。

シェフ・ド・カーヴ就任から未来へのヴィジョンまで

フェッラーリに到着してまず行ったのは、細部を見て回ることだったという。最初の1年はずっと話を聞き、動きを観察して分析することに集中した。この地域、そしてここで仕事をする人のマインドなど全てを理解するまでは何も手を出さなかった。そして、中長期の計画を立てた。

「まず、プレス。コカール社のプレス機を3台注文してもらいました。目的は、果汁の品質を高めるためで、キュヴェとタイユ、そして第2タイユに分けることができます。1社で3台持っているのは珍しいと思いますよ。質の高い果実を手に入れて、正しくプレスすることがスタート地点で、ここが正確にできなければずっとそれを引きずることになります」。

「一方で、シャンパーニュとは異なり気候に恵まれているためヴィンテージによる差異が少ないというアドバテージがあります。そのためここでは、リザーヴワインはヴィンテージの差異を補ったり一貫性を得たりするためではなく、クリーミーなテクスチャーや厚みを出すのに貢献します」。

そして、1,800万本のボトルを貯蔵可能なセラーも増設。リザーヴワインを1万2,000hl貯蔵可能な設備の準備も行なっている。昨年は新しいタンクも導入した。さらに昨年の収穫からインターンの若者も参加しているという。今後、畑においても新たなクローンの植樹、より標高が高い場所での畑の開拓なども視野に入れているようだ。

また、ドザージュ量について以下のように答えた。

「ブリュットで6〜7g/ℓ、ヴィンテージで4〜5 g/ℓ、ジュリオ・フェッラーリで1〜2g/ℓ。 パ・ドゼは、バランスが崩れ、地域の個性がうまく表現できない。また、長期熟成のためのエネルギーを与える要素の一つでもあるし、デゴルジュマンの際に空気が入ることでワインはショックを受けるためそれを補う役割を果たしている。ドザージュの量を変えるというより、ワインの特徴を見ながらキュヴェごとに、テイラーメイドのリキュールを準備する。ジュリオ・フェッラーリのドザージュが少ないのは、個性の詳細をより明確に表現するため。例えば40年前は12〜15g/ℓだったので糖分が細かな個性をマスキングしてしまっていた。ロジックに考えていけば全てが正しい方向へ進んでいくと考えている」。

さらに、次へのステップとして、チームワークを今まで以上に重要視するという。

「知識の共有が大切だと考えている。UNICATT や Fondazione Mach といった複数の大学との連携により、AIと人のブレンドを比較するなどAIを使用した醸造も研究している。そして、強みと弱みを判断するため、畑から出荷までのデータベースも構築している。

シリル・ブラン氏により、フェッラーリがどのように磨きをかけていくのか、今後も目が離せない。以下に、試飲に供されたキュヴェについて記す。「」内はブラン氏による解説。

 

FERRARI Perlé Millesime 2019

400mほどの中程度の標高のシャルドネを使用。タンクごとに試飲し、ブレンド。

「クリスピーな酸味と直線的な様子がトレントを象徴し、食事ととてもよく合うキュヴェです。スムーズで、クリーミーやしっかりしたボディーもあり、余韻もフレッシュです」。

 

 

FERRARI Perlé Rosé Riserva 2017

80%がピノ・ノワール、20%がシャルドネ。ピノ・ノワールの半量は、10〜12時間ほどのショートマセレーション。

「ここではとても健全なピノ・ノワールの果実が得られます。そしてこのキュヴェでは、果実風味を前面に押し出すよりもデリケイトでフレッシュな果実を求めています。優しくスムーズなタンニンとミーティーさがあるため、白身肉にも赤身肉にも寄り添い、エビ、タコ、マグロ、トロとも合うと思います。赤ワインをブレンドするケースが多いシャンパーニュとは、香りやタンニンのポテンシャルが異なります。ただ、イタリアではスパークリングのロゼの歴史が浅く、ここ40〜50年ぐらいのこと。ピノ・ノワールを栽培する区画についても調査中です。また、ブルゴーニュやジュラから新たなクローンも取り寄せ始めているところです」。

FERRARI Riserva Lunelli 2015

フェッラーリ100周年記念の2002年が初ヴィンテージ。創業当時に戻り、40hlのフードルを使った醸造を復活。

「樽熟成によりソフトになるにも関わらず、酸が高いワインをあえて選んでいるため、長期熟成可能なキュヴェです。ちなみに、フェッラーリにはストッキンガー製フードルが40個もあります。今後はストッキンガーの樽をブリュットやマキシマムにも使っていこうかと考えています。またこのキュヴェのために、ブルゴーニュグラスよりも大きめのグラスを開発中です。これは『野田岩』のうなぎにもよく合います」。

Giulio Ferrari Riserva del Fondatore 2010

創業者へのオマージュ。エクストラ・ブリュット。標高500-600mに位置する南西向きの、マーゾ・ピアニッツァ区画のシャルドネのみ。小さな平らな畑で、渓谷にあるため日照時間が短いが強い。

「ユニークなアイデンティティがある単一畑で、毎年は造りません。純粋性を保つため発酵はステンレスのみ。ここの土壌はチョークではなく岩ですが、『チョーキー』という言葉をよく聞きます。うま味があり質が高いという意味だと理解しているため、ミネラリティに近いかもしれません。泡立ちも細やかでシルキーなテクスチャーを持ち合わせています」。

FERRARI Perlé Millesime 2006 

最後に特別なキュヴェが供された。家族用にとっておいた古いヴィンテージを、時々フェッラーリファンへ向けて再販しているものの一つ。

「完璧なコンディションで保管され、バランスよく、とてもクリーミー。複雑性や熟成可能性はとても重要なこと。ペルレはトレントDOCのアンバサダー的な存在のキュヴェで、まさに今のピークの状態で皆さんと分かち合いたいと思い、本日試飲アイテムに選びました」。

輸入元:日欧商事

(text by Y. Nagoshi)

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