豪州ワインの今 スティーヴ・ウェバーが語る冷涼気候におけるワイン造りのトレンド

オーストラリアワインのガイドブックとしては最も権威があり、広く読まれている『Halliday Wine Companion』の最新2017 版のなかで、“Ten of the best value wineries” の一つにDe Bortoli Yarra Valley が選ばれた。その理由は、ヤラヴァレー最大のワイナリーであるだけでなく、あらゆる価格帯をカバーする幅広いポートフォリオを持ち、しかもその3 分の2が値頃感の高い“ロゼット(花飾り)”であるからだ、としている。今年半ば、新たにアッパー・ハンターにあるLusatia Park Vineyard を購入した。また、新しいワイン「WOODFIRED Heathcote Shiraz 2015」をリリース。このワインは日本でも、12 月上旬に肉専用の業務用ワインとして発売される予定だ。

デ・ボルトリ家ファミリーメンバーの一員であり、ヤラヴァレー・エステートの醸造責任者を務めるスティーヴ・ウェバー氏がこのほど9年ぶりに来日し、冷涼ワイン産地ヤラヴァレーの特徴と最近の傾向について、次のように紹介した。

ヤラはピノ・ノワール、シャルドネ、そして近年作付けが増えているシラーズを主要品種として、様々なスタイルのワインを産出している。しかし、最近ではガメイ・ノワール、( アロマティックなスタイルの) ピノ・グリ、ピノ・ブランなども人気に。また、個人的にはサンジョヴェーゼも興味深い品種で、ピザやパスタなどと一緒に楽しむことができる品種だと考えている。

ヤラヴァレーでは夏の成育期に、どこから風が入り込んでくるかによって気象条件が変わってくる。南西部から風が吹けば冷涼な海洋性気候の影響を受けるが、北から吹き込めばより温暖な気候となる。一般に北部のアッパー・ヤラは火山性の赤い玄武岩が多く、比較的温暖、ここではピノ・ノワールの栽培が向いている。一方、南の冷涼なロワー・ヤラは堆積土壌で砂岩が多く、ミネラリーでエレガントなシャルドネが多く産出されている。

自分はビオディナミの効果を信じ、一部の畑で実践している。しかし、デ・ボルトリがヤラに所有する3つの畑は500ha と広いので、その全てでビオディナミを実践することは不可能だ。そのため、耕作方法は何かと問われれば『サステイナブルを実践している』と答えるしかない。しかし、ヤラヴァレーの自社畑で計測してみると、土壌中の微生物や虫の棲息量は過去10年で4倍に増えた。また、キャノピーも益虫をより活発化させる上で重要な要素となっている。

ヤラヴァレーでは12年前にフィロキセラが発見された。現在は自根で栽培されている畑が少なくないが、遅かれ早かれリスクを回避するために台木を使い、改植しなければならないだろう。その際に重要なのはクローンの選択だ。ピノ・ノワールの場合、ヤラに適しているのはエイヴル、ポマール、667 の3つ。777 は比較的熟成が早く進行するので、オーストラリアには向かないと考えている。

オーストラリアのピノ・ノワールは高品質でありながら、比較的手頃な価格で提供できるのが強みであり、その点では世界中どこのワインと比較してみてもベスト・ヴァリューなワインだ。しかし、シラーをはじめとしてこれまではフランス系品種が多かった。地中海系、あるいはポルトガルやスペイン系の品種が良く育つ適地でもあるので、食事との相性にもっと意を払いながら、グルナッシュやトゥーリガ・ナショナルなどの栽培にも取り組むところが増えてくるだろう。

さて、コンラッド東京のエグゼクティヴシェフの森覚氏をコメンテイターに行われた試飲では、シャルドネ2 種、ピノ・ノワール5 種、シラー1 種の計8 種のワインが供された。

Yarra Valley Single vineyard Selection A8 Syrah 2012

1971年植樹の古木のぶどうを使ったワインで、あえてSyrahと表記している。60%は房ごと、40%は粒ごと入れて開放式発酵槽で自然酵母により発酵。Alc.13%。「海外に住んでいる人がこのワインを試飲すると、皆驚く。ローヌのシラーに近いスタイルをもっている」とウェバー氏。森氏も「ブラックチェリーやチョコ、タニックでアルコールも高い多くのオーストラリア産シラーズとは対極にある。アタックが滑らかで、テクスチャーの細やかさ、ピュアな味わいは今日試飲したワインに共通するものだ。シラーは良く成熟すると、質感やタンニンの現れ方がピノ・ノワールと見分けが付かなくなる。このワインも熟成すると、ピノ・ノワールのようなエレガントさを出すだろう」という。

全房発酵について、「アルマン・ルソーやボギエなど、自分の敬愛するブルゴーニュの造り手は除梗をしている。自分も数年前まではまったく全房発酵は行っていなかった。しかし、どうやって産地としてのオーストラリアを表現するかを考えた時、よく熟した房を全房で発酵すると香りが良く抽出されることが分かった。近年では、平均して10 ~ 30%の比率で行っている。全房を行うかどうか、やるとすればどのくらいの比率でやるかはヴィンテージなどによっても異なるが、これから先10年間は、全房発酵の効果についてもっと研究を進めたいと考えている」とウェバー氏は語っている。 (M. Yoshino)

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