特集ウイスキー マスターブレンダー 田中城太氏に聞くキリンディスティラリーのブレンデッドウイスキー

春まだ浅い3月半ば、キリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所を久しぶりに再訪した。標高およそ620m。周囲を森に囲まれた閑静な蒸溜所の総敷地面積は55万8000坪。展望台に上がれば、きれいに澄み渡った青空の下、木立を透かした先に雪面をキラキラと照り返す富士山の雄姿が迫ってくる。

キリンディスティラリーの創業は1972年。米国J.E.シーグラムと英国シーバス・ブラザーズ、そしてキリンビールの3社合弁事業としてスタートした。創業当初からスコットランドだけでなく、アメリカ、カナダにおける当時の最新蒸留設備と技術を投入し、そこにさらにキリン独自の醸造技術やきめ細かな造り込みノウハウを融合させ、日本人の嗜好にあったウイスキー造りを目指してきた。一つの蒸留所のなかにモルトとグレーン両方の蒸留設備を有し、仕込~熟成~瓶詰に至るまでの全ての工程を完結させている世界的にも珍しい蒸溜所だ。

マスターブレンダーの田中城太氏に、キリンディスティラリーにおけるブレンデッドウイスキーづくりの基本思想やこだわりなどについて話を伺った。

 

「富士山麓」の基本コンセプト

創業当時からの製品である「ロバート・ブラウン」に代表されるように、キリンディスティラリーではブレンデッドウイスキーに軸足を置いてきた。

現在の代表的製品である「富士山麓 樽熟50°」は2005年に発売されたが、2016年にフルリニューアルを実施。名称や意匠、中身を一新し、「富士山麓 樽熟原酒50°」として新発売した。新たに“原酒”の文字を加えたことは、“原酒の味わいそのままに”という基本コンセプトをブランド名に反映させたため。

富士御殿場蒸溜所のこだわりの一つに、アルコール分50%でモルトウイスキーの樽詰めを行っていることがある。また、モルトウイスキーと同様に、グレーンウイスキーも味わいの鍵を握る原酒は“キーグレーン”と呼んでいる。3つの異なる蒸留器を使ってグレーンウイスキーを製造しているが、そのひとつダブラー(Doubler)はシーグラム社が開発したもので、バーボンウイスキーでは今日では一般的な蒸留器。香味が華やかで、重厚な味わいの原酒を生み出す。富士御殿場蒸溜所ではこの原酒をアルコール度数55%で樽詰めを行っている。

富士山麓 樽熟原酒50°

モルトウイスキーは一般的にアルコール分63~65%で樽詰めされることが多い。同様にグレーンウイスキーも65~67%、ところによっては70%という高いアルコール度数の状態で樽詰めし、40~43%に加水したのちにブレンドしている。しかしこの加水によって原酒の性状は変わり、濁りもでることから冷却濾過が必要だ。

キリン富士御殿場蒸溜所ではモルトもグレーンも通常より低いアルコール度数で樽詰めし熟成させているため、「富士山麓 樽熟原酒50°」は“樽出し”後のブレンドした段階で50%に近い状態を実現し、熟成原酒の風味をそのまま瓶に封じ込めている。ノンチルフィルタード製法でうまみを残す所以もそこにある。

 

キーモルト&キーグレーン

富士御殿場蒸溜所では様々な熟成原酒を製造しているが、大きく分けて、モルトで2つ、グレーンで3つの香味タイプの異なる原酒を製造している。

モルトウイスキーはフルーティ・タイプとピートを仄かに感じるモルティ・タイプ。

一方のグレーンウイスキーは、ヘビー、ミディアム、ライトの3タイプ。原料はアメリカ産のトウモロコシ(デント種)を主体に、麦芽と一部ライ麦を使用。さらにユニークな点は、一般的なマルチカラム(多塔連続式蒸留器)に加えて、連続式蒸留器であるダブラー(Doubler)や、バッチ式蒸留器ケトル(Kettle)を併用し、特長の異なる多様なグレーンウイスキーを製造していることだ。

富士山麓 シグニチャーブレンド

ダブラーの場合、蒸留液を取り出した段階でのアルコール度数は70%。香味を引き出すために加水して55%に調整した上で、樽詰めを行っている。バーボンと同じように新樽熟成を行っているため赤みがかった濃い色調。最も香味成分が残って重厚な、ヘビータイプのグレーンウイスキーができあがる。世界でこのダブラーを使っているところは米国以外ではほとんど無いと思われる。

もう一つのグレーンウイスキーは、ケトル(Kettle)と呼ばれるバッチ式蒸留器を使ったもの。ケトルの特徴は香味が良く残り、滋味が豊かでミディアムボディ。先の「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」2016&2017 でワールド・ベスト・グレーンウイスキー賞を連続受賞した「富士御殿場蒸溜所 シングルグレーンウイスキー AGED 25 YEARS SMALL BATCH」はこのケトルを使ってつくられたものだ。

通常のマルチカラムを使った原酒は3種のグレーンウイスキーのなかでは最も味や香り成分が少なくライトなのだが、後述するように、ブレンドにおいては非常に重要な役割を担っている。(M. Yoshino)

つづき(ブレンドの意味/マチュレーションピークとは?/お薦めの飲み方)はWANDS 2018年4月号をご覧ください。 ウォンズのご購入・ご購読はこちらから  紙版とあわせてデジタル版もどうぞご利用ください!

キリンディスティラリーでは、富士山の標高2000mに降った雪が地中に吸い込まれ、50年の歳月を経て蒸溜所の地下100mにたどり着いた伏流水を仕込水として使っている

 

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