チリのクール・クライメット・シラー

チリでシラーを栽培し始めたのはそれほど古いことではない。エラスリスの説明によると1993 年にアコンカグアの畑に植えたシラーがチリ初のものだという。誰が最初に植えたのかは諸説あるだろうが、シラーはもともとチリにはなかった品種で1990 年代になって植えられたことに疑いはない。

そして歳経る毎にシラーの植栽が進み、2014 年には植栽面積8,432haになっている。カベルネ・ソーヴィニヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、メルロ、シャルドネ、カルメネールに次いで6 番目に大きな面積である。

シラーの植栽はアコンカグア、マイポ、コルチャグアなど比較的暖かいDO に植えられた。そして2000 年代になると幾つかのワイナリーが特別なシラーのキュヴェを上市するようになる。それでシラーの栽培適地はコルチャグアと言われた時期もあった。それらは当時の時代背景もあって、一様に濃くてパワフルで重いワインだった。

 

このところチリでもシラーの新潮流、クール・クライメット・シラーが台頭してきた。カベルネ・ソーヴィニヨンやカルメネールの栽培地でシラーを栽培してもシラーの品種特性を表現することが難しいと感じた生産者が、冷涼地にシラーを移植したのが始まりだった。

いま、新しいシラーの畑は太平洋に近いサン・アントニオやアコンカグア・コスタ、さらには北のリマリヴァレーに広がり始めている。これらの冷涼地シラーに共通しているのは胡椒などのスパイスの香りが立つことである。以下、チリの代表的な冷涼地シラーを紹介しよう。

 

<マテティッチEQ シラー>

DO サン・アントニオ。1999 年にマテティッチ家が海岸山脈の海側ロサリオ・ヴァレーにシラー(クローン174、300、470)を植えた。チリにおける冷涼地シラー栽培の草分けともいえる存在だ。畑の土壌は海岸山脈の古くて痩せた花崗岩質崩積土である。マテティッチは大きなリスクを覚悟でビオディナミ農法を採用した。単収は5トン/ha。

 

7 日間のコールドソークの後、ステンレスの開放タンクでパンチダウンとポンプオーバーを併用してアルコール発酵。MLF はフレンチオーク樽で行い、そのままボトリングまでの18 か月間を樽熟成。

 

黒いフルーツとスミレなどのフローラルなアロマ、そして黒胡椒の香り。滑らかなアタック、ソフトでエレガントなテクスチャー、きりっとした酸味と滑らかなタンニンのバランスが素晴らしい。瑞々しさが活きている。

 

<エラスリス・アコンカグア・コスタ・シラー>

DO アコンカグア・コスタ。エラスリスがマンサナル畑に2005 年と2009 年に植えたもの。この畑は太平洋岸からわずか12km に位置する冷涼地。土壌は薄いローム層の表土、その下層は粘土と変成岩である。シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワールを主に栽培しているが、少量のシラーとメルロもある。そのクール・クライメット・シラーで造ったのがこのワイン。

 

ラズベリーやスグリなどの果実香とともに黒胡椒が強く香るのがこのシラーの特徴。味わいにも果実とスパイスがあり、タンニンは滑らか、瑞々しさが活きている。2014 年産の総酸度は6.09g/l、pH3.54、アルコール分は13%。

 

エラスリスはマンサナル畑のあるチルウエからアコンカグア川に沿って少し内陸に入った(海岸線から40km)ラス・ベルティエンテスにもシラーを植栽しており、こちらはアルボレダのブランド名で販売している。ちなみにラス・ベルティエンテスの対岸にセーニャの畑がある。

 

<マイカス・デル・リマリ・ロス・アカシオス・シラー>

DO リマリ。マイカス・デル・リマリはコンチャ・イ・トロがDO リマリで造るワインの名前。リマリはサン・アントニオやアコンカグア・コスタから500km 以上も北に位置するが海風を遮る海岸山脈がなく直に内陸部まで吹き付けるのでとても涼しい地域だ。また土壌に多くの石灰質を含んでおり、これはサン・アントニオやアコンカグア・コスタと異なるところだ。

 

ロス・アカシオス畑はリマリ川南岸のアンデス側にあって土地の起伏が大きい。このシラーはその斜面に植えたもの。5,000 ℓのフードルで18 か月熟成している。

 

ブルーベリーなどの果実と胡椒の香りがあり、ここにチョークのニュアンスが加わる。きっちりした丸みあるタンニンと繊細な酸味、口中はとても瑞々しい。(K. Bansho)

画像:DOサン・アントニオ

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