特集ウイスキー ニッカのブレンド技術特別講座 佐久間正チーフブレンダー

先ごろニッカウヰスキー柏工場でブレンダー室見学会と特別テイスティング講座が開かれた。そこで佐久間正チーフブレンダーは、ブレンデッド・ウイスキーを「うつくしい花束」だと表現した。そして、ウイスキーのブレンドとは、「さまざまな個性をバランスよく調和させて、新しい個性を作り上げること」だと力説した。

 

ニッカにはパテントスティルで蒸留し熟成させたカフェグレーンがあり、これをさまざまなタイプのモルトとブレンドしている。「モルトはひとつひとつが綺麗で華やかな花。カフェグレーンはその花を包み込むカスミ草。カフェグレーンがモルトを包み込んで、ブレンデッド・ウイスキーという美しい花束となる」という。

 

ニッカウヰスキーには創業者・竹鶴政孝の目指した理想のウイスキーづくりがある。竹鶴政孝は異なるタイプのモルト原酒と、カフェグレーン原酒をブレンドすることで、スコッチに負けない本物のウイスキーづくりを目指した。そのために異なる気象条件のもとに立地する二つのモルトウイスキー蒸留所と、連続式蒸留機でグレーンウイスキーをつくる蒸留所がある。

 

1934年に建てた余市蒸溜所は、ストレート型ポットスティルで石炭直火蒸溜を採用し、重厚で力強いモルトをつくる。1963年から採用しているカフェ式連続式蒸溜機からは、やわらかく味わい深いカフェグレーンが生まれる。1969年建設の宮城峡蒸溜所は、バルジ型ポットスティルでスチーム間接加熱蒸溜をし、華やかでフルーティなモルトをつくっている。

 

竹鶴政孝は自著「ウイスキーと私」の中で次のように語っている。

「ハイランドタイプのモルトをつくる工場(北海道)、ローランドタイプのモルトをつくる工場(仙台)、それにカフェ・グレーンモルトをつくる工場(西宮)をもつことなどは、資金だけではなく、限られた残りの人生から見ても、全く夢であった。三百数十年の歴史をもつスコットランドでも、三つのタイプの工場をつくった企業も人もいない筈である」。

 

佐久間正はウイスキーのブレンダーの役割は三つあるという。それは、①商品の味わい・品質を維持すること、②将来を見据え新しい原酒をつくること、③新しい商品をつくることである。ニッカの味わいと品質を維持するために、「ブレンダー同士で共通の感覚をもつことが必要だ。そのために毎日100~150種類の原酒を評価しあい、それぞれが感じた原酒の感覚を共有する。認識のずれているものを見直し、ギャップを少しずつ埋めていく。そして表現は少し違うけれど同じ香りのことを指していることが互いにわかるようになっていく」という。

 

一つのウイスキーをつくる処方はブレンダーによって異なる。方程式はなく、方法は無限にある。それでも同じ味のものをつくり品質を維持できるようにするためだ。また、将来を見据えた準備、新商品の開発というブレンダーの役割について、

「よりよく熟成させるための原酒の手入れを怠らず、常に新たなタイプの原酒づくりに挑戦する。いつかそれが必要となる未来のために原酒を作り大切に育てていくことが求められる」と、佐久間は考えている。

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