ミクロ・パーセルでさらに緻密に シャトー・レイソンの飽くなき探求心

丹精な造りでありながら、親しみやすい魅力も大いに発揮するのが、オー・メドックのクリュ・ブルジョワ、シャトー・レイソンだ。

サンテステフに隣接するヴェルトゥイユ村に位置し、比較的平坦なオー・メドック地区の中では珍しく起伏のある一帯で、丘の斜面や台地の上に畑が広がっている。空気の通り抜けもよく、2017年にボルドーを襲った霜害時も、冷気が籠らず被害を免れたそうだ。また表土は粘土質に覆われているが、地下は石灰岩を多く含んでおり、サンテミリオンの台地やシャンパーニュをも彷彿させる特殊な土壌を織りなしている。それがオー・メドックの中でも個性的な存在感を放つ源となっているのだ。

 

老舗のネゴシアンでシャトー経営やワイン造りにも造詣の深いドゥルトが、2014年にシャトー・レイソンの将来を担い、さらなる品質向上を目指して果敢な挑戦を続けている。すでに2000年代前半から、当時の所有者であるメルシャンから管理を任されおり、共同での改革も手掛けてきた。テロワールを熟知し、技術も持ちあわせている。現在特に力を入れているのは、区画をさらに細分化した「ミクロ・パーセル」の分析と、それに応じた栽培方法をとることだ。トータル54haの畑に約35区画あるが、同一区画内でも土壌の微妙な違いや品種、樹齢、畑の向きによって熟度や品質にバラツキが出るため、さらにいくつかに区分けし、耕作やパリサージュの仕方など、異なる手法を実践する。例えば樹勢の強い区画は、畝の雑草を残してブドウの樹の生育を調整する。またパリサージュを高くして通気性をよくし、ブドウの成熟を促進する。こうすることによって全体的に均質な収穫が得られるのだ。

 

また特異な土壌をよりよく活かすための植え替えも、精力的に行っている。2003年以降、早熟で石灰岩の土壌に適したメルローの割合を増やし、砂質の区画のカベルネ・ソーヴィニヨンを抜き去った。そして不意の気候変動にも適応できるよう、カベルネ・フランやマルベック、プティ・ヴェルドなど、メルロー以外の品種を植える実験も試みた。その結果、比較的粘土質土壌と相性の良いカベルネ・フランは、石灰岩の少ない赤粘土質の区画に植え、痩せた土壌で程よく水分補給も可能な区画に、プティ・ヴェルドを植える予定だ。一気に植え替えをせず、年間3%を超えないよう徐々に進めるのは、同時進行で生産するワインの質も保持するためだ。ブドウの樹を植える前には、土壌を活性化するよう2〜3年かけて整える。緑肥を施し、寄生虫対策も行う。以前から環境に優しい栽培法を心がけてきたが、ついに今年、テラヴィティスやHVE(高等環境認証)の認証も得た。さらに収穫時の選果も重要視しており、とても入念に行っている。収穫は手摘みのほか、選果システムを備えた摘み取り機を使用し、その上レセプションでは色で選別する光学式選果台もとり入れ、3段階でブドウを選りすぐる。今後は糖度や濃度を計量できるシステムも検討中だ。醸造所には、品種や品質ごとに醸造できる大きさで、温度調節可能なステンレスタンクを装備。新樽を始め、1年、2年ものの樽を使って、約1年間熟成する。現在醸造所は改装中で、今年の収穫前には新たな試飲ルームも完成する予定だ。

 

今回試飲したのは、2014年と現在販売中の2015年、瓶詰め直前の2016年、そして熟成中の2017年だ。90%がメルローで10%がカベルネ・フランだが、16年以降はプティ・ヴェルドも2〜3%ブレンドされている。

14年は暑く乾燥した年とのことだが、よく熟した赤系果実にスパイシーさも加わり、重すぎることなくフレッシュで冷涼な印象も受ける。

15年は暑さが際立ったが、収穫直前に雨に見舞われ、醸造過程で手をかけた年だという。マセラシオンを長くし、キュヴェゾンは30日間行った。赤や黒チェリーの風味とフローラルな香りなど、フレッシュで華やかな芳香が生き生きと際立ち、テクスチャーや後味も艶がある。今まさにその若々しい味わいが楽しめるタイミングだ。

16年は暑すぎることなくフレッシュさも保つことができ、メルローにとって理想的な年だったとのこと。現時点ではがっちりと力強く、締りのある密なテクスチャーが印象的で、熟成後の変化も楽しみなタイプだ。

そして霜害を免れた後、夏が冷涼だった17年。フレッシュでチャーミングな赤系果実が輝きを放ち、清涼感も感じる。骨格もしっかりとしていて、タンニンの触感も滑らかで、程よいバランスだ。それぞれ収穫年の特徴が素直に表れながら、石灰岩に由来する凛としたミネラル感が中核を成し、レイソンらしく折り目正しい印象を与えている。(T. Inoue)

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